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2006.11.29
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カテゴリ: 邦書

「館」シリーズ四作目。


粗筋

飛龍は、育ての親である沙和子と共に、父親が所有する家「人形館」に越す。父親が亡くなったことから、相続したのだ。「人形館」は、母屋が和風で、アパートへ改築された別館が洋風という奇妙な建物だった。
 アパートでは、自称作家や、学生や、盲目の男の三人が住んでいた。
 莫大な遺産を相続したこともあり、飛龍は不自由なく暮らせた。病院暮らしが多かった彼は、平和な日々を過ごす。
 そんな中、近所で子供が次々絞殺されるという事件が発生する。
 また、飛龍の元に、脅迫の手紙が届くようになる。過去の罪を認めろ、という内容だった。飛龍は何のことだか分からなかった。
 一方、〇〇は、飛龍を更に追い詰めようと考え、次の手を打つことにした。
「人形館」の母屋が火災に遭う。飛龍は助かったが、沙和子は焼死した。火災は室内から発生したもので、外部からの放火は有り得なかった。
 飛龍は、自分が誰かに狙われていると確信した。幼馴染みで、大学助手の架場に相談する。そこで彼は希早子という女性と会う。架場は、アパートに住んでいる者が脅迫者である可能性がある、と告げた。
 飛龍は、アパートの住人をチェックする。怪しい者はいるものの、決定的な証拠はない。飛龍は、大学時代の先輩である島田潔にも頼ることにし、彼に電話をしたが、いなかった。留守番に、彼が電話を寄こすようにと頼んだ。
 〇〇による脅迫は続いた。
 その内に、飛龍は過去の記憶が戻ってくる。彼は子供の頃、母が自分が離れるのを止めたいが故に、線路に石ころを置くことを思い付く。そうすれば電車が止まるだろうと期待していたが、電車は脱線してしまった。母を含む数人が死亡する。飛龍は、このことで脅迫されているのか、と思う。
 近所で子供を次々殺していたのは、アパートに住んでいる自称作家だった。外で子供が騒ぐため、小説が書けないのだ、と思い込み、次々殺していたのである。〇〇はそのことに気付き、自称作家を狙う。
 自称作家は、自分の部屋で死んでいるのが発見された。警察が捜査したところ、子供を殺害していたことが判明する。その殺人事件は、犯人の自殺で終了したとして捜査は打ち切られた。
 しかし飛龍は疑う。脅迫者に殺されたのでは、と。ただ、自称作家の部屋に不審者が出入りしていたなら、飛龍に見られていたはず。そんな不審者はいなかった。
 飛龍の過去の記憶が更に蘇る。石ころを線路に置いたのを目撃されていたのだ。飛龍は、目撃者だったその子供を水死させたのを思い出す。
 列車事故の調査をしていた島田が、電話を寄こす。事故で死んだ者は、全てアパートの住民と同じ名前だったと。単なる偶然かもしれないが、事故で死んだ者の親族が集まって狙っているのかもしれない、とも言う。驚いた飛龍は、島田にこちらへ来てくれと頼む。
 一方、〇〇は希早子も殺すことにした。彼女を狙うが、島田によって阻止される。
 島田は、「人形館」に飛龍や架場などの関係者を呼び、事件の真相を明かそうとする。「人形館」には抜け穴があって、外部から自由に出入りできた、と。放火犯はその抜け穴から出入りしたのだと。
 しかし、抜け穴はなかった。
 架場は島田に告げる。全て島田の思い込みだと。いや、飛龍の思い込みだと。
 飛龍は多重人格症に悩まされていた。〇〇も彼だし、彼が島田と話していた思っていた電話は、火災で不通になっていたのだ。
 つまり、飛龍は〇〇として自分自身を脅迫して沙和子を焼死させ、そして島田という探偵に推理させていた。知らずの内に一人で被害者、加害者、そして探偵の三役をやっていたのだ。自称作家を殺したのも飛龍である。ただ、飛龍自身はそれに気付いていなかった。だから「不審者が出入するのを見なかった」と思い込んだのである。
 飛龍が病院にいたのは肉体的な疾患からではなく、精神疾患のためだった。彼は実母を殺したという罪悪感から、自分が死ななければならないと信じていた。ただ、死んだら義母が悲しむ。義母が自殺を食い止めている。だから義母を殺した。そうしたら希早子が現れた。今度は希早子を悲しませることになる。だから希早子を殺そうとしたのだ。
 希早子は、〇〇に襲われて島田に救出された際、いずれも同一人物――飛龍――の声であるのに気付き、飛龍の異常に気付かされた。
 飛龍は病院に収監される。
 希早子は、架場に質問する。架場は、列車事故について自ら捜査したところ、事故の被害者はアパートの住民とは全く別の名前であることを掴んだ。つまり、島田の存在そのものが怪しい、と感づいていた。なぜここまで知っていながら、何の手も打たなかったのかと。まさか飛龍が水死させた子供は架場の兄ではないか……?
 架場は答えを濁した。


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解説

二重三重の罠がある感じのストーリー。どんでん返しは興味深いが、背表紙で記されているとおりに「本格推理」として読むと反則になるかも知れない。サイコサスペンスとして読むべきだろう。
 被害者と加害者と探偵が同一人物、というトリックを難なくやってのけたのは見事だが。
 本作品は、最後になって「人形館」が中村青司の設計でなく(だから中村特有のからくりや抜け穴がなかった)、シリーズの番外編であることが明らかにされる。島田自身も結局一度も登場しないということが明らかにされる。その意味でも番外編。
 シリーズ作と思っていたら実はそうでなかった。
 綾辻行人ならではのトリック。
 主人公(飛龍)が多重人格者で、本人がそれに気付いてなかった。だから自分が殺人を犯していたことにも気付いていなかった……。
 ……これだとアリバイトリックも容易で、何でもありの感じ。その意味でも純粋な推理小説として見るには難がある。
 架場が飛龍をわざと放置して破滅に追い込んだ、という終わり方も後味が悪い。
 自称作家が殺された際、警察がアパート全体を家宅捜査しなかったのはなぜか。していたら、飛龍が犯人であることを指摘する証拠や、不審な品々を発見できていたはず。自称作家は多数の人間を殺していたのだから、家宅捜査が本人の部屋だけでなく、建物全体に及んでも不思議ではなさそうだが……。
 本編では、「占星術殺人事件」について触れている。この小説の世界では、御手洗潔は実在する人物なのだ。御手洗潔と島田潔の競演でも計画していたのだろうか。現在は御手洗シリーズの作者島田荘司とこちらの作者の仲があまり良くないそうなので、有り得ないだろうが……。



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Last updated  2006.11.29 14:06:19
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