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もう 今にも裂けちゃいそう だなぁ」
えっ?
裂けるって、何が???
「黒目に穴があいてしまいそうですね」
黒目に穴?
それ、どういうこと??
「う~~~~ん...
失明する恐れ がありますね」
ガーーーーーン
し、し、失明って...?
それは、目が見えなくなるってことですか?
「今後、 右目に強い衝撃は厳禁 ですよ」
うそっ、うそでしょ?
昨年の秋、息子のヒデキ(小6)と近所の眼科へ行ったときのこと。
私たち親子にとって、
それはまさに 青天の霹靂 でした。
ヒデキは右目の眼球に生まれつき腫瘍があり、
5歳のときに手術していました。
表面の腫瘍を削り、えぐれた部分にヒデキ自身の結膜を被せて縫ったのです。
今回の眼科受診の目的は、
右目の視力はほとんどないものの、
その腫瘍が良性であったことと、
手術により完治して再発などの恐れはない、
という診断書を書いてもらうため、 でした。
ところが、そのお医者さんがおっしゃるには、
手術から既に7年が経過し、
被せた結膜が、ものすごく薄くなってしまい、
いつ裂けてもおかしくない状態にある そうで、
強い衝撃などを受けて裂けてしまうと、
黒目部分に穴があき、熱い涙がとめどなく流れ、
手術しないでそこに菌が入れば失明する恐れがある、
ということでした。
「失明の恐れがある」
と、いきなり宣告され、
思わず言葉を失った私たちに、とどめのような言葉
「強い衝撃は厳禁」
が聞こえてきたとき、
間違いなく私もヒデキも
顔面蒼白になって立ち尽くしていた ようです。
2人とも、頭の中で思ったことは
「それじゃ、柔道ができなくなるの?」
「えっ!?」
と言ったきり、黙ってしまった私たち親子の様子に、お医者さんの方から
「なにか?」
と質問が。
「あ、あの、息子はずっと柔道をやっていまして、
柔道選手になるのが夢 で、
これから本格的にやろうと思っていた ので...」
「柔道ですか...。
やってはいけない、とは言いませんが、
たとえば 寝技 などで 相手の足や腕が勢いよく右目に飛んでくる、
などということはありませんか?」
「 ある
かもしれません」
...結局、今後万が一手術した部分の膜が裂けてしまった場合、
速やかに手術を受ければ、失明の危険はなくなるだろう、
という話を聞いて帰宅したのですが、
ヒデキ、 ショックで夕食とれず、
10分おきに私の元へ来ては、
「ママ、
オレの黒目、穴があいてない?」
と尋ねる始末。
「オレ、
もう恐くて柔道できないよ」
私もさすがに
「そうだね。
時間をかけてゆっくり考えようか」
としか言えませんでした。
ヒデキは、お医者さんの話の中から、
自分に理解できる単語だけを拾って聞いていたらしく、
「黒目に穴」「失明」「衝撃は厳禁」
の3つばかりを繰り返していました。
将来、柔道のオリンピック選手になれるとは思っていないようですが、
子供たちに柔道を教える先生になりたい、 という夢を持っているヒデキにとって、
柔道ができなくなる
ということは、大変なことでした。
もう柔道を簡単に諦められないほど、
ヒデキは柔道が大好きになっていて、かといって
「たとえ失明することになっても柔道を思い切りやるんだ」
と決意するには、ヒデキはまだあまりに幼く、臆病でした。
私たちは何度も話し合いを重ね、柔道の先生とも相談し、
そしてようやく結論へたどり着きました。
柔道は、精一杯続けてみよう。
だってそれが、ヒデキの夢なんだから。
目のことを恐れないで、
大好きな柔道を思いっきりやろう。
そして、もしも手術が必要になったら、すぐに受けよう。
その場合の病院、先生だけはちゃんと見つけておこう。
ヒデキは再び、柔道着に袖を通しました。
春から中学生になるヒデキ。
柔道部へ入ることに決めました。
ひなたまさみ