Ｈｅｉｋの狂暴温泉芸者

世界から逃げる

カラスが一羽　重苦しく濁る曇り空を

鋭角的に切り　削り落としてゆく

雲々が散り散りに

大空が散り散りに

切り落とされ　落下してくる

幅１０ｍはゆうにあろうかと思われる

巨大なエレベーター

床はぺコぺコした頼りないアルミ製

でも僕はそこへと

とりあえず　逃げ入ることにする

ダッシュだ！

一羽、二羽、三羽･･･という具合に

そのカラスの数は　無限大に増えに増え

上空は真っ黒に塗り潰される

おののく私は　そんなことを眺め

イメージする

地下１０階のボタンを　ためらわずに押す

「赤ちゃんが今日　産まれたのよ」

彼女から電話で　そう聞いていたからだ

地下１０階に辿り着くと

そこは奇妙なクリニック

巨大な玩具やアニメの主人公などが

壁一面にびっしりと描かれている

そして　わけのわからない形をした

ぬいぐるみたちが

床面を埋め尽くし　散乱している

入室する前に　私はスキャナーされた

青白い走査線が足元から

　頭まで這い上がりフラッシュして移動する

この光線は　瞑った目に快感を与える

一時の余白・・・

私はガラス扉を開けて

クリニックへと入室する

ふにゃふにゃした　ぬいぐるみたちを

踏みしめるのは妙な感触だ

このクリニックの丁度中央には

大理石の立派なテーブルが据え付けてあり

その上には螺鈿の重厚な玉手箱が

置かれている　そこまで歩いてゆく

突然天井から降り落ちてきた

　ロボット仕立ての冷徹で権威ある医師は

乱暴に玉手箱の蓋を取り去り

　「分離手術不能！」　と素っ頓狂な声で宣告する

僕の心は激しくドコドコ動揺する

そして心拍数はピークへと･･･

玉手箱の中の奇異なシャム双生児に

面と向かって私は告げる

「僕は責任を放棄するからな

　逃げるからな」

地下１５階の予めパーキングしておいた

ガレージまで僕は思い切り走り

やがて自分の赤いコルベットに乗車する

ハンドルを握った蒼白に震え続ける手で　自問した

さて何処へと逃げるんだ？

大空の抜け落ちた世界へ向かって

何処へ逃げ隠れできるんだ？

ガツンと頭をハンドルに打った

ガツンガツンと繰り返し　激しく打った･･･

二ＯＯ九年四月十二日

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