Get your gun

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白紙の未来  2



白紙の未来 2





「じゃあ神ってどんな形をしてる?どんなイメージを持ってる?」

天井を見上げていた親父が、俺の方を、でも遠くを見つめるように顔を向けながら、また質問を繰り返す。

「神は…人間と同じ形だろ?」
「ふふ…人間か。なぁ、どうしてカミサマは人間の形なのか、考えたことあるか?」
「さぁ?ないな。だって、だいたい描かれてる神って、人間と同じじゃん。仏教だってキリスト教だって、人間の形だから…。」
「もし神がいるとしたら、だ。人間でなくても、他の形でもいいはずだ。虫でも鳥でも花でも、宇宙人でも何でもいいはずなのに人間なんだ。これがどういうことかわかるか?」
「…わからないよ。」
「人間がこの世で一番偉いって言いたいのさ。この世のどんな物よりもね。生命を宿し万物を創り上げた、最も尊く素晴らしい存在である神に人間の姿を当てはめるのは、人間至上主義からきてるんだよ。」
「…」
「なぁ、なんて馬鹿らしい考えだと思わないか?自然界では1分1秒だって、生き物は必死で生きてる。俺たちが飛べない鳥を見ることがないのは何故だと思う?飛べない鳥は他の動物に食われるからだ。自然の摂理ってもんがある。寿命ってもんがある。他の生き物達はそれに従ってるのに、人間はどうだ?こうして技術が発達したのは、そりゃ素晴らしいことさ。だがな、そうまでしてあがいて命乞いして生き延びることが、果たして本当にいいことなのか?俺はそうは思わない。定められた寿命にしたがって生きるのさ。」


漸く、親父の意図していることがわかった。一切の治療行為を拒みたかったのだ。本当に胃潰瘍だと信じていたなら、あんなことは言わなかったはずだから。
やがて親父は自分の手で点滴の針や酸素マスクなどの機械を外し、俺はそれを咎めなかった。命の終焉に向かっているこの時に、親父がそうしたいという意志を、どうして止められただろうか。

コンコン…

部屋をノックし、入ってきた若い医師は、この光景を見て血相を変えた。嫌がる親父に無理やり処置を施し、おまけにお袋を自宅から呼び寄せて、俺はさんざん絞られた。


それから2週間後、結局治療の甲斐なく、病室のベッドで親父は息を引き取った。最後の最後まで、意志を尊重してやれないまま…。




シーモンスターたちの寿命は、そう長くない。今思えば、どうしてこの卵を孵化させてしまったんだろうと思う。飼育キットを興味本位で買ったことに、今更後悔している。自分の手で死なせてしまうなら、はじめから育てなければいいのに。こんな酷いことをするなんて、どうかしてるさ…。
おもちゃ屋に並べられ、卵を孵化させられ、餌が無くなれば餓死させられる。全くもって人間の勝手だらけだ。どこで生活するか何を食べるか、それだけじゃなく生きるか死ぬか、そんな重要なことでさえ人間たちの手に左右されるなんて。


何が出来る?何をすればいい?
自分の未来も、こいつ等の未来も。


明日提出のプリントは、いつまでたっても白紙のままだった。



END





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