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2004.07.02
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「・・・一番身近な夫にも、せいぜい足について『農家の人のように逞しい足だ』と讃えられるけど、
『労働』を抜きにして『足』だけを手に入れてしまったその後ろめたさから、
私はいつもロングスカートの中にその立派なものを隠している」

隠しているという感覚は、はいているというそれよりもピッタリくる。
このロングスカートをヒラヒラさせながら自転車に乗るものだから、
よく知らないおばさんから声を掛けられる。
「奥さ~~ん。スカートが自転車に巻きつきそう~~」
「は~~い!」もちろんこれは生返事。そのままヒラヒラと立ち去るのが常。


買い物の帰りだった。
いつものように競輪選手の如く自転車を飛ばしていると、急に腰が千切れたように痛み、
そのまま地面に打ち付けられそうな勢いで引っ張られた。グエッっと声がでた。
ハンドルから手が、ペダルから足が、離れた。ビリビリ~~ッ!という引き裂かれた音。
もう自転車は動かない。視界は道路から、青い空に変わっている。
落ちるっ!ヒラヒラの緩やかなスカートがタイトのように体を締め付けて、
足の自由さえも奪ったが、その「逞しい足」はタイトスカートを引き裂いてでも、
ふんっ!と地面に足をつけ私を支えた。が、1秒後には倒れた。それでも衝撃を免れただけありがたい。
私の目線のすぐ傍にあった車輪には、ヒラヒラのスカートが巻きついていて、
体を覆っている以上に巻きついている部分が多かった。
1:4の割合で、糸車のようにスカートを巻きこんだ車輪は、私を脱衣場に立たせているかのように


この一瞬は「生き恥」で、200m先の我が家までの道程は「生き地獄」を思わせた。
自転車を担いで帰れないことはないが、それと引き換えに私は今までの私を捨てて
「あれがオバカな真壁さんよ」と、一生ご近所さんから笑われるのを覚悟しなければならない。
それほどに、下半身を覆っている布は少なかった。
いやだ!そんなのはいやだ! そんな目に遭うくらいなら、いっそ気を失ったフリをして

今こそ元役者の腕の見せどころ。そう奇妙な安堵感に包まれたとき、
突然、走っていた車が止まって中から女の人が駆けつけてくれた。

「大丈夫ですか!?」

地獄に仏の諺が、初めて自分のものになった。これで救急車の案は消えた。ありがたい。
女の人は、車輪を浮かし、ゆっくりと丁寧に巻きついたスカートを外してくれた。
「破れてしまいましたね」。巻きついた先端を見ながら、女の人はそう言った。
「ありがとうございます!」何度言っても足らないが、語気を強めてお礼を言った。

女の人がニッコリして、自分の車に戻ろうとしたとき、ものすごいスピードで私の頭は回転しだした。
何を聞こう!名前? そんなの聞いても仕方ない。住所、ダメダメ覚えられない。
電話だ!電話番号なら覚えられる!偉い!
彼女の背中目掛けて私は叫んだ!

「あの!せめて電話番号だけでも!」

まだ何も聞いていない先から「せめて」と言ってしまったのには驚いたが、
「あらためてお礼に伺いますんで!」と付け加えたことで、それは薄れたはずだった。
本当に、浦島太郎のカメの気分だった。カメが「竜宮城へ・・・」といった気持ちが痛いほどよく分かる。
「このまま帰してなるものか!」と、熱い感謝が恐ろしいほどの執着に変わって、目つきまでもが変わった。
「いいえ」そのまま彼女は車に乗って、バックミラー越しに軽く会釈して行ってしまった。
私は、車が見えなくなるまで頭を下げた、破れたスカートを地面に垂らしたまま。








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Last updated  2012.04.10 08:57:10


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