三丁目の空き地 ー妄想? 想像力豊かと言って下さいー

三丁目の空き地 ー妄想? 想像力豊かと言って下さいー

世界


僕は人を斬った。長い、包丁よりも遥かに長い、刀で。
ー2人ー
思ったより、簡単に人は死んだ。
ー3人ー
首を肉の筋を滑らせるように刀身で撫でると、笑いが出るくらい、血が出た。
ー4人ー
遅い。何で皆この息苦しい空間で居ようとするんだろう?
ー5人ー
もがかなくても良い。
ー6人ー
足掻かなくても良い。
ー7人ー
僕は君達を救うためだけに、きっと、創られたんだ。
「さぁ、君が最後だ。まだ、運命とやらに、牙向けるかい?」
 僕は、わざと、最後の一人、彼女に選択権を与えた。
 逃げるか。
 抵抗するか。
 自壊か。
 どれにせよ、選択権はあるようで、無い。
 結局はどれも辿るのは死という破壊だ。
 しかしだ。彼女は動かなかった。
 そういえば。先程から微動だにしない者が一人居た。こいつだ。
 じっと仲間の死に逝く姿を、まるでそれが贖罪かのように、最後の最後、息を引き取るまで、恐ろしい程、「屍」を見つめていた。
 良く解らなかった。死は人を狂わす者とばかり思っていたのに。それが楽しみで、さっき、ほんの数分前、殺人を犯したのに。
 何故悲しまない?
 何故怒らない?
 何故恐怖しない?
 その美しい顔を歪ませろよ。くず。
 けれど、彼女は光の無い、人形みたいな目で僕達を見つめる。屍体と、僕を、まるで同じモノを見るような瞳で。
 何だよ・・・それじゃあ・・・僕は馬鹿みたいじゃないか。君を壊したくて君を狂わせたくて君を駄目にしたかったのに。
 死体は七つ。いや、八つか。俺も合わせて・・・ね。
 彼らたちだけじゃあ、彼女を狂わすのは役不足だったようだ。現に、彼女は彼らが死んでも何も感じていない。きっと、彼らが生きていたことさえ、彼女は今気づいたに違いない。自分の、家族だというのに。
彼女の父親彼女の母親彼女の叔母彼女の叔父彼女の兄彼女の姉彼女の弟、大切だと思っていた宝物だと思っていた掛替えの無いモノだと思っていた。それは、思い過ごし?
 彼女は良く笑っていた。それは遠くから見ても解る程、清々しく、奇麗なくらい、笑っていた。彼女は良く、家族の話をした。その顔はその顔で、どこか魅力を持った、いつもと違った笑顔だったから。だから。大切だと・・・
ー思った?ー
 いつの間にか、下を向いていた。僕は、いつの間にか血溜まりの中の僕と向き合って対話していたようだ。今の声は聞き間違えようが無い、彼女の声だ。妙に透き通った、凛とした彼女の声だ。
僕は顔を上げる。目の前の彼女は、まるでロボットのように決められた笑顔を僕に魅せていた。
「うふっ」
 僕の顔が、きっと可笑しかったのだろう。
「あはっ」
 殺人鬼らしくない、殺人鬼だから。
「あはははははははははははははははははははははははははははははははははははは」
 彼女の大切な、失ってはいけないモノって・・・何だよ。
 彼女は踊る。舞う。そして歌う。彼女は父親に見せるように母親に魅せるように、けらけらと顔を歪ませて。
 僕はもう、嫌だ。僕の望み通りにならない彼女なんて、いらない。
 長刀を振ろう。我が家にあった、大層に飾られた名も無い刀。君に刃が刺さったら、最後の最後に君は、僕の期待に応えてくれるよね。
「無駄無駄無駄無駄あははははははははははははははっ分からないの判らないの? あははははははははははははははっ」
 交響。笑いだけが、部屋に響き渡る。
「私をおかしくしたいんでしょ狂わせたいんでしょ、けど、無駄でーす♪」
 どうだか。
「馬鹿だな馬鹿だな。愚かだね。良く良く考えてみてよ。人間がたかが素人の一太刀で7人もの人達が死ぬと思う?」
 良く解らない。
「君は何を言っている?」
「あはははははははははははははは気にしたね気にしたね。気になるよねフツー気になるよね。あははははははは、うん、うんうん。素直で良いよ。凄く良いよ。その反応、君は酷く普通だよ。そうだよ。一般人がおかしくなろうとしちゃいけないんだよ。良いかい。私は普通じゃないの。普通じゃない特別なの。あはははははははははは。おしいねおしいね。もう少しで君は・・・うふっ。もう済んだことよね。あはははははははははははは」
 なんだ・・・狂っているのか。普通じゃないのか。なら、そうだな。それなら、彼女が泣かない理由が分かる。普通じゃないんだ。彼女に常識が無いんだ。彼女の世界に常識が無いんだ。ここはもう、彼女の世界だ。だから、死んだはずの、確かめたわけじゃないけど、確かに息を引き取ったはずの彼女の父親彼女の母親彼女の叔母彼女の叔父彼女の兄彼女の姉彼女の弟が、平然と俺の前でニコニコと微笑むのは普通なんだ。

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