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2006.11.29
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カテゴリ: 邦書

 名探偵御手洗潔の活躍を描いた短編4編を収録している。


粗筋

「数字錠」

 ある小さな会社の社長が社内で殺された。ドアは数字錠で鍵がかけられていて、誰も入れないし、誰も出られない。犯人はどうやって社長を殺したのか。大金が入った財布が残っていたことから、物取りの仕業とは思えない。
 容疑者は二人いた。株で損させられたのだ。しかし、二人にはアリバイがあるし、現場に入れない。
 会社の者が加わっているのかと思われたが、四人の社員は数字錠の番号を知らない上、朝からトラックで外回りしていて、アリバイがあった。そもそも、社長が死ぬと会社は廃業になって社員は失業するので、犯行に及ぶとは思えなかった。
 悩んだ竹越刑事(占星術殺人事件で御手洗に事件を解決してみろと挑戦した刑事)は、御手洗潔に相談した。
 御手洗は捜査を開始する。会社の社員を調べる。その中で最も若いの(少年)が犯人だと指摘する。少年は、家出をした後、別の社員に文字通り拾われた。その社員を社長が侮辱するのを見て怒り、殺人に至ったのだ。
 外回りのトラックは三人乗りで、少年は荷台に乗って移動する羽目になっていた。車内から荷台は見え難く、下りても気付かれなかった。少年は、渋滞でノロノロ運転をしているトラックから降り、地下鉄で会社に戻り、30分かけて数字錠の番号を一つ一つ回して開け、熟睡している社長を殺した後、地下鉄に乗り、ノロノロ運転を続けていたトラックの荷台に何気なく戻ったのである。財布が取られていなかったのは、営利目的でなかったからである。御手洗が、警察が犯人と睨んでいた二人を最初から容疑対象外したのは、財布が盗まれていなかったからである。株で損した二人なら、被害者の財布を見て盗んだだろうと読んだのだ。
 御手洗は、少年があまりにも気の毒に感じて、少年にとって最後となるコーヒーを一緒に飲んだ。そのことから、御手洗はコーヒーが飲めなくなってしまう。
「面倒見のいい」とされていた社長が、実はそうでなかったといつの間にかなっていた時は、拍子抜けした。
 御手洗は、犯人の少年にはお前はホモかと思いたくなるほど優しいのに、社長の姪には素っ気ない態度を取るのが印象的。
 1979年10月頃の「占星術殺人事件」から数カ月後の12月に起こった事件。

「疾走する死体」

 隈能美堂巧は、ジャズ仲間が集まるアパートに招待された。そのアパートは11階にあった。集まった中には御手洗潔と石岡がいた。
 そんな中、アパートの中の貴重品が紛失する。犯人は直ちに判明した。久保だった。しかし、久保の姿が見当たらない。そんな時、警察から連絡があった。久保が側の線路で列車に轢かれて死んだと。
 自殺かと思われたが、絞殺されていたことが判明する。更に不可思議なことに気付く。久保がアパートから消えた時刻と、列車に轢かれた時刻は、あまりにも近すぎた。犯人は死体を背負ってわずか数分で線路の上に死体を乗せたことになる……。
 犯人は、久保とグルになって盗みを働いていた者だった。盗品を素早く外に出せるよう、アパートのベランダに長いロープをたらしていた。犯人は、窃盗の直後に久保と喧嘩し、殺してしまった。死体をロープで下まで下ろそうとしたところ、死体は振り子の原理で少し離れた線路にまで飛ばされてしまったのだ。
 遠くに飛ばされたらかなり破損していた筈。轢死体にしては破損し過ぎている、と警察は思わなかったのだろうか。
 本編では、御手洗潔のギターの腕がプロ以上であることが判明する。御手洗潔の反腕時計主義の演説が聞ける。
 1980年初夏の事件。
 隈能美堂巧は他の作品で単独で登場する。
 そういえば、島田荘司はある新人作家に「霧舎巧」というペンネームを贈っている。「巧」という名が好きなのだろうか。

「紫電改研究保存会」

 ある男が自分の奇妙な体験を語る。
 戦中の名戦闘機紫電改を海から引き上げて修復したいという中年男性と同席することになった。面識はなかったが、話は弾んだ。ふとしたことからその男性から仕事を頼まれる。言われた通りに中年男性の事務所で、無意味とも思える作業を行った。数日後にその中年男性の事務所を訪れると、そこは蛻の殻だった。
 男は不思議に思う。あの中年男性は何の為にあんなことをしたのかと。仮に詐欺だとしても、男は何も損していないし、中年男性も何の得もしていない、と。
 側で聞いていた御手洗潔は、それは違うと口を挟む。男は大損していたと。
 中年男性は男を引き付けている間、仲間に男のアパートへ侵入させ、当選宝くじを外れくじとすり替えさせていたのだ。
 よく分からない事件。爪に当選番号を刻む奴なんているかと思ってしまう。
 1985年の事件。

「ギリシャの犬」

 子供が誘拐された。身代金を要求される。その家族は御手洗の助けを求めた。御手洗は竹越刑事と共に捜査を開始する。
 誘拐の直前に、屋台が盗まれていた。番犬を殺してまで盗んだにしては意味のない窃盗である。現場にはギリシャ語と、奇妙な文字が描かれた紙が残されていた。御手洗はこの紙切れこそ誘拐事件を説く鍵だという。
 紙切れの奇妙な文字は文字ではなく、図だった。橋の形を描いていたのだ。犯人の一人がギリシャ人なので、そうしたのだ。
 犯人は屋台を埠頭に見せかけ、そこに誘拐した子供を監禁していた。
 1987年6月の事件。
 本編で、御手洗が京都大学の医学部に属していて、犬を解剖するのが嫌で退学する、ということが明らかにされる。


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解説

 四つの短編では、日付が分かるようになっている。日付が重要でないにも関わらず、だ。シャーロック・ホームズ・シリーズを真似たのだろうか。日付を入れると作品が古臭くなることにも繋がるのだが……。
 いずれも小事件で、御手洗を登場させる必要があったのかと思ってしまう。
 占星術殺人事件では無愛想で、御手洗と激しく対立していた竹越刑事が、御手洗の尻にしかれているのは奇妙である。



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Last updated  2006.11.29 10:36:24
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