発端は、チップの幼稚園の先生がだした、こんなお題だった。

「見て見て~♪チップが描いたの♪」
 そう言ってチップがコーラルに見せたのは、一枚の絵。赤いつんつん髪の人と、紫のくるくる髪の人が、手をつないでお花を持っている、幼稚園児の描く、簡単な絵。何の変哲もない絵。コーラルはその絵の裏をひっくり返すと、そこに字が書いてあるのを見つけた。
 そして、それを見たコーラルの表情が変わった。
「こ・・これわ・・・・・!!」
 コーラルは、チップの絵をつかんだまま、どこかへ全力疾走していった。
「ああ~チップの絵~」
 チップは叫んだが、もちろんもうコーラルの耳に届いている筈がなかった。

「な・・なんだとぉ~!!!!」
「それは聞き捨てならないわっ!」
「許しません!!!」
 コーラルから絵の事を聞いた人々が、一堂に会した。
 コーラルをはじめ、アズール、カンジー、ポーチ、ダーツ、そして、チップである。
 コーラルは、そこにいた人々にチップの絵を広げて見せた。そして、その裏をめくり、一同の鼻先に順々に突きつけていった。
「みんな、こんなことが許せると思う!?『しょうらいはタケルのおよめさんになりたい』なんてことが!!」
「チップの絵~っ」
「まったくだ!俺のタケルに!!」
「僕のタケルさんに対して!」
「もう!タケルは私のものなのに!!」
 一同はムッとお互いの顔を見合わせた。
「タケルは俺(僕)(私)(コーラル)のものだ(です)(よ)(なの)!!!!!」
 チップ以外の全員が、ほぼ同時に叫んだ。チップは、コーラルがやっと開放してくれた絵を、しわをのばしながら大事にカバンの中にしまっていた。
 こうして、タケル争奪戦が本人のまったく知らないところで幕を開けたのである。

「男のくせに!男同士は結婚できないことぐらい知ってるでしょ」
 先に仕掛けたのはポーチであった。
「たしかにそうですが、いくら好き同士だからって、かならずしも籍を入れるとは限らないでしょう。それより、恋愛の自由を奪う権利なんて、どこにもありませんよ」
「ぐ・・・・・たしかにそうだわ・・・・カンジーのくせに、あたしにたてつくとは・・・・・・。ふっ・・・でも、それってボーイズラブっていうのかしら?俗にいうホ・モ!!!」
 口の達者なポーチは知識で対抗するカンジーをいまのところ圧している。とても、素人にははいりきれない、言葉の勝負であった。

「フフフ……」
 ダーツが不敵な笑みをこぼした。そして剣を取り出し、いきなりアズールに向かって切りかかった。
「アズール様、覚悟ぉ!!」
「なんのぉぉ!!!」
 ダーツの強烈な殺気を感知したアズールは、すかさず自分も剣を抜き、ダーツの攻撃を受け止めた。
「ちぃぃ!」
 二人は激しく剣を打ち合った。辺りにキィィン、という音が響きあう。二人とも、かなり本気であった。恐るべし、タケルパワー。
 しばらくの激闘の末に、ダーツの剣が飛んだ。剣はクルクルと回転し、近くの地面にささった。アズールは、勝者の笑みを浮かべながら、ダーツに剣を向けた。
「俺の勝ちだ」
「うぅ・・・・・」
 ダーツはがっくりと肩を落とした。やはり力の勝負ではアズールには勝てなかった。
 ダーツ、敗退・・・・・・・・・・・。

 ―――これで一人・・・・次に落とせそうなのは・・・・。
「・・・お兄ちゃん♪」
 コーラルはにっこり笑顔でアズールに向き直った。
「コーラルに、譲ってくれない?」
「・・・・・・・・・」
 ああああああ・・・可愛い・・・コーラルのためなら、タケルの一人や二人ぐらい・・・・・(←?)
「当たり前だろう、コーラル。お前のためなら、それぐらい譲ってやろう!」
「本当?ありがとう、お兄ちゃん!!」
 コーラルは、兄にギュッと抱きついた。
 ―――フフ・・・♪まずは一人♪
 コーラルは本日、通常の三倍黒かった。しかし、アズールはそんなことに気づくはずもなく・・・・・こうして、親友を妹のためにいともあっさり捨てたアズール、敗退。

「・・・・うわぁぁぁぁぁん!!!」
 長い長い口論の末、カンジーがポーチに泣かされ、逃げ帰るという事態に陥ってしまった。何を言ったのかは知らないが、とりあえず討論の天才少女、ポーチの勝利。カンジー、敗退。

 残すところ、ポーチ、コーラル、チップの三人となった。
「フフ・・・・女の子だけの勝負になったわね・・・・・」
「こうなったら、正々堂々、家庭的料理対決で勝敗を決めよう」
「・・・・なんでチップまで・・・;」
 こうして勝敗は料理対決で決定されることになった。お題はおにぎり。これが一見簡単そうで、意外と難しい。このメンバーで、優勝できるのは、果たして誰なのか・・・・・・。

 ・・・・・・・・・・・・・。
 それはもう、おいしいとかそういう次元のものではなかった。

「どう、私のおにぎりは。おいしそうでしょう?」
「コーラルのはそんなハート型みたいな変なおにぎりじゃないもん。ほら、中にはおいしい白あんがいっぱい入ってるんだよ」
「なによ、白あんって。まずそう~。あたしのはそんなゲテモノなんか入ってないわよ。ほら見てよ。おいしそうなバニラアイス。チョコレートソースもかかってるんだから」
「うえ~まずそ~」
「なによ!」
「そっちこそ!!」
 どっちもどっちである。それにしてもこの二人、本当におにぎりというものを知っているのだろうか・・・・・。
 にらみ合う両者は、ふと、側を通りかかったバカラに目をつけた。
「ちょっとちょっと♪」
「これ食べてみてvv」
「あぁ?」
 目の前に差し出された異臭を放つ物体を、見つめるバカラ。こんなもんが食えるか・・・・と、その目は言っていた。しかし、にこにことバカラを見つめている二人の少女からは、食べなきゃ殺すというオーラが発せられているのがバカラには分かった。さすが漢のバカラ。後には引けないと本能で悟り、そのおにぎりという怪しげな物体を、一気に口に放り込んだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぐぁ・・・・!!!」
「きゃーちょっと!何で倒れんのよ!!」
「救急車ぁー!」
 倒れるほどまずい・・・・・そんな料理を作った二人。問題外で、敗退。
 と、いうことは残ったのはチップただ一人。勝者、チップ!!!

 張本人のチップは、もともとわけが分かっていなかったので、のん気にマイペースでおにぎりを握っていた。しかもちゃんとした鮭おにぎり。ポーチ、コーラルに勝ち目はもともとなかったのだった。

 その後、チップがタケルに結婚しようと何をしようと、皆は暗黙のうちに了解するようになったのであった。



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