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リンガラ中興期
―――アフリカン・ジャズや0.Kジャズの音楽は、またたくまにアフリカ全土に広がっていった。 1960年代に入り、30年代のキューバ音楽に続いて、第2波といわれる外国音楽の波がコンゴに押し寄せる。R&B、ツイストなどである。 そして、避けて通れないのは、コンゴ人独自のリンガラの勃興と隆盛は、アフリカ民族主義の展開と同時期だったことである。1956年、0.Kジャズが産声をあげたのを同じくして、独立運動が急速に高まっていく。1959年、独立集会を弾圧した当局への暴動のため、死者200名をもだす悲劇もあった。混乱と混迷のなか、1960年6月30日、コンゴは独立を遂げたが、政治的混乱は増すばかりであった。独立して5日目にして、一部のコンゴ人兵士達がベルギー人司令官にクーデターを起こす。これを、ベルギーは弾圧。戦後史に色濃く悲劇の黒と赤の色を落す、コンゴ動乱の幕開けであった。コンゴは動乱と殺戮の時代となるのだ。国連軍の介入、ベルギーに後押しされたカタンガのチョンベ政権の分離、南カサイ州の分離独立と続き、モブツがクーデターを起こし、一時権力を握る。その間、大統領カザフフと首相ルムンバが対立、解任されたルムンバはモブツの軍に逮捕されたのち、不可解な死をとげる。残されたルムンバ派は現キサンガニに新政府の樹立を宣言する。こうした国内混乱は、国内の混迷に起因するだけではもちろんなかった。東西冷戦を背景にアメリカ、ソ連、中国などの諸大国をはじめ、利権がらみの部族闘争ともいえる南アフリカ、ジンバブエ、アンゴラ、ウガンダなどアフリカ諸国の介入、国連もコンゴ動乱で大きく揺れた。現地へ飛んだ、国連のハマーショルド事務総長が謎の飛行機事故で死亡。1964年、国連軍が撤退すると、今度はゲリラによる反乱が各地で発生。中央政府は手をこまねいているのみで、再びアメリカ、ベルギーに頼り、白人傭兵による残虐な作戦により、治安維持(?)するしか手立てがなかった。反乱の鎮圧ののちも、政情は安定せず、1965年11月、モブツ司令官が再びクーデターを起こして、自らが大統領に就任した。そして、以降コンゴは周辺諸国や国内諸問題を抱えたまま現代にいたる。最近、モブツに対するクーデターによりザイールから再びコンゴと国名がかわったのは記憶に新しい。2002年、アタシがすぐ近くの国、カメルーンへ飛んだのは、まさに燻りつづけた煙が再び火の車となった時代でもあった。 このように、リンガラの黄金時代が、いかに激動と混乱と流血に彩られた時代だったかが読みとれることだろう。 しかし、リンガラは政治を謳わない。ルンバは激変する世情をよそに、あくまでも甘く、あくまでも美しいルンバを奏でた。 1960年代末から、R&Bなどの影響を色濃く受けた新世代が登場してきた。なかでも、ザイコ・ランガ・ランガは一躍若い世代のトップにのしあがった。彼らは、既存のルンバを踏襲しつつも、全く新しいリンガラのスタイルを確立した。美しいルンバ・パートと激しいダンス・パートの構成を特徴としたのだ。コーラスはますます厚みのあるものになり、従来はなったカスレ声の歌手の掛け合い(アニマシオン)の登場、ダンスを促すシャウトを交じえ、パーカッションは強力になり、ドラムもスネアを連打する独特の奏法となった。第3世代として位置付けられる彼らの手法は以降のリンガラのスタイルを不動のものにする。それは、音楽における若者への移行という社会的変化の反映でもあった。モブツの政権により、レオポルドヴィルからザイールと名前が変わった首都でも、バーの塀の上からしか聴くことのできなかった若者が、年長者やエスタブリッシュメントから音楽を奪取したのだった。
―――1979年、「カバッシャ」のヒットにより、ザイコ・ランガ・ランガのスタイルのみならず、リンガラのスタイルが確立された。ザイコのルンバ・パートやダンス・パートを生み出したスタイルは、新世代のスタイルというだけにとどまらず、その後のリンガラ・スタイルを他に追随するものがないくらい、その他のスタイルを一掃するものだった。彼らの音楽は、ロック、ソウル、そしてディスコ音楽色の色濃い影響が反映していた。 ザイコ・ランガ・ランガの誕生も一見、政治とリンクしているようにも伺える。ベェトナム反戦運動などの、世界的な若者による政治・文化革命運動が起こっていた時期、1969年である。しかし、当時モブツの独裁制の国、情報と無縁の国、ザイールで外国の若者の蠢きなど無縁であったろう。しかし、現代の私たちは、こう読み取る。「世界は常に一つしかない」そう、ここザイールでも若者は、伝統的秩序をよりどころとしている年長者から、音楽以外の領域でも若者の―あり方―を、押し広げていったのだろう、と。伝統的アフリカ社会では、成人の儀礼、が終えるまでは、社会の一員としてもの資格がなかった。今でも、草原・農村部ではそうだ。しかし、キンシャサでは、形骸化した権威をよりどころにすることは、崩れてしまった。 1977年、ザイコから分離したヴィバァ・ラ・ムジカを結成したパパ・ウェンバは、若者に自立を説き、サップという独特の若者のおしゃれを説いた。 かくして、社交界のリンガラは、パワフルな演奏にのって、若者たちが、嬉々として汗を流しながら踊る音楽へと進化した。
アタシたちの―自由―の扉は開かれた。
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