・・終点


島の突端まで行けば何かに出合えるかもしれない。
小さな期待を抱いてバスに乗った。
玄界灘の夕日を見たい、そんな思いもあったのである。

20分程で国民休暇村に着くと、乗客の殆どは下車した。
残るは3人だけである。
海沿いの、人家らしきも見当たらない道を曲がりくねるうちに、
私は不安に駆られて乗客の一人に尋ねた。

「終点には何かありますか?」
「僕達も初めてなので分からないんですよ。兎に角行ってみようと思って」
応えた後、彼は地図を広げた
まあ何とかなるだろう。駄目なら引き返せばいいんだから。
そう思ってシートに身体を埋めた。

やがてバスは海岸線から外れて田圃の中を走った。
行く手の山間に小さな集落が見える。
大きな瓦屋根は寺に違いない。

暫くしてひっそりしたガソリンスタンドの前でバスは止まった。
終点である。やっぱり引き返した方が良さそうである。
運転手に折り返しのバスの時刻を確かめてから
私はバスを降りた。

「歩いていけばヨカトニ」
「ここをまあっすぐ行けば10分程で行けるト」
「バスなんかに乗ることナカトニ」
バス停の傍に居合わせた主婦は口々に言うが、
私は到底歩く気にはなれなかった。
一緒に降りた学生らしきは、もう山の方に向かって歩き始めている。
麓の寺にでも行ってみるつもりなのだろうか。

時計はもうすぐ3時を指そうとしている。
博多を出てから既に5時間、私は些か疲れていた。
漸く出合った自動販売機に硬貨を落とし込む。
ガチャンという音を立ててジュースが飛び出してきた。
砂に水が音もなく沁みていくように、
冷たいジュースは、私の乾いた喉を潤し、
空っぽの胃袋に沁み込んでいった。

© Rakuten Group, Inc.
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: