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2015.08.09
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カテゴリ: 邦書

 魔法や魔術が常識となっている世界で起こる事件を、戦地調停士の探偵役が解明する、というファンタジーとミステリーを融合させた「戦地調停士シリーズ」の第1作。


粗筋

 魔法や魔術こそ「科学」であり、「兵器」でもある世界。
 竜もいた。強力な、人間を超越した存在である竜は、世界中にも6匹しかいない。その中で人間と常時接触出来るのは、ロミアザルスという村にいる竜だけだった。村民は竜を大切にしており、結界を敷き、人間が無許可で竜に接触出来ないようにしていた。
 竜の存在により、ロミアザルスは寒村にも拘わらず周辺諸国から一目置かれており、和平会談の場となっていた。
 戦地調停士のエドワース・シーズワークス・マークウィッスル(ED)、風の騎士のヒースロゥ・クリストフ(ヒース)、そしてカッタータ国の特務大尉レーゼ・リスカッセの三名が、ある戦争の和平会談をセッティングする為、ロミアザルスを訪れる。会談を行うには竜の許可が必要なので、会いに行く。すると、竜は死んでいた。鋼鉄らしき物体が突き刺さっていて、明らかに他殺だった。
 竜の死を知った村民は怒り、誰がどういった理由で竜を殺したのかが解明されない限り、和平会談の場は提供出来ない、と言い切る。
 ED、ヒース、レーゼの三人は、「殺竜事件」の謎を解明しなければならなくなった。
 竜との面会は許可制になっていた。許可が無い限り、村民ですら接触出来ないし、しない。竜が生きているのが最後に確認されてから死体発見までの間に面会したのは、6名。
 容疑者は、6名に絞られた。
 ED、ヒース、レーゼは、各地に散らばる容疑者ら6名を一人一人訪れる旅に出る。
 容疑者らは、いずれも竜との面会で人生観が変わった、と口を揃えた様に言う。竜が死んでいる事は全く知らず、当然ながら竜を殺害した犯人ではなかった。
 最後の容疑者が犯人でないと判明した時点で、EDは事件の真相に気付く。
 竜は、ロミアザルスの村民全てによる策略によって殺されたのだ、と。
 本来、竜は人間と接触したがらない生物であり、人間も余程の事が無い限り竜と接触する真似はしない。そんな状況の中、竜の側にロミアザルスという村が出来たのは、村自体が竜を殺す為に立ち上げられたからだった。
 村は、何世代にも亘って竜と接触。竜の信頼を獲得し、警戒を解く事に成功。竜を殺すチャンスを窺っていた。
 が、世代を下るにつれ、竜を殺害しなければならない根拠は不明になっていった。村は、「竜のいる村」として重要視される様になり、竜がいなくては存続出来ない状況になっていたのである。
 その均衡も、時代の変化によって崩される。竜が住む場所には地下資源があった。村自体の存続も、周辺勢力によって保障される事に。こうなると、竜の存在は得どころか、損だった。
 村民は、数世代振りに、村が立ち上げられた原点に回帰し、竜を殺害する計画を実行。開いた竜の口の中で銃を発砲する、というものだった。鋼鉄は、外から突き立てられたものではなく、体内から飛び出した銃弾の先端部分だったのだ。
 竜には、村による殺害計画を跳ね返す魔力はあったものの、数世代に亘って信頼関係を築いていた筈の人間らに裏切られた事に絶望。村民による殺害計画に屈する事を自ら選び、「自殺」したのだった。


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解説

 ファンタジーRPGを小説化した様な内容。
 ファンタジー小説として読む分には問題無いが、やはりミステリーとして読むと、その展開に首を捻ってしまう。
 魔法や魔術が当たり前、という世界で、まともなミステリーが成立すると期待する方がおかしいのかも知れないが。

 探偵役のEDは、「6名の容疑者」が犯人でないのは、旅に出る前から知っていた。
 6名に会いに行っていたのは、時間稼ぎに過ぎなかった。
 ファンタジー小説の場合、6名に会う事自体が「冒険」を構成するエピソードになるので、問題は無い。
 一方、ミステリーとして読んだ場合、作中の謎を構成する重大要素であると匂わせながら、最後になって「別に無くても成立していた」では、裏切られた気分になる。ミステリーは、無駄な部分は可能な限り省くのが鉄則だから。エピソードの為のエピソード、作中の謎とは無関係な「文学」的描写は、必要無い。姑息な陽動と映る。

 キャラ設定も、ゲーム化やアニメ化を意識した部分が多い。
 登場人物が無駄に多いのである。
 6名の容疑者(いずれも少し登場するだけだが、無駄に個性的)も、結局キャラを増やす為の措置に過ぎない。
 メインとなるED、ヒース、レーゼの3キャラも、本作の展開を見る限りでは、2人くらいに集約出来た感じ。3人にしてしまった為(この内2人はほぼ無敵のスーパーキャラで、切迫感を抱かせない)、持て余している印象を受けた。

 ラストで明らかになる「真相」も、何となく予想出来てしまい(村民以外で犯人は有り得ない)、驚きは少なかった。
 寧ろ、「その程度で折角の竜を殺すか?」と疑問に思う。
 人間を超越した、全知全能の存在である筈の竜が、人間に裏切られたくらいで絶望的になって自ら死を選ぶ、というのもおかしい気がする。人間より遥かに長生きする竜が、たった数世代分の人間と接触した程度で警戒を解く真似はしないだろうし、村の存在の目的だって、そもそもお見通しでなければならない筈。

 ファンタジー小説のファンからすれば、「魅力的なキャラ満載の、シリーズ第1作!」という事になるのかも知れないが、ミステリー小説として読む者からすると、無駄が多く、「真相」も練られておらず、イマイチ感が否めない。

 本作は、シリーズとなる舞台設定を説明する為のものといえる。
 キャラや設定に興味を持ち、全作を通して読みたい、と感じられる読者からすれば有難い一冊なのだろう。が、キャラにも設定にも特に興味を持てないと、これ一冊でお腹一杯になる。







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Last updated  2015.08.10 00:13:04
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