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ヒデキは柔道をしませんでした。
試合の終わった日曜日の夜。
ヒデキは真夜中の24時を過ぎても起きていました。
「眠ってしまったら、明日になっちゃうから。
オレ、絶対に眠りたくない」
試合の日のヒデキは、
緊張のため朝早くから目が覚めます。
夜になると一日の疲れもあって
いつもよりずっと早く眠るのが普通です。
(おかしい!!!)
「どうして
明日になっちゃいけないの?」
「べつに…
なんでもないよ。
あ~あ
このまま時間が止まっちゃえばいいのに…
」
ヒデキの目から
涙がポロポロ
(ダメだこりゃ!)
私は翌日は学校を休ませようと思いました。
翌朝、
もともと風邪気味だった上に
タイミングよく少し熱が出ていたので、
「ヒデキ、
熱があるから今日は休みなさい」
と言うと、
顔をひきつらせながら
「ダメだよ!
休んじゃダメなんだよ!」
と、バッグに柔道着をつめ込む息子。
「あのさヒデキ、
柔道に一生懸命なのはわかるよ。
先生もみんなも必死で頑張っているのもわかる。
でもね、
咳がひどい、熱もある。
しっかり休んで治さなくちゃいけないのに休めないと思う気持ち。
それも病気のひとつだよ。
そんな状態で行っても
怪我をするかもしれないし、
みんなにうつしちゃってもいけないでしょ?
とにかく今日は休みなさい」
ようやく頷くヒデキ。
私はちょっと心配になりました。
熱心な先生に一生懸命についていこうとするとき、精神的にタフで、十分ついていける子もいるだろうけど、ヒデキは違う。
人一倍デリケートで、その上生真面目だから
自分が壊れそうになっていることにすら気づかない。
こういうとき、私は思うんです。
(この子は本当にこの世界にいていいのだろうか?)
(こんなに繊細な子は、この先もっと大変になっていくだろう。
向いていないのでは?)
ヒデキのようなタイプだった、
という高校生の先輩を持つお母さんに相談。
その息子さんは中1のとき数ヵ月学校へ行けなくなった後、
学校へも部活へも復活。
その後、柔道部部長を務め、
今は高校の柔道部で活躍されています。
「私も同じように悩みました。
でも、きっと大丈夫。
息子さん、必ず心も強くなっていきますよ」
と励ましていただき、様子を見ることに。
結局、2日間休んで水曜日は登校したものの
顧問のS先生に
「お前、まだ熱があるな。
今日は柔道やらずに帰れ」
と言われ、部活をやらずに帰宅。
(先生も息子が手術前なので気を遣ってくださったのかもしれません)
翌日もう一日学校を休み、昨日やっと部活まで参加してきました。
この4日間十分睡眠をとって休息できたことで、
ヒデキは日曜日の夜とは別人のように明るい表情になっていました。
「久々の柔道はどうだった?」
「う~~~ん。
楽しかったけど、
やっぱりキツかったなぁ
休むと休んだ分、しんどくなるね」
その後、 体育の授業でやっている持久走
の話になりました。
ちなみに、ヒデキの 体育の担任
は、 柔道部顧問のS先生
です。
ヒデキは体育は大好きですが、持久走は一番苦手です。
柔道部の朝練習にも週に何度か「ランニング」があるのですが、
その日は朝からため息をついています。
でも、あれだけ練習で走っているのだから、
さすがにクラスで一番ビリではないだろう
と思ったわけですが、本人に確認したところ
いつもヒデキが一番ビリ
しかも
ヒデキの次に遅い子の背中すら見えない状態で
一人ぼっちで走っている
つまり
ダントツのビリ
ということが判明。
「それじゃ、気分も落ち込むか…」
そう私が言ったところ、
「でもね、
そうなったからといって
“あ~あ、どうせオレは遅いから”
って、イヤイヤ走ってたらダメなんだよ。
チャンスをつかめなくなっちゃうから
」
「チャンス?
チャンスってどんなチャンスがあるの?」
「だからさ、
いつか誰かの背中が遠くに見えるときが来るかもしれない
ってこと。
そうなったときに
“あそこまで、一歩でも近づいてやろう!”
って思ったり、もっと近くになれたら
“頑張って、抜かしてやろう!”
って思えたら、それが
“チャンスをつかむ”
ってことなんだよ。
だから、いつもオレはそのチャンスを狙って走ってるんだ
」
弱虫のヒデキですからね、
これまでは、決してこんなことは言わなかったです。
「三歩進んで二歩下がる」
ヒデキの成長にも時間がかかります。
それでも一歩ずつは成長しているようです。
ひなたまさみ