Abel Tasman

2000年　25歳が近づこうとしていた
その年の１月10日、ぼくはNew Zealandへ飛んだ

Auckland 空港は国際空港にも関わらずちっぽけだった
一ヶ月前に、なぁんとなくNZへ行こうと決め
なぁんとなくNZに来てしまった僕を迎えてくれる者は
あたりまえだけど誰もいなかった。

乗客のほとんどがBackPacker(貧乏旅行者)であるマイクロバスに
乗り込む。バスに乗る時、運転手に「どこの宿に泊まる？」と
聞かれたが、僕はまだその日に泊まる宿さえ決めていなかった。
そのバスはBackPackersと呼ばれるあちこちの安宿を経由しながら
Auckland 市街地へと向かう。

バスを降りたのは市街からバスで15分ほどの郊外だった。
Oakland Lodgeという一泊18ドル(当時900円くらい)の共同部屋に
泊まる。都会があまり好きではないし、賑やかさよりも静かさを
優先する僕には、市街からこのくらい離れているのが丁度よい気
がした。これは大正解で、この宿とは相性が合った。

Many of us dream of escaping from everyday life，
tossing a few possessions in a backpack
and travelling light in a far-off lands.

なんだかうまくは訳せないけど、NZへ着いた初日の日記に記して
あった。宿にあった本か雑誌に書かれていたものらしい。とにかく
その頃の僕にはぴったりの言葉だったのだと思う。

３日目、バンにマットレスと乗せてNZを一周してきたアメリカ人の
おじさんが僕と同じ部屋に入ってきた。陽気なおじさんで英語を
話せない僕にやたら話しかけてくる。仲良くなり博物館や観光地を
一緒に回り、英語を教えてもらった。おじさんがアメリカへの飛行
機に乗る前の日に、いらない物を僕にくれると言って自分の持ち物
を部屋に広げた。ぼくはその中から『 Tramping in New Zealand 』
というトレッキング(山歩き)用のガイドブックだけをもらった。

それから一ヶ月、何を目的にするでもなくバスに乗ったり、ヒッチ
ハイクをしながらNZ北島をウロチョロしていた。一度だけ、富士山
のような形をした火山にも登った。山はそれいがい登らず、こうし
て漂流するようなNZの旅に飽きてきていた。
そして南島へ渡る前に泊まった宿で、日本人３人と出会うことによ
って、やっと僕の旅のスタイルが変わり始めた。

++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

Abel Tasman Coastal Track

Hiro: 僕と同い年で、世界を放浪していた。その頃は生活道具を自
転車に積んで、NZ一周をしているところだった。
Shigeさん：？歳か年上の女性で、皆が出会った宿で働いていた。
Chiharuさん：この人も年上だった。唯一、車で旅行している人だった

宿で夜中まで話をした。旅のことが中心だったが、だれだったかが
NZでのトレッキングの話をし始め盛り上がる。みな一日山行は経験して
いたけど、山小屋に泊まっての山行経験がなかった。そしてNZは泊ま
りがけのトレッキングで有名なところ…せっかくNZを旅行しているの
だから、それをやってみたい。Shigeさんを除く３人の意見が一致し、
ちょうどその宿での仕事が終わるShigeさんも含めて４人が同じ時期に
フェリーに乗り、南島へと向かった。

その頃の日記はこんな感じ。

　(２月)15日の昼、Paekakarikiを出、ウェリントンを半日散策。
Chiharuさんと食事をし夜の車中泊に備え車を停める場所を探す。
トレッキング用の食料などを買う。Te Papa の Parking で夜を過
ごしフェリー乗り場へ。北島から南島へのフェリーの旅はアッと
いう間に、何の感慨もなくPictonに到着。

　PictonでHiroを拾ってNelson 経由でMotueka へ。Abel Tasman の
Hutの予約をする。Bakers Lodge(16$) 泊。

　翌朝、８時に宿を出発。Marahau のWatertaxiでAbel Tasman：
Totaranuiに上陸。その日は５時間の歩きで午後３時頃Whariwharangi
Hutに到着。３人でのんびりすごす。僕は近くの海で一人で泳ぐ。

　18日 Awaroaの水が干いた後、バシャバシャと湾を一斉に人が渡っ
ていくのは楽しかった。5pm頃、Bark Bay Hut 着。外のベンチで食事。
夜まで雑談。

　19日 8:30am発。Anchorageで10分程泳ぐ。4:30pm ゴール!!

たぶん３人と話すことで忙しく、日記を書く暇がなかったんだろうな。
この日記も20日に、まとめて書かれたものだ。

　読み返すと自分でもわからないことがいくつかあるけど、少しだけ
解説をつけてみる。
　まずAbel Tasmanは、NZ 南島の北端にある海岸の一部をいう。そこ
は自然を活用した大きなレジャーランドという感じだ。海岸沿いに4つ
のHut(山小屋)と無数のテントサイトが整備されている。利用者はここ
を歩いてもよいし、海岸をカヌーで旅することもできる。小屋やテント
サイトは予約制だが、テントサイトが満員になることは少ないかな。
　ぼくらはコースの南端からジェットボートに乗って北端のTotaranui
まで行っている。そしてコースを北から南へと歩いた。
　18日のAwaroa でのことについては、ここには干潮時しか渡ることの
できない湾があって、潮が干いていくのをみんなでワイワイ待っていた。
そして、目の前の潮がドンドン干いていくのを眺め、「もう待ちきれ
ねぇ！」という感じに誰かがバシャバシャと渡り始めると、湾の向こう
から、こっちからとワイワイガヤガヤと一斉に渡り始めた。
　NZの海沿いにあるいくつかのトレッキング･コースでは、こういう
場所がいくつかあって、そういう場所では干潮・満潮時刻を知って
おく必要があったりして、それがまた楽しい。
　NZの海はけっこう冷たくて、泳ぐ人はあまりいなかったかなぁ。
僕が泳いだところでも、泳いだのは一人のおばさんと僕だけだった。