マジックの世界

マジックの世界

前田 知洋



日本初の本格的クロースアップマジック専門のプロマジシャン。厚川昌男賞、FISM日本代表、日本クロースアップマジック大賞、他、数多くの賞を受賞。

日本では、昔からバーテンダーや店のマスターが趣味でクロースアップマジックを見せるところは数多くありました。しかし、バーテンダーやウエイターのような仕事は一切せず、クロースアップマジックだけを見せるプロマジシャンは日本では今までいなかったのです。職業としては成立しない分野だと思われていました。そこにはじめて踏み込み、成功させたのが前田さんです。


前田さんは、日本に帰国後、横浜ベイブリッジにできた東洋最大の座席数を誇るシーフードレストラン、「タイクーン」の専属マジシャンとして、5年間活躍されていたのです。テーブルからテーブルに移りながらマジックを見せる、「テーブルホッピング」という分野です。 その後、独立して、現在は企業や大使館などのパーティなどでマジックを見せるのが中心のお仕事のようです。

ここ、「銀座小劇場」や両国の「ギャラリーYU」などでマジックを見せていただいて感じるのは、前田さんのマジックにはどれもストーリがあるということです。「消失」、「出現」、「変化」といったような現象をただ見せるだけではなく、マジックにストーリをつけるというのは実際には想像以上に難しいことです。ヘタをすると子供の学芸会になってしまいます。マジック自体の巧拙以上に、しゃべり方、ルックス、知性等からかもしだされるトータルな雰囲気が洒落ていなければ、とても大人の鑑賞にたえるようなものにはなりません。

前田さんが、テーブルホッピングで見せる場合、ひとつのテーブルでは約4分半だそうです。数にすれば、2つか多くて3つくらいでしょう。ひとつひとつのマジックが不思議で、楽しいものであれば、それくらいで十分です。数多く見せるより、2つ、3つくらいのほうが余韻が残ります。決して数多く見せる必要はありません。

バーなどでクロースアップマジックを見せているバーテンダーなどの人によくみられることですが、ただひたすら、数多くのマジックを矢継ぎ早に見せて行くだけというタイプのマジシャンが多いのです。マジックとマジックの間に、「間」を持つ余裕がないのです。意識的に「間」をコントロールできるようになってはじめて、見ている側からも「余裕」が感じられるになってきます。空白の時間、それがわずか数秒であっても、自信のないマジシャンには耐えられないような長い時間に感じられます。

マジックはタネだけで成立する芸ではありません。前田さんの場合、ヴォイストレーニング、バレエ、演劇の基礎知識、心理学等、一般のマジシャンがしないような勉強も地道になさっています。 決して、ただかっこいいだけのマジシャンではないのです。

前田さんご自身は、自分のことを「クロースアップアーティスト」という名前で呼ばれるようになることを望んでおられるようです。 アーティストと芸人の違いがどのようなものか私にはよくわかりませんが、前田さんが自分の理想とする姿をイメージできているから言えることでしょう。いつの日か、きっとそのような時代がくると思います。


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