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2006.11.29
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カテゴリ: 邦書

 推理作家鮎川哲也が本格推理短編一般公募した結果出版された短編集第2弾。12編収録されている。残りは こちら


粗筋

「双子神社異聞」:北野安曇
 市郎と時郎という双子がいた。二人は由香という女性と知り合う。二人揃って交際を申し込む。由香は最初は市郎と付き合ったが、市郎が怪我で野球投手という将来が絶望的になった段階で、時郎に乗り換えた。
 無論、市郎はそのことを面白く思っている筈がなく、二人を恨んでいた。
 そんなところ、由香が殺される。現場では時郎が倒れていた。警察は時郎を最有力容疑者と見なす。
 しかし、付近には市郎もいた。殺す動機は彼の方が強い。ただ、現場には時郎と由香の足跡しかない。市郎はどうやって行き交いしたのか……。
 ……双子神社は二つあった。一方は村人にさえその存在が忘れられていた。市郎は北の神社におびき寄せ、由香を殺した後、南のに移動させたのだ。
 ……という、よく分からないトリック。
 本編は、事件が起こるのを見ていた者が、探偵役の元に訪れて意見を訊ねるというアームチェア・ディテクティブもの。この手のストーリーはいつも不自然。
「君は事件の通報者が『南の神社に死体がある』と言ったそうだね。通報者、つまり犯人は神社が南以外にもあること、すなわち神社が二つあることを知っていたことになる」
「君は市郎が元高校野球投手だと言っていたね。怪我をして野球選手にはなれなかったが、日常生活には支障がないと。それなら、時郎の靴を離れたところから投げて、足跡を残さずに移動したように見せかけられたのでは?」
 ……と、探偵は、現場に足を運ぶことなく、他人の口述から推理してしまう。口述者が重要部分を正確に伝えられなかったり、間違って口述したりしたら推理は根底から覆ってしまう。また、フィクションとはいえ、よく詳細まで述べられるなと感心してしまう。
 本作品には、探偵が指摘する部分が「(〇〇ページ)」と記されているので、その部分を簡単に参照できるようになっている。親切というかお節介というべきか。しかし、この部分は原稿の段階で入っていたのか、それともゲラになった時点で入れたのか。どちらにしても正確にするのに大変だっただろう。
 この短編の最大のトリックは、男性と思われていた探偵役が実は女性だったということ。事件とは全く無関係の使い古されたトリック。なぜ入れたのかは不明。

「死霊」:白石千恵利
 ある女性が旧家に嫁いだ。しかし夫は結婚直後に死亡してしまう。この地域は土葬の風習があり、夫の遺体は埋葬された。
 ある夜、女性が目を覚ますと夫の死体が横にあった。誰かが掘り起こして横に置いたのだ。墓では、棺桶に遺体と共に収めた夫の形見の招き猫が無くなっていた。質の悪いイタズラだと家の者は思い、遺体を再び埋葬した。だが、次の夜も、遺体は掘り起こされ、若い未亡人の寝床の横に置かれた。一体誰が、と家の者は思う。あるいはこの地に伝わる伝説の通り、死んだ夫が妻の元に訪れたのか……。
 未亡人はこの体験談を雑誌に送った。一人の記者がその家を訊ね、未亡人の寝床があった部屋に一人で一晩過ごすことにした。すると、その記者は何者かに殺されてしまった。呪いだ、と恐れられる。
 そんなところ、作家がその家を訪れる。事件の真相を掴むためだ。
 ……犯人は死んだ夫の弟。彼は宝石を盗んだ。隠し場所に困った彼は、兄の招き猫に隠した。その直後に兄が死亡してしまう。未亡人は、中に宝石があるとは知らずに、招き猫を夫の遺体と一緒に棺に収めてしまった。弟は墓を暴き、招き猫を取り出した。しかし、ただ掘り起こしたのではばれてしまう。そこで結婚直後に死んだ夫は墓から妻の元に戻るというその地域の伝説を利用して、遺体を未亡人の側に置いた。一度だけではイタズラとして処理されてしまうので、二度やった。
 弟は、回収した招き猫を自分の部屋に隠したが、それを訪ねてきた記者に発見されてしまい、強請られる。そこで弟は記者を殺したのだ。
 非常に無駄のある事件。なぜ弟は墓を暴いた後ただ元に戻さなかったのか。ばれることを恐れたというが、遺体を移動して未亡人の横に置けば不審に思われないか。特に途中で目撃されてしまったら。また、なぜ掘り出した宝石を招き猫に入れたままにしたのか。招き猫から出し、きちんと隠しておけば、記者に見付からずに済んだ筈。しかも記者はなぜその家で一泊したのか。危険だと思わなかったのか。

「落研の殺人」:那伽井聖
 豊田隆志と新文枝は、ある大学の落語研究会のメンバー。文化祭で落語の腕を披露することになった。人気ナンバー1は豊田隆志だが、プロから注目されているのは女癖の悪い新文枝。
 文化祭の最中、新文枝は殺された。現場は人目のつかないところだが、裏には人がいたので、不審人物がいたら直ぐ気付かれる。表には便所が側にあった。犯行時刻に掃除をしていた清掃員は、怪しい人物はいなかったと証言する。
 落研のメンバーは豊田隆志は現場の側にいたので何か知っていたかも知れないと考え、清掃員に豊田隆志らしき人物はいなかったかと訊くと、そんな人物はいなかったとの返事があった……。
 ……犯人は豊田隆志。豊田隆志はいわば芸名で、実は女性だった。落語は男性がやるものと相場が決まっているので、豊田隆志は人気ナンバー1でありながらもプロからは無視され、新文枝が人気は劣るもののプロから注目されていたのである。
 豊田隆志は新文枝の女癖に手を焼き、殺してしまった。とっさの犯行だった。清掃員は豊田隆志の姿を見ていたが、名前は知らない。だから落研の者から「豊田隆志を見なかったか?」と訊かれた際、豊田隆志を男の名と勘違いし、「男は見なかった」と答えてしまったのだ。
 男と思われていた人物は実は女だった、というのは使い古された感のあるトリック。本短編集でも「双子神社異聞」で既にそのトリックが使われている。なぜ同じ短編集に収めてしまったのか。

「死線」:佐々植仁
 女性の射殺死体がマンションで見付かる。犯行当時、ドアにはチェーンがかかっていた。ドアは少ししか開かない。その上、ドアの側にはタンスが置かれてあり、邪魔をしている。犯人はどうやって女性を射殺したのか……。
 犯人はドアの横から撃ったのではなく、ドアの前に踏み台を起き、ドアを開けた。ドアの上の隙間からならタンスが邪魔をしない。その位置から撃ったのだ。
 ……踏み台を使えば上から撃てる、と犯人はどうやって知ったのか。タンスはその日に偶々ドアを妨げる形で置かれたので、事前に実験しておくのは不可能な筈だが……。
 作者はこれをベースにしたクイズを誰も解けなかったと豪語しているが、単に不自然なトリックだった為、解答を思い付かなかっただけなのでは、と思ってしまう。所詮頓知クイズを小説化しただけのもの。

「亡霊航路」:司凍季
 走行中の列車で、ある男性が殺された。最も怪しいのは被害者の妻だが、妻は犯行当時船に乗っていた。妻は、犯人は夫の愛人だと言い張る。
 刑事は愛人の行方を探る。すると、その愛人までもが遺体で発見された……。
 犯人は無論妻。船を途中で下り、列車を乗り換えて夫を殺し、愛人も殺したのである。
 作者はこの短編集が出た時点で既に本を出していたプロ。鮎川氏も「文章が上手い」と絶賛している。
 ただ……。
 火曜サスペンスの縮小版みたいな退屈な短編。時刻表トリックもピンと来ないし、犯人が自殺するところを刑事が説得により阻止する……という展開も新味がない。
 また、担当刑事は男女のペアで、一時愛し合っていたが今はそうでない、という愛憎物語まで盛り込んでいて、まさに女性の作品だな、と思わせる。鮎川氏はこういう所を指して「人間が書かれている」と指摘したようだが、こちらとしては安っぽいテレビドラマの縮小版を強調しているだけのようで、単なる蛇足。
 50枚足らずの短編でプロローグやエピローグまで盛り込むのはやり過ぎ。

「汚された血脈」:乙蘭人
 教授は三年前、助教授が運転した車で事故に遭った。その助教授も大怪我を負った。
 三年後。その助教授は教授の姪と結婚したいと申し出る。姪の面倒を見ている教授は、難色を示す。
 その教授の下には別の助教授がいた。姪は当初この助教授と付き合っていたが、彼と別れ、もう一人の助教授と付き合っている内に婚約に漕ぎ付いたのだ。無論、捨てられた助教授はよく思ってはいない。
 そんなある日、姪の婚約相手の助教授が毒殺される。現場にいたのは教授、捨てられた助教授、そして姪だけ。捨てられた助教授が無論最も怪しいが、他の二人も容疑対象から外せない。犯人は三人の内誰か……。
 犯人は教授。教授はエイズを感染していた。教授は妻に先立たれ、性交関係は誰ともない。となると、血液感染しか残らない。思い当たるのは三年前の事故。その際、教授は助教授の血と接触してしまったのだ。助教授から感染したことになる。つまり、姪の婚約者でもある助教授は、エイズ患者だったのだ。姪との結婚は許せないと慌てた教授は、助教授を殺した……。
 しかし、殺された助教授はエイズ患者でなかったのが判明する。教授は事故の際、輸血を受けた。その時に感染したのだ。
 ……つまり犯人は教授ではなく、実は……という所で終わる。
 自分みたいにとろい読者としては、はっきりしないくらいならその分をカットして、教授は思い違いで殺人を犯してしまった、という皮肉な結末にしてもらいたかった。オチがきちんと説明されていても分からないことが多い身としては、こういう終わり方だと評価が下がる。
 作者は長編の構想を練っていると述べているが、それはどうなったのだろうか。



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Last updated  2006.11.29 17:07:24
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