福井県民国~for maniac people~

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第4話 過去



 只今。
 中学の時の初恋の人が目の前で私のカロリーメイトを食べております。
 非常の時のためにと備えておいたカロリーメイトを食しています。
 ジャックされた電車の中で悠々とカロリーメイトを笑顔でほおばっております。

 何故こんな状況になったかをハイライトでお送りしたいと思います。私、椎木達夫は家出を決行。長崎へ行くため夜行に乗るとそこには美少女が。しかしいきなり電車ジャックに巻き込まれる。そこでなんと犯人が落とした携帯についていたストラップを3人とも所持していたことが判明。3人は中学の時の親友だったのだったとさ・・・

 しかし綾香がこんなに可愛くなっているとは思わなかった。関西弁が混じっているような混じってないような感じの喋り方にイライラすることを除いてもかわいい。そんな彼女が唐突にこんなことを聞いた。
「ねぇヤブさー、こんなにすぐにジャック諦めてええの?何なら協力するし」
「いや、それはいいよ。俺、あの後すぐ家出して先輩の家に居候したんだ。で、1年ぐらい経った時に突然先輩が電車ジャックするって言って。一度断ったんだけどその後かなりボコられて、半ば強制的に参加させられたんだ。だからみんなに会えて踏ん切りついた。でももうそんな話はやめようよ。せっかく会えたんだし。あ、俺もカロリーメイトちょうだい」
と、カロリーメイトに手を伸ばそうとした時に悲劇は起きた。
「いやーっ!!!私が全部食べるーっ!!!」
綾香が叫び声をあげてしまった。私とヤブが必死に口を覆う。
「オイ大声出すなよ!仲間が来てみんな殺られるぞ」
「モゴモゴ・・・ゴメン。フルーツ味ならあげる」
「いやいやそんな話じゃなくて」と突っ込もうとしたが何とかこらえることができた。
「この電車、気密性が高いから外にはあまり漏れてはいないと思うけど。ちょっと先輩に弁明してくる。待ってて」
と、ヤブがささやき部屋から出て行った。

「まったく。何やってんだよ」
「本当にゴメンな。ちょい叫びすぎたわぁ」
ヤブが出て行ってから少しの間は話していたものの、次第に口数は少なくなり、部屋の中は静寂に包まれた。
 これを破ったのは綾香のほうだった。
「二人きりになるなんて、初めてだよね」
いつの間にか綾香の言葉は普通に戻っていた。
「初めて会ったのは中2のクラス替えのときだったっけ。タツったらあの時ずっと私のこと見つめてたでしょ。あれめっちゃ恥ずかしかったんだから。その・・・なんか瞳がきれいだったし。なんて言えばいいんだろう。もしかしたらあの時私―――」

 その次の言葉が聞きたかった。しかし何故あの男はいつも間が悪い時に現れるのだろうか。皮肉にも客室のドアが開いた。ヤブが顔を出した。顔から察するに大丈夫だったのだろう。
「なんとか落ち着いたわ、ってまた邪魔したみたいやね。ならもうちょっと2人で楽しんでて下さいな」
 またドアが閉まった。が、ヤブが戻ってくるまで一言も喋ることはなく、彼女からあの言葉を聞くことはできなかった。

 窓の外を見ると雨雲が立ち込めて、今にも何かが降りだしそうだった。まるでこれからのことを予感するようだったが、今の私にはただ願うことしかできなかった。


>20:31 静岡駅通過


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