inatoraの投資日記

inatoraの投資日記

2004年10月21日
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数理ファイナンス学者が社会的には不要な存在なので、ビジネススクールに行ってそれを勉強すること自体が無意味だということは十分にご理解して頂けたかと思いますが、最後に「日本のファイナンス学者のレベルとそこに群がるカモ学生について」述べたいと思います。つまり、「学会の中で見た日本のファイナンス学者の価値」についてです。

私は、「ファイナンス学者のレベル」と「ファイナンスを研究しようとするそもそもの動機」には大きな相関関係があるかと思っているのですが、その前に以下のデータから示したいと思います。

(1)ノーベル賞の受賞者数

これは、その国の学者の質を測る一つの指標として普通の人が真っ先に思いつくものです。ここで注意したいのは、ノーベル賞を受賞した学者だけが優れた学者ではないということと、ノーベル賞を受賞したからといってその学者が必ずしも優れた学者であるとは限らないということです。そうした弱点はありながらも、これを一つの指標とするのは「その国では最高レベルと考えられる研究者が世界的に通用するか?」を見ることが出来るからです。

残念ながら、日本におけるノーベル経済学賞の受賞者は今のところゼロです。(と言っても、受賞できそうな学者が皆無というわけではありません。それは次の項目をご覧下さい。)

余談ですが、「ノーベル経済学賞」は正式には「アルフレッド・ノーベル記念経済学スウェーデン銀行賞」と言います。アルフレッド・ノーベル本人ではなくスウェーデン銀行がその設立300周年記念に出資し設立されたことによるものです。このため、ノーベル経済学賞の廃止を訴えているノーベルの末裔もいます。さすが、発明家の末裔です。経済学の無意味さを分かっている上での発言としか思えません。

2.他の学者に引用される論文の数

個々の学者の能力を測る一つの基準としてよく言われているのは、「他の学者に引用される論文の数」です。ノーベル賞級の真にオリジナルの研究は稀であり、殆どが何らかの先行研究を参考にした論文であるということを踏まえると、この指標こそ国際的に通用する学者であるかを見るのに相応しいかと思います。英語が世界の共通語となりつつある現在では、英語圏の学者のほうがやや有利であることを加味しても、なお頑健な指標だと思います。

日本の経済学者は世界の先進国の中で見て、この数が非常に少ないのです。ちなみに、日本において論文を引用された回数の多い日本の経済学者は以下のとおりです。(「ISI-トムソン」のデータによる、1980~2002年1月までの世界主要学術誌約1700に掲載されている論文から抽出。上位10人のみ掲載。)


青木 昌彦 米スタンフォード大教授   1346
速水佑次郎 政策研究大学院大教授    1332
林  文夫 東京大教授         1167
藤田 昌久 京都大教授          915
青木 正直 米UCLA大名誉教授     835
森嶋 通夫 英ロンドン大名誉教授     828
宇沢 弘文 東京大名誉教授        815
清滝 信宏 英ロンドン大教授       720
伊藤 隆敏 東京大教授          597

世界を見ると1000以上はざらにいますから、日本の4人というのは少ないのではないでしょうか?ちなみに、日本でも有名な経済学者であるステイグリッツは5000以上だそうです。

http://www.be.asahi.com/20021130/W13/0040.html



そもそも、これほどまでに他の先進国と学者のレベルに差がついたのは何でしょうか?日本の大学についてよく言われているのが「学者間での競争がない」というもので、これはかなり大きいかと思います。これにつきましては、「大学崩壊!」(川成洋(著)、宝島社新書)などをご参照ください。日本の大学、ひいては、大学教授のお粗末さが良く書かれています。

さらに、ファイナンスの世界ではこれに加えてもっと大きな要素があるのではないかと思います。それは「ファイナンスを研究しようとするそもそもの動機」です。方法論が正しいか間違っているか以前の問題として、ファイナンスは学者自身が金儲けのための研究に興味がなければ話になりません。

アメリカのファイナンス学者はこのあたりの意識がしっかりしていて、「ファイナンスの研究は金儲けのため」という動機が強くあるために、金儲けにならない方法論をおかしいと指摘する学者が常にいましたし、たとえ間違った方法論であってもそれを実際の市場で試すことを重視していました。ファイナンス学者が自らの資金で試してみたり、運用会社を設立したりしているものです。

ベンジャミン・グレアムがコロンビア大学でバリュー投資の講義を始めて、それが生き残っているというのは非常にすばらしいことです。ファイナンスを金儲けのための研究とはっきりと位置付けているからだと思います。

また、ノーベル経済学賞を受賞したファイナンス学者2人が加担したLTCMについても、方法論が間違っていたとはいえ「自分達の理論を実践で試してみたい」という意気込みについてはそれなりに評価すべき点であるかと思います。



歴史的背景よりも出てくる数式のほうに興味があるので、現実にどのような問題があるかを知ろうとしないのです。その差がもろに学者としてのレベルにも現れているのではないかと思います。したがって、日本のファイナンス学者は勉強する動機を入り口からして間違っているのです。

これは、ファイナンスを勉強しようとする学生についても言えます。「金儲けのため」ではなく「数学を応用できるから」という動機で勉強を始める学生が増殖している限り、日本のファイナンスの未来は相変わらず暗いでしょう。そんな世間知らずの学生がビジネススクールに行きたがっている様をみると、これはカモと言っても良いでしょう。

この日記の締めくくりとして、そんなカモ予備軍に私は以下のことを言いたいと思います。

「ビジネススクールでファイナンスを勉強するような金があるくらいなら、その金を株式投資に回したほうが遥かに有益かと思います。然るべき勉強をすれば(あるいは運が良ければ)儲けられるし、不運にも(あるいは無謀な投資をして)損を出したとしてもなぜ損をしたのかを勉強する機会が出来ます。それに、株式投資の場合、どんな投資手法でも(たとえそれがデイトレードのような手法であっても)、資金を必要としている企業に資金を提供しているという役割を果たします。控えめに評価しても株式市場に流動性を提供する役割を果たします。したがって、生産性のない研究ばかりをしている学者を食わせるために死に金を出した挙句、無駄な時間も労力も取られるくらいなら、実際に株式投資をしたほうが良いのではないでしょうか?それが貴方自身のスキルアップのためでもあり、この日本経済の発展のためでもあるのです。」

今日の言葉:
「数理ファイナンスはさまざまなアノマリー(説明できない例外事象)を発表しているが、実は最大のアノマリーは数理ファイナンス学者の存在そのものである。」





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最終更新日  2004年10月21日 19時39分51秒
コメント(6) | コメントを書く


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おっしゃることはすごくわかります  
okano1234  さん
ただ、inatoraさんが数理ファイナンス学者に殺されないかが心配です。 (2004年10月21日 19時55分27秒)

殺されません。大丈夫です。  
inatora2 さん
okano1234さん
>ただ、inatoraさんが数理ファイナンス学者に殺されないかが心配です。

ご心配ありがとうございます。ただ、殺されることはないでしょう。なぜならば、効率的市場派の学者はこのようなサイトを見ないはずだからです。

「そんなうまい話は、既に市場に織り込まれているはずだから、こうした金儲け話はリスクを調整すると全て幻想である」と考えるからです。

そこで、緊急募集です。当サイトでは、「金持ちのファイナンス学者」と「金持ちになれる方法論を知っていると自負するファイナンス学者」を募集します。

この内容は、掲示板にも掲載します。(多分、ゼロだと思いますので、空振りに終わる可能性が高いですが・・・。)
(2004年10月21日 21時22分39秒)

Re:ビジネススクールにおけるファイナンス教育の効用(日本のファイナンス学者のレベルとカモ学生について)(10/21)  
極楽猫  さん
ファイナンス学者募集とは!
応募がある筈ない、という一つの意思表示でしょうか? (2004年10月21日 21時53分13秒)

極楽猫さま コメントありがとうございます。  
inatora2  さん
極楽猫 さま
>ファイナンス学者募集とは!応募がある筈ない、という一つの意思表示でしょうか?

早速のコメントありがとうございます。これについては、ジョーク半分・本気半分です。

*ジョーク半分について
効率的市場学派をからかう為には格好のネタだと思います。彼らは「市場が効率的だからそうしたうまい話はない」というはずです。したがって、私のような日記の書き込み(バリュー投資で投資リターンを稼ぐ方法)などは時間の無駄ゆえに見ないはずです。したがって、これに対してコメントをしてきた学者は「テメー。言っていることとやっていることが違うぞ。」となります。ちなみに、効率的市場学派をからかうのに、こんなたとえがあります。

「効率的市場学派には落ちている1万円は絶対に拾わない。なぜなら、市場は効率的だから、既に誰かが拾っているはずである。こうして、1万円は幻だとしてその場を何気なく通り過ぎるのであった。」

*本気半分について
ファイナンスの研究の目的は「金儲け」です。「効率的市場仮説」を前提としない現実を踏まえた投資の研究を真剣にやっている研究者がもしいたならば、そうした人達に対してまで「社会的に不要な存在」というのは失礼な話です。したがって、「学者の中にもすごい人がいるんだ」という、私が考えていること(いるわけないよ。そんな学者!)をいい意味で裏切ってくれる人がいたらという期待です。そうした人が一人でもいれば、日本の証券市場の未来も明るいと私は思います。
(2004年10月21日 22時10分07秒)

Re:ビジネススクールにおけるファイナンス教育の効用(日本のファイナンス学者のレベルとカモ学生について)(10/21)  
むしろ実務を先にという意味では、順番が逆かもしれませんが、例えば、日本でファイナンス学者でかつ経済的に成功したというと、「ヘッジファンド・テクノロジー―金融技術と投資戦略のフロンティア」を著した四塚 利樹先生があげられませか。
米国では成功している人はかなりいると思います。
inatoraさんに同感するところは、日本の場合、クオンツは理系出身のかたが多くて、経済学的に考えないところがあるため運用実務と距離感がある人がいると思います。米国ではむしろ計量経済学をベースとし、ロジックをきっちり押さえてからモデル化する人が多いから成功しているのではないでしょうか。
そうはいっても、いわゆるクオンツとして、バブル以降、日系の金融機関、運用会社に採用になり、その後に外資の金融機関や運用会社に転職していったプチ金持ちの人はいっぱいいますので、会社をカモにしているたくましい人も大勢存在していると思います。株をやるにも早めに大きな元手があるほうが有利ですから、フローで稼ぐひつようがありますしね。ちなみに私は文系出身でクオンツ的な知識レベルは低いので、コメントも感覚的で申し訳ないです。 (2004年10月23日 22時55分16秒)

コメントありがとうございます。  
inatora2  さん
キャッツファンドさま

>日本の学者で成功したというと「ヘッジファンド・テクノロジー―金融技術と投資戦略のフロンティア」を著した四塚利樹先生があげられます。

成功の定義についてずれがあるようです。

*私の定義
投資理論を実際に使って投資で儲けること
*キャッツファンドさんの定義
投資理論を基にビジネスを興して儲けること

学問としてのファイナンスはそれを直接使って儲けられるかが重要で、そうした成功はしてないと思います。

また、「ヘッジファンド・テクノロジー―金融技術と投資戦略のフロンティア」をあげてますが、これはLTCMが使用したロジックと同じで、理論的に破綻してます。

>日本のクオンツは経済学的に考えないため運用実務と距離感があり、米国では計量経済学をベースとしモデル化するから成功しています。

経済学を過大評価してないですか?
計量経済学は数学的には高度ですが、その手法を適用するための前提条件が現実の世界で成立しておらず役に立つとは思えません。成功のカギは計量経済学ではなく「より現実をみているか」だと思います。

>クオンツとして日系の金融機関に採用になり、外資の金融機関に転職したプチ金持ちはいます。

これは「サラリーマン」としての成功であり「投資家」としての成功とは違います。

四塚氏のような「ビジネスマン」としての成功や、外資系にいったクオンツのような「サラリーマン」としての成功を否定するつもりはありません。ただ、「金融工学が実際の投資に役に立つ」という幻想は持たれないほうがよいと思います。

異論がありましたらメールください。

注)四塚利樹を知らない人のために
*早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授
(その前は法政大学経営学部教授、ソロモンブラザーズで債券部門で勤務)
*シンプレクス・テクノロジー(ディーリングシステムの開発)の取締役・大株主
(2004年10月24日 01時08分52秒)

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