マジックの世界

マジックの世界

高木 重朗



当時出ていたマジックの専門誌、『奇術研究』(力書房、季刊誌)や『奇術界報』(日本奇術連盟、月刊)にも毎回、海外の傑作奇術を精力的に紹介してくださっていました。今と違い、洋書が簡単には入手できなかった時代でありながら、日本でマジックをやっている人が大抵ヴァーノン、スライディーニ、マーローといった大御所のマジックを知っているのはひとえに高木氏のおかげです。

数多くのマジッククラブの顧問や相談役、講師も努めて、週末には毎週のように、どこかのマジッククラブで教えておられました。世界的に見ても、その博学ぶりは他を圧倒しています。知識、実技の両面で、これだけ精通しておられた方は海外にも見あたりません。数十年にわたり、日本マジック界のスタンダードでもありました。 レパートリーも広く、クロースアップマジックからステージまで、何でもこなしておられました。

戦前の銀座は今とは違い、夜になると店は閉まり、かわりに屋台が並んだそうです。そのような中に、大道芸の手品師が手品のネタを販売していたそうです。高木氏が子供の頃、しょっちゅう通い、そこで教えてもらったのが、マジックに興味を持ようになりました。常にその道のプロの方から直接教えてもらうのをモットーとしておられました。これは後年、海外に出かけるようになってからも同じです。

海外の有名なマジシャンはよくレクチャーを開きますが、一般的なレクチャーだけでは実際のところ、細かい部分、本当に重要な点はカットしているものです。そのことも高木氏はよくご存じでしたから、いつも個人的に習っておられました。スライディーニなど、「レクチャーのときはこう言ったけれど、本当の秘密はこれだよ」と、後でこっそりと教えてくれたりしたそうです。何でもそうですが、「コツ」とか「極意」とか言われる部分は、その価値がわかる人にしかわかりません。教える側も、この人ならわかるだろうと思う相手にしか話さないものです。「猫に小判」と思う人には話してもくれません。

日本でも、プロ・アマを問わず、高木氏に教わったマジシャンは数知れません。ご自分が興味を持ち、マスターしたマジックや技法を惜しげもなく教えてくださっていましたから、まさにマジックのレクチャラー(講師)が天職と言ってよい方でした。

オリジナルも数多くありますが、「表からは見えない部分」でのオリジナル技法やちょっとした改案が多いため、一般には目立たないかもしれません。

個別のトリックとして比較的よく知られているのは「ワンカップルーティン」でしょうか。これは木製のカップ一つとボールを使います。海外でも好評で、70年代後半からよく研究しておられました。現象は普通の「カップ・アンド・ボール」をカップ1個でおこなうようなものですが、最後のクライマックスがかわっています。大きなボールが出た後、カップを観客に渡すと、カップには穴が開いていないのです。つまり、むくの木の固まりなのです。私はこれをはじめて見せていただいたとき、「最後に木の固まりをロードするのですか?」と間抜けな質問をしたら大笑いされたのも今となっては懐かしい思いです。後日、大阪にお見えになったとき、わざわざお持ちいただき、プレゼントしてくださったのが写真のカップです。高木先生との個人的な思い出はたくさんありすぎて、ここで紹介すると長くなりますので、それはまたいつか紹介します。

  1981年に、高木先生の奇術活動40年を記念した会が開かれました。そのとき頂いたパンフレットに興味深い資料がありますので、一部、抜粋して紹介したいと思います。時代は1980年代のはじめであることを考慮してお読みください。


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