最果ての世界

最果ての世界

人間天使の小話/弐


 僕はさっそく小さくはあるけど、問題と対面した。それは、人間なら
問題のない事なんだけど。朝食、天使は何を食べるのだろうか。くだら
ないかも知れないが、僕には真剣な問題だった。
 とりあえず、差し障りがなさそうなパンとサラダとスープにする事に
しよう。
 当の本人に聞こうにも、天使は長い間ゆっくりとこちらの世界にいる
事がないらしく、空の散歩に出掛けているのだ。

 そして、朝食が出来て間をおかずに天使は帰って来た。僕は天使に席
を勧め、コーヒーを用意した。そして、天使の前に置いて大した事のな
い朝食だけど食べるか聞いた。
 その返事は、とても簡単なものだった。『天使はものを食べない』と。
じゃあ、僕が悩んだのは全く無駄な結果に終わってしまったみたいだ。
 なんで先に言ってくれないのかと、少し腹立たしく思ったが。天使は
笑顔で『聞かれていないから』と簡潔に答えた。

 まぁ、それは聞かなかった僕も悪かったと思う。でも、僕だけが食べ
るのはなんだか気が引ける。それに、観察するように見つめられるのも
食べずらいと思う。口数の少ない天使と話しをしようかな、と思い僕の
中にあるいくつかの疑問を問いかける事にした。

 と言っても、いくつかある決まりのような物を聞くくらいしか僕には
思い付かなかったけど。それを聞くと、変わりない笑顔で教えてくれた。
 天使にも、いくつかの種類がいるんだそうだ。
この天使のように人間の最後の願いを聞く立場もあれば、動物の最後の願
いを聞く立場もあるし。そして、植物の最後の願いを聞く立場もある。
 どの立場でも変わらない決まり、つまり天使の掟?があるらしい。『生
き物の命数を変えてはいけない』、『生き物の命を奪ってはいけない』、
『特定のものに感情を抱いてはいけない』、そういうものらしい。
 感情を抱く、つまり恋をしたり愛しいと感じてはいけないのだろう。
でも、そんなことを掟として決める必要はないと思う。なぜなら、天使に
は感情がないと感じたから。
 僕は天使の笑顔以外の表情を見たことがないし、それ以外に自分の意見
を言うことがない。だから、なんとなくだけど天使には感情がないんじゃ
ないかと思う。


     そう思った僕は、少し不思議なことだけど。
 『この天使の笑顔以外の表情が見たい』と感じた。
   僕はその不思議な気持ちに名前を付けられなかった。

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