はじのん’ずBar

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夏美の初夢



ここはどこだろう。白いもやに覆われた、それでいて明るい所。
視界はゼロ。
アタシはどうしてる?自分の足で立ってない。でも、ゆっくりと進んでいる。
そこまで確かめて初めて感じた。アタシは誰かに抱きかかえられている。
すぐに気づかなかったのはとても自然だったから。その誰かに抱えられて接しているところからやさしい暖かさが伝わってくる。
アタシは恐る恐るその誰かの顔を見る。もやの陰からうっすら輪郭が見えるだけで誰だか判らない。

誰だろう、アイツじゃないよね。アイツの55センチそこそこの身長じゃ、こんな風に抱いてもらえないよね。
『もらえない?』
何で依存形になってるわけ?アタシの憧れはカエル型宇宙人じゃないわよ。
憧れの先輩、先輩……

アタシは愕然とした。どうしてももやの向こうにその顔を想像する事ができなかったから。
思い描けるのはあの丸い顔に切れ上がった目だけ。

ずいぶん毒されてるナア。
もう、苦笑するしかない。いつでも、真っ先に思い浮かぶのはアイツだったから。
いつからかな、他人を頼るより真っ先にアイツを頼るようになったのは。
頼れる異性が身近にいることが当たり前になりすぎて。
身近に居すぎて気づかなかったのかな。
それともアタシが自分で気づかないフリしてたのかな。

アイツは地球人・ケロン人って区別しない。
アタシの方がアイツは宇宙人だって区別してた。
距離を置こうとしてた。『アイツはケロン人だから』って。

もう、ちょっと鈍いアタシにもわかっちゃった。
アタシはアイツを特別な目で見てる。
でも、アイツはアタシのことどう思ってる…………?

そう思った瞬間、見ないフリしていた心のフィルターが取れた。
後ろから襲ってくる敵から守ってくれた。
襲われかけたときに助けてくれた
運動会で一緒に走ってくれた
誕生日プレゼントを取ってきてくれた。
いつも最高のヤキイモを焼いてくれた。
ボケガエルたちの豆地獄から救ってくれた
傷だらけになりながら薬を取ってきてくれた
月で死にそうなところを助けてくれた
ぼろぼろになりながらも右手の代わりになってくれた

何度も、何度も……。

そのくせアタシが無邪気に近づいたりすると真っ赤になってた。
触れたりすると湯気出してた。

アイツもアタシのことを想ってくれてるはず……
何だ、相思相愛じゃない。

認めてしまった。でも、このすがすがしいような気持ちは何だろう。
ひょっとしてケロンと地球の星間カップルのはしりになったりして。
そしていつか……

「お姫様抱っこされてバージンロードを歩いたりしてね」
「どうした夏美、大丈夫か」
そう、私をお姫様抱っこしたアイツは聞いてくる。
え?

もうお姫様抱っこになってる?!
ウェディングドレスらしき白い衣装を着てる?!
何でこんな急展開?!

「変なやつだな、式で疲れたのか?」
アイツは例の『ペコポン人スーツ」とか言うのをびしっと決めている。だから、アタシのことも普通に抱っこしてる。

アタシは鐘が鳴り響く教会の入り口の階段をそのまま下りていた。周りでは見知った人々が祝福の声を上げている。
おめでとー
  オメデトーっ

その中の一人、間違えようもない緑色のヤツがはしゃいで盛んに米をまいている。でも、どう見てもまき過ぎだ。アイツがそれを踏んで滑り、バランスを崩したからアタシは思わずアイツの首に回していた手で強く抱きついた。
スポン!!
アイツのちっちゃい体が、スーツから抜けてしまった。引っこ抜いた形のアタシは反動でアイツの腕から転げ落ちて……



「……ってところで目が覚めたのよ。変な初夢でしょ?」

内容が内容なので誰にも話すわけにもいかず、アタシは庭を通りかかったいつものネコちゃんに独り言じみてた。
『フーッ!!』

「な、なんかネコちゃんいつにもまして怒ってる?」
「アニャン!!」

そういい残してぷいといなくなるネコちゃん。アタシは……

「何でなのよ~~」

そして思った。あんなに米を撒いたやつが悪い!もう少しあのまま……

数刻後
我輩が何をしたって言うんでありますか~~っ


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