頬 竹内てるよ



生れて何も知らぬ 吾子の頬に
母よ 絶望の涙をおとすな
その頬は赤く小さく
今はただ一つのはたんきやうにすぎなくとも
いつ人類のための戦ひに
燃えて輝かないといふことがあらう
生れて何もしらぬ 吾子の頬に
母よ 悲しみの涙をおとすな
ねむりの中に
静かなるまつげのかげをおとして
今はただ 白絹のやうにやはらかくとも
いつ正義のためのたたかひに
決然とゆがまないといふことがあらう
ただ 自らのよわさといくじなさのために
生れて何も知らぬわが子の頬に
母よ 絶望の涙をおとすな


               -詩集 花よわれらは-



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