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『陰陽伝』レビュー♪【2】
『陰陽伝』レビュー♪【2】
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☆こもも2055さん☆
【『陰陽伝』に寄せて】
『陰陽伝』―― この本を手にした男性は、ここに描かれている世界をどう思うのだろう。そして女たちは何を感じながら、次のページを繰るのであろう。
きっとその指は震えを抑え切れないはずだ。私と同じものを目にしたならば。
全編に溢れるのは、格調の高さ。残酷としか表現しようのない場面にも、絶えず感じられるのが、著者の美意識の高さ。
言葉の持つ陰と陽の意味が巧みに使い分けられ、その相乗効果で読む者の心に鮮やかな映像を浮かばせる。
たとえば「さっくり」という一語にしても、適所に当てはめることで、かまいたちが皮膚を切り裂くような感覚を肌に覚えながら、読み進めなくてはならなくなる。
特筆すべきは殺陣のシーンの素晴らしさである。身のこなしの速さや、刀の振りの風を切る音までが耳に聞こえてくるのだから凄い。両極面ではあるが人が惨殺されるシーンにさえ、爽快感を覚えてしまう筆の力は圧巻である。反対に身を切られるようなつらい場面には実際に胸が痛くなった。
大画面でもなく大音響に助けられるわけでもないのに、まるで『ロード・オヴ・ザ・リング』のようなスケールの大きさを感じたのは、私だけであろうか。
すっかりこの物語の中に取り込まれてしまった私は、窓の外から眺めているのではなく、気付いたら、その場の風に吹かれていた。同じ時代の衣を身に纏って、危うく刃先が届くような位置に立たされた身の高揚感。高まる動悸におののきつつ、先へ先へと読み進む。
―― そして、そのシーンはまるで秘密の扉の向こうの世界のようだった。開けてはいけない扉。その鍵穴に、自分だけに渡された特別な鍵を差し込むような興奮を感じた。ガチャリと開いた瞬間から、もう一切後には引き返せなくなる。
私の喉は、からからに乾いた口の中から、出ない唾を無理やりに飲み込もうと何度もごくりと音を立てた。胸の中はざわめき、ジリジリとした焦燥感に責め立てられる。冷や汗とあぶら汗が同時に出てくるような感覚が苦しかった。胸に押し当てている本が、鼓動と息の荒くなるに応じて、いつの間にか水上の小船のように揺れ始めていた。
「紫野! 逃げて!」
あまりに狂おしく翻弄される美少年の宿命に声を上げたくなる。
しかし、一方で「逃がすな」と低く呻いた自分。心のどこかで、闇に転げ落ちるような場面を期待し、さらに血の騒ぎまでもを感じてしまった自分が居たことも否定出来ない。私もそちら側の罪人に同化してしまったようだ。そうさせた著者が心憎い。
過ぎる“美”と言うものは、時として残酷な念を引き寄せる。私は紫野の美しさを愛でつつも、村の女たち同様に嫉妬していたのかも知れない。その美を描き切る力量には完敗である。
また、その立場立場の人物像:少年たち、青年たち、子どもたち、そして盗賊たちの歯の臭いまでがしてきそうな言い回しも見事である。それぞれがはっきりと描かれ、セリフがその時代を生きている口から出てくるかのように自然であるから、目で読む言葉が耳にそれぞれの声となって聞こえてくる。自ずから当然、聞くに忍びない叫び声までもが、淫靡に響いてくるのである。
見ているのに手の届かない『陰陽伝』の中の世界。耳にまでしている紫野の刹那な声、目にもその美しい顔や肢体が見えているのに、まさにお預けを喰らった状態につらくなる。
もし私が男なら……、いや女であっても……。想像を膨らませてしまう。
それなのに、吹く風は爽やかであり、美しいのである。
懸命に人を愛する純粋な心を感じられるからだろうか。
『陰陽伝』―― 特別な本に出会った。愛しい本である。
☆一酔斎さん☆
【「ぶっくれびゅー その1」】
この本を読了して感じたのが、『これが本当にデビュー作か?』でした。
この小説は、戦国時代を生きる主人公の『伝奇小説』なのですが、『筆致の素晴らしさ』と『美意識』が見事に融合して、読者を『妖しい世界』へと誘ってくれます。
『官能小説』と表記されてありますが、私には『宿命に抗う主人公の人生記』と思えてならないのです。
『陰と陽(善と悪)』の狭間の中に生まれた主人公・紫野を待ち受ける“宿命の旅”のプロローグが、『陰陽伝』だと思ってます。
妖しい世界の中にも、『(フタナリに生まれた)人としての苦しみ』と『宿命への挑戦』が丁寧に描かれている小説です。
もちろん、『あの場面はこうした方が…』とか『その時代の歴史上の人物との絡みがあったら…』と思う部分はあったりしますが、そんな思いを凌駕させる内容となってます。
読了後に感じた『物足りない』と思ったもう一つの感情は、『もっと、続きを読んでいたい』と感じたからかも知れません。
この小説に出会えて、本当に感謝です。
著者には申し訳ありませんが、早く『続編』を書いて欲しいと願ってます。
☆まろんぐらっせ99さん☆
【陰陽伝/覇耀】
事前に「官能小説」である、ということは知識として入れてあったので、
最初の方を読んでいく限りだと、「うん、確かに」と頷いた。
これでもか、っていうくらいそういうシーンのオンパレードで、
あまりこれ系統を読まないモノとしては、少し苦しかったのだけれど、
ある一線を越えると、逆にこの「官能」の必要不可欠さをひしひしと感じました。
ただそれだけを目的とした中身のない小説もきっと数多くあると思う。
たまに普通小説とか読んでても、なんでこっからそんなHな方に路線が向いちゃう訳?
と、ムッとなるものがたまにある。
このムッとする理由は、「必要がない」と私が感じたからなのだけど。
まぁこれも読んだ人によって感じ方が別々だから一概に言えないのだけど、
明らかにこのシーンで性描写はいらない。世界観が台無し、って感じるものが多い。
だけど、これに関しては、この「官能」が必要だったのだ、と読み進めていくうちに感じました。
正直いうと、最初はこの本も、ある程度話の道筋をつけておいて、
後はそういうお楽しみだけで読者を惹きつけて最後まで読ませちゃおう、ってパターンなのかな、と思ってたのですが、それとは一線を駕していました。
嵐の夜に生まれた一人の赤子、紫野(しの)。
この赤子が成長し、美しい青年となる頃、彼の体に秘められた力を狙い
天地を揺るがす争いが起こる。
紫野自らも、その運命に抗おうとするのだが、逃れようとすればするほど、
もがけばもがくほど、見えない糸にからめとられるかのように身動きがとれなくなる。
前半部分は理不尽なまでに紫野が傷つけられる。
私自身文章力がなく、語彙も貧困なんで適した言葉が見つからないけれど、
ずっと「官能」と書いてきた単語も、実をいうと「官能」とは違うのだよね。(私はそう感じた)
なんだろ、「官能」って書いてしまうとものすごく淫らというイメージがあるのだけれど、
この本の中の「官能」はそれだけじゃない。
編集の方が、一言も「Hすぎてダメ」と言わなかったと、作者様が仰ってる通り、
(もちろん最初の方のシーンだけ見ると私はHすぎてダメ、って感じたのだけど)
全てを読み終えてみると、そういう描写よりもむしろ、話の内容と世界観がズシッと残った。
その禍禍しき体の呪いゆえ、生まれ持った命を絶つことも許されず、
「心」さえも奪われかけて、絶望の淵に立っていた紫野。
けれど、その「呪い」は使う相手によれば善になる、「光」になる。
1人の人間として生れ落ち、1人の人を愛し、「呪い」を断ち切ろうと決心する紫野。
不覚にもラストあたりのシーン。
目が潤んできてしまった。
大好きな人とようやく思いを遂げたのに、手放さなければならない悲しさ。
失うと分かっているのに、相手を抱かなければならない苦しさ。
自分の命を賭しても相手を守り抜こうとする、その思いやり。
多くの人間の「想い」が錯綜する。
号泣とまではいかないけれど、すごく切ない思いがした。
最初の方があまりにも酷かった為に、束の間とはいえ、紫野がようやく掴んだ幸せに心から安堵した。
と、同時に、それを失ってしまった後の事を考えるとすごく怖い。
最後まで読み終えてみて、まだ紫野の先行きが気になります。
もともと三部作ということなので、たぶんそれでなのか、微妙にキャラ同士の関係が曖昧なままで終わってしまっているようです。
例えば、最後あたりに感じた、ひょっとしたら聖羅が好きなのは○○?
疾風はこのまま自分の本当の気持ちに気付かぬまま?(気付いていても言葉にしないまま?)。
紫野を守り抜いてくれる新しい風は訪れるのか?
など、もちろんこのままで終わってしまっても十分纏まりがあるのですが、
私は三部作ということを念頭に置いて読み進めていた為、こういう点が気になってしまったんだと思います。
そう考えれば、ラストに小さな灯りがともりかけるような僅かな光を感じたものの、
まだ完全ではないという気がします。
どこか中途半端で終わってしまっているような、もどかしい感じ。
彼女がそういう運命にある限り、絶対的に安心とはいいきれないですからね。
だから、今のところの総評は★5点満点中★4つですが、
この物語が「陰陽伝 3部作」として全て完結したのちに、改めて総評をつけたいと感じています。
描写が描写なので、全年齢対象というわけにはいかないのが残念なのですが、
妖艶で艶かしいとかいうよりも――純粋で汚れなき故に、切ない――という感じでした。
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