それゆけ!派遣社員! ~研究所編~

それゆけ!派遣社員! ~研究所編~

Jun 25, 2005
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そう思いながら、自分の机を片付け

山中さんの机の上に 『お先に失礼します 磯野』

というメモを置いた。


そして、部屋のドアを開けた時 「お先に失礼します。」

と、周りの人達に声をかけた。


「...............。」 


ある程度、予想はしていたが、やはり無反応だった。


(ふぅ…。 また無視かぁ…。 ありえないよな~。)



大勢いた前の会社を、ふと思い出し

私は、肩を落としながら部屋のドアを閉めた。


すると後ろから 「磯野さん。 帰るところ?」

と声がした。


振り向くと、王子様が歩いてくるところだった。


「あ、はい。 ええと…お帰りですか?」


「うん。 今日は用事があるから早いんだ。

 ロビーまで一緒に行こう。」


「はい。」


私は、なんだか嬉しかった。


辛い状況を救ってくれたのは、王子様。



さわやかな笑顔で声をかけてくれたのも王子様…。


(こんな偶然があるんだ…。)


私は、お昼の時よりも少し胸がドキドキしている

自分に気がついた…。


(もしかして私、ほんとに王子様のことを…?)




王子様の声で、ふと我にかえる。


「あ。いいえ。 すみません…。

 そういえば私、まだお名前を聞いてなくて…。」


「そうだったね。 僕は松田。 よろしくね。」


「こちらこそ、よろしくお願いします。」


「そういえば…。 お昼にグラウンドの所にいなかった?」


「えっ。ああ。 ベンチに座っていました…。

 あ、もしかして、松田さん野球部なんですか…?」


「そう。 センターで、一応4番!

 …って言ってもわからないか…。」


「いいえ。 私、マネージャーしてたことがあるんです。

 だからわかりますよ! 4番なんてスゴイですね!」


「えっ。 マネージャーしてたの?

 じゃあもしかして、スコアとか書ける?」


「はい。」


「じゃぁ、ぜひマネージャーになってよ!!

 スコア書ける人、大歓迎なんだ!!」


「はい…。 あ…でも少し考えさせてください。」


王子様の誘いは、ものすごく嬉しかった。


でも、元彼のことがあり、もう二度とマネージャーには

なりたくないと思っていたのだ。


気持ちが揺れていた…。


心のどこかで、王子様と一緒にいたい…という

矛盾した気持ちもあったからだ…。 


私達は、ロビーまでの長い距離を

野球の話をしながら歩いた。


「磯野さんって好きなプロ野球チームあるの?」


「○○ファンです!」


「同じだぁ~!! 嬉しいな~! 少ないんだよねぇ。

 ○○のファンって。

 それにしてもよかったぁ! ××じゃなくて。」


「私も!! ××ファンの人とは、仲良くしませんから。」


そう言って、二人で大笑いした。


それからは、好きなチームの話で盛り上がり

会話が途切れないほど、とても楽しい時間を過ごした。


(こんなに偶然が続くなんて…これってもしかして運命?

 もし王子様が、運命の人だったら嬉しい…。)


そんな風に思っているうちに、ロビーに到着した。


「遅いじゃない~。 あれ?磯野さん。」


そこにいたのは、坂本さんだった。


「廊下で会ったから、一緒に来たんだ。」


「そうだったの。」


私は、なんだか嫌な予感がした。

予感…というよりも、

二人の関係を察してしまった…。


そして坂本さんが続けた…。


「私達、6月に結婚するの。

 今日はこれから式場に行くところ。

 いろいろ打ち合わせすることが多くて。

 おまけに、この人、土日に野球に行っちゃうから

 なかなか進まないの。 やんなっちゃう。」


「わかったわかった。 磯野さんの前なんだから

 それぐらいにしてくれよ。」


「はーい。」

坂本さんは、文句を言いながらも

とても幸せそうな笑顔だった。


(結婚…? 坂本さんと結婚するんだ…。)


私の心は、ついさっきまでの楽しい気持ちから急転して、

暗く重いものになっていた…。


マネージャーに誘われて、嬉しいと思った自分が

みじめに思えた。


同じプロ野球ファン同士で盛り上がったことさえ

とても悲しかった。


(私ったら、運命の人かも…なんて。 ホントにバカみたい…。)


「ほら、磯野さんだってあきれてるじゃないか。」

何も言わない私に気付いて、王子様がそう言った。


私は慌てて

「あ。 いいえ。 そんなことないです。

 ご結婚、おめでとうございます…。」

と、頭を下げた。


「ありがとう。 それじゃぁ、また明日ね!」

「磯野さん、お疲れさま。」


それぞれ私に声をかけると、二人仲良く

ロビーを出て行った。


(そうだよね。 王子様には、やっぱりお姫様だよね…。

 私を快く、坂本さんに紹介してくれたのも

 こういうことだったんだ…。)


二人の背中を見つめながら、

私は胸の奥の、ちくん…とした痛みを感じていた。


たった5時間の、小さな恋の終わりだった…。





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Last updated  Jun 25, 2005 04:43:42 PM コメント(9) | コメントを書く


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