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奔るジャッドンたのうえ、追っかけ帳
活力ある地域づくり交流会議講演録
日時:平成14年10月24日(木)
13:30~16:00
場所:加世田合庁第2・3会議室
1 テーマ 「観光関連施設の経営について」
2 講 師 田上 康朗(中小企業診断士)
3 概 要
昨日は,さつまロマン海道の観光施設を見てまわりました。今日はその問題点をあげて,改善するにはどうすれば良いかというところまでお話しをしたい。
(1)売り手の発想から消費者の立場に転換せよ
まず申し上げたいのは,戦略の誤りを戦術で取り返すことは不可能に近いということです。間違った戦略・構想は、戦術をコネ回しても、取り戻せない。努力してもうまくいかない。よくあるのは一度施設をつくり経営が不振だと、施設の現場に責任が押しつけられ職員教育などにすり替えられるといったケースです。誤りです。
駐車場,レストラン,厨房がある施設を例にとります。駐車場のスペースが80台,レストランが40席,厨房の職員が5人いるとします。最初の頃、お客が大勢来て行列ができる。するとその対策として、レストランの客席数を倍の80に増やす。たいていこうした愚をやるのです。これ、大失策です。厨房が一定のままで座席数を増やそうとするのは経営の素人が考えること。厨房を広げると,水やガス周りのことがあり高くつく。それは難しい。だから客席を増やす。そうすればお客が並ばなくなるだろうと考えてしまうのですね。ところが、これまでも厨房が追いついていない状態で客席を増やすわけですから、さらに待ち時間が増え、お客の不満は爆発し、これがおおむねこうした施設が閉じる運命になる本質的理由なのです。お客を大勢集めて不評を売っているわけですから、客がこなくなりますからね。
ではどうすればいいのか。取りあえず客席が込むときの対策は座席を現在の半分にする。これでお客さんの客席での待ち時間は減る。外での待ち、放っといていいのです。もったいないと思うなら、厨房対策を行えばいい。これが経営なのです。
根本的にはどこに両者の違いがあるか。それは,皆さん方のほとんどの施設が、作り手、売り手の論理、発想をしているからです。公務員だからではない。民間でも、ほとんど消費者、利用者からみてどうか、といった「消費者中心主義」の考えが欠乏している。それに加えて戦略の誤り。これが観光施設の経営を苦しめている2大原因なのです。
「効率性」ということばがありますね。大根であれば,お百姓さんが朝いっせいに収穫して店頭にいっぱい積んでおく。これ効率がいい。あまった時間でパチンコにでも行ける。 これが売り手側の論理なのです。根本的に陥りやすい発想なのです。
自分が買う立場になると、朝取りの大根ならば買うが、夕方の残ったしなびた大根は買わないでしょう。だから1日5回も6回も、その都度畑から抜いて運んでいるところが売れる。売れるからそうしているのではない。逆なのです。売りたいからこそ自らの効率を捨てる。ここですよ。
教育テレビを見ていて歌謡ショーやCMを見たいと努力するのを努力型といいます。別のチャンネルにまわすことが経営の妙です。それは努力ではない。つまり,戦術の転換ではなく戦略の転換が必要なのです。
熊本県七城町の「メロンの里」,宮崎・綾町の「ふれあいセンター」、静岡・豊岡村の「とれたて元気村」、愛媛・内子町の「フレッシュパークからり」など、すごい売上です。売れる理由,売れない理由というのは上にも挙げましたが、ちゃんとあるのです。
たとえば七城町へいかれたら、お店より畑を見てください。作物が斜めになっています。お百姓さんは円熟になったものだけを収穫する。今日とれるものだけを収穫して出品している。明日円熟になるのは明日収穫する。これが売れる理由です。
信用は大事です。どうもあれは偽物らしいとお客様が疑うようになると、あっと言う間に客足が遠のいていきます。だから本物を、本物と買い手にわかる様にして提供する。口やPOPだけではだれも信用しませんからね。
借りた金を回収するという意識が皆さん方にどれだけあるでしょうか。計画より早く収益を上げようとしている人がどれだけおられるか。これは意識の差です。投資は売上で回収するしかない、そのことを意識してやるかやらないかが、経営の死活を決めます。
市や町からの補助金は売上ではない。本来ならば道の駅をつくる時点で売上の計算をしなければならない。それができていますか。絵に描いた餅ではなく。
売上 = 客数 × 単価
客数は他人(客)の意思決定の数字です。多くのライバルの中からうちが選んでもらえるかということがここにいる皆さんの仕事なのです。しかし,お客に対応せずに事務をしている店がいっぱいあった。売れないように努力しているとしか思えないところもある。
売れているところで,静岡県の豊岡村。人口は1万人余りだが浜松市,浜北市,天竜市に囲まれている。鶴田春男村長は周りが市だから村のほうがかえって目立つといっている。その村長が3年前に「とれたて元気村」をつくった。そこは3億8千万円の売上がある。なぜ,それだけの売上があるのか。村の人口だけではこれだけにはならない。建物で人を呼んでいるわけではない。隣が市だと自分の村の人口は少なくてもいい。域外からのお客をどっと店が引きつける。これが観光の図式です。工場誘致ではこうはいかない。
当初はここでは農産物の持込料を20%とっていた。それを村長は、村の取り分は0%でもいいといった。現在は7%まで下がっている。消費税を村が負担しているので実質は2%だ。お百姓さんたちはJAにだすよりも利益があるとわかれば新鮮な野菜をどんどん持ってくる。売れる工夫をする様になる。大根を1回でまとめて収穫し、持ってくるより1日10度引き抜いて持ってくる方がより売れることがわかる。そうなると買い手はますます鮮度がいいということで、売上がどんどん伸びていきます。
持込料が高ければ売価に上乗せされるので,どんなに接客に努力してもお客は敬遠します。安くても古い商品を選ばないです。こうして皆さん方の施設からどんどんお客は遠ざかっている。
持込料引き下げに反対するのは経営のわからない人です。国民宿舎の実例でお話しましょうか。売上が伸びないときの対策として,人件費や材料費を落としています。そうなるとサービスが低下し,料理がまずくなる。で、ますますお客は来なくなる。つまり,お客の来ない戦略をとっているのです。皆様方の施設にも、これと同じことやっているところありましたよ。(^0^*
ぜひ「とれたて元気村」を見てください。ここでは品切れになるとすぐ店からお百姓さんの携帯電話に連絡が来ます。お客も品物がすぐ運ばれてくるとわかっているのでいつも店に張り付いて賑わっています。
今,この地域の施設に見られる悪い循環を豊岡村のように良い循環にしていかなくてはいけません。
(2)腐れるものが売れるもの
今回みた中でA店、唯一すばらしいです。この店は中央の玄関から入って左に生鮮食品,右に加工食品という配置になっています。右と左どちらにお客が多いか。左の生鮮食品が断然多い。つまり腐るものが売れるのです。繁盛しているところでも、腐りやすいものがより売れる、ということは歴然。定説なのです。
こういうことを言うと腐りやすいものが残ればどうするのか、といった愚問が出てくるが,腐りやすいものをおくほど売上が伸びて,利益がでて,売れ残りも少なくなります。
時間がないので詳しい説明は譲りますが、いい例は魚屋でしょう。なにしろ1日たった魚は売れないのから。
「赤福」という著名なお饅頭があります。伊勢にある和菓子の超老舗です。商品の種類はこのお饅頭は外側にあんこがある。これだけ。それがなぜこんなに長く売れ続くのか。あるセミナーでご一緒したおり、伺ったら「赤福は他のお饅頭とは違って2日しか持たないからです。」と言い切っていました。
新潟には笹団子という名物がある。100%手作りの団子です。私が関与している新潟・越後湯沢駅構内のB店で、それを実行してみた。他のお店は真空パックや急速冷凍商品を販売していたので、B店では「生物ですから、2日しか持ちません」といったPOPを付けて販売。売上が6倍に増えた。
ある経営者は「急速冷凍,真空パックですからできたての味がそのままです」と言う。それは売り手の論理。できたてのものと真空パックのものがあれば,あなたはどちらを選びますかと言いたい。お土産が日持ちすることにお客が疑いを持ち始めているのです。
(3)核となる商品をつくれ
何でも品揃えをしていますという"よろずや"にはお客は行かない。カレーを大衆食堂に食べにいきますか。お客は「あそこは焼き肉がうまい」,「あそこに餃子食いに行こう」と言っているのに,皆さん方の観光施設の売店はよろずやで、大衆食堂なのでしょか。
お客を馬鹿にしていることだと気づいてほしいものです。
この地域の観光施設の食堂は、地域素材、特産品、郷土料理といった呼び物となる料理を提供していない。販売されている特産品でおいしいと評判の商品があるのに、食材としてつかわない。手軽な丼物ばかりだ。何を考えているかと申し上げたい。
(4)歴史の積み重ねの上に今がある
南薩は職人の町です。ハレ,ケというのがあります。職人の世界は日常性。作り出される漁具や農機具は日常品。いわばケ。それをハレの建物ヤ設備で包み込んでいるところが、ほとんどです。主役の漁具・農具等を10円の駄菓子だとするとその包装紙が1万円もする、といったらばわかるでしょう。まさに主客転倒。舞台は主役を目立たせるためにあるのに,豪華な建物がせっかくの素朴な販売品、展示物を抹殺している。これは町のもつ歴史、伝統、文化の破壊行為に等しく、正直言って腹が立った。
その土地が持つ歴史を追い風にするとき,施設はいきいきとしてきます。木造の施設は極くわずか。ほとんどはコンクリートや大理石造り。そこに大根をおいて売れると思いますか。主役が引き立つ舞台と脇役を用意すること。それがデザイナーのイロハです。
熊本の商店街でコンクリートの歩道を引き剥がし,板張りにしたところがある。歩くのに優しくすべりにくい。すべて木が良し、「木で造れ」などといっているのではありません。自分の町や村や、この地域には何がにあうか、ということは地元の人間ならだれしもわかっているはずです。我が町に何を求めてお客がくるのかという視点もわかっている。それがどうしてこういうわけのわからない建物ができるか。理解しがたい。
出てくる料理が「うどん」。これが悪いということを言ってはいない。その土地の特産品だったらむしろそれを大いに提供すべきです。
客が望み、選んでくれるものは「おらが村にはなにがあるのかな」と論議し、そこへチャンネルにまわしてもらいたい。そのやり方,戦略を間違うと、あとが大変である。
観光店で、地元のお茶を売るのは売価商売。静岡やメーカーへお茶を売るのは原価商売。どちらが儲かるか。観光は、人がよそからきて売価で買って、地元を潤すという実に「妙味のある事業なのです。それを、こんな体たらく。もったいない話です。
(5)試食のすすめ
お客が不信感をもつものは売れない。販売員がいくらおいしいですよといっても信用してくれません。ではどうすればいいか。それは試食以外に手がないのです。でも時間がたって古いもの、瓶もの、安物を試食に出しては、藪蛇です。だめです。温かいものは温かい内に、鮮度が売りのものは鮮度がいい内に、それなりの容器で、試食に出さないと、販売に結びつかないばかりか、逆効果になるのは当たり前です。
さきほど挙げた越後湯沢の「ぽんしゅ館」では、大きなおにぎり2個を580円で売っている。これでは赤字だが、一種の有料試食なのです。南魚沼産のコシヒカリの特徴は冷えたときに甘味が増すこと。大きなおにぎりだから残してしまう。それを包んでおいてお客が自宅に帰る途中に食べることを狙っている。そのときに食べておいしいと思ったらお米が売れる。おにぎりは、お客にコシヒカリを買ってもらうための、いわば撒き餌。
この店では試食コーナーを徹底的に充実させています。
鹿児島でも揚立屋のさつまあげの試食はあたたかい。しかも2日しか日持ちがしない。今伸びているがその理由はここにある。試食のロスを疑問視する人がいるがそういう人は経営をわかっていない。撒き餌をせず、鯛やヒラメを釣ろうと考える落語の与太郎だ。
料理の基本に「温かいものは温かく,冷たいものは冷たく」というのがありますが,この地域ではどちらもいいかげんです。自分たちが楽をするためにやるのが仕事ではなく、お客,観光客のために手間隙をかけ、郷土を味わってもらい、その見返りにお金を落としてもらおうというのが皆さん方の仕事の本質です。
(6)その他
売り手と買い手との距離をきちんと持ってもらいたい。私が行ったときレジのおばちゃんは、知り合いのおじいちゃんと話し込んでいた。他のお客は不愉快になる。また親しすぎると他の客を阻害してしまう。これは役場職員などがお客のときにも当てはまる。
同根の問題として、地元の業者を保護、庇うといったことで、お客の利便性を削ぐといった考えは間違いです。それなら最初からつくらなければいい。作った限りは、地元業者のためにも、お客に最善手を打つことが大事です。遠慮をして,業者からいちゃもんのつかない競合しない商品ばかり売っている。市場(いちば)を見てください。同じ業種が群れているから、また競い合っているから人気がある。それぞれ儲かっている。行政は民間に遠慮せずに民間の業者に基準を示してあげるべきです。中途半端にやるのだったら民間に任せてしまえばいい。行政がリーダーシップを示して,行政ができるから民間ももっとうまくいくのだというフォーマットを示してあげたらいい。
観光は売価商売。原価の5~7倍だから、行政にとっても民間にとっても、こんないい商売はない。ところこの地域の施設は、消費者・観光客に関係ないところに余分な投資や経費をかけ、肝心なところはまったく手抜きしている。たとえば道の駅の事務室。こうしたところで爪楊枝を使いながら日経新聞でいる人など首にして、食堂・売り場といったお客との接点部分に、その人件費をまわせば、大いに売れるようになる。
お客さまにとっての体制、対応、レイアウト,施設になっていないということを理解してもらいたい。お客は立っている。なぜお店の人にはすわる部屋があるのか。こうしたことから経営のヒントをつかみ、ぜひ消費者・観光客から支えてもらえる事業にしていただきたい。(なお、今回の細かい指摘は,次のHPの掲示板に随時掲載しておきます。)
田上康朗のHP: http://homepage2.nifty.com/jatsudon/
(7)意見交換
(質問)観光パンフレットやテレビ,ラジオを使ったPRなどがあるが、どのような広報が、効果があると考えているか。
(回答)(現状のレベルがつづくなら)、積極的なそれらは危険だ。逆効果を招くからだ。観光パンフレットは、以前のような団体旅行やエージェント中心の観光であれば利用価値があっただろう。今は、何で人は動くか。それは口コミです。いい口コミができるようにしたらいい。そのためには、話をしたとおりお客が感激する施設にしなければ。これ以外に早道も王道もない。とりわけメディアを使ったPRはよくない。情報番組に取り上げられた翌日から行列ができるほど繁盛したもののつぶれた店が少なくない。行列ができたことで料理の質が落ち,サービスが落ちてお客の信用を失っていく。しかし,そのときはそれがわからないから浮かれてパートを増やしたり,客席を増やしたりして規模を広げて失敗している。
新潟・十日町市に「小嶋屋」というお蕎麦屋がある。ここのお客の6割超は県外客です。東京から3時間もかかる、人口2万の町ですが、ここの本店だけで1日あたり200万円の売上です。宣伝などしていない。ただ道に迷わないように看板が道路に出ているだけです。なぜ増えたか。すべて口コミです。なぜ口コミか。うまいからです。サービスが飛び抜けていいからです。
今後、怖いのはインターネットの掲示板。お客が悪い情報をどんどん書き込んでいきます。それと観光パンフレットは見ただけでそこに行った気持ちになってしまうことと現実とのギャップで悪評が立つことがある。たいていの観光パンフレットに若い女性がでているでしょう。行ってみたらそんな若い人はいない。じいちゃん,ばあちゃんしかいない。こうした嘘ばっかしのパンフ作るから、お客が来なくなる。ギャルノモデルでなく、皺だらけのばあちゃんをモデルにしたらずいぶん味のあるものになった。山で刺身やエビフライ出すようなことやってはいけないのです。
観光パンフレットは総カラーで刷るぐらいならばモノクロでつくるなど,他のパンフレットの逆をいかなくては目立たない。よその名所のコピーはやめなければ経費が無駄になる。お客が驚くような仕掛けをしなくてはいけない。それを3ヶ月続ければ成果は出てきます。たとえば子どもの書いた絵を用いた観光パンフレットで宣伝するならば効果があるかもしれない。 しかし,根本は、口コミ。これにつきます。
(質問)核になる商品づくりはどうすればよいのか。
(回答)蕎麦が特産で、現に蕎麦の売上が大きいのであれば,そばの関連の食品を売る。あるいはそばの容器などを売る。コンセプトを蕎麦一点に絞って、打ち出すことが、成功の秘訣です。浜松もうなぎの産地だから御菓子のうなぎパイで儲かった。それと同じです。
設備投資だけではリピーターは来ない。リピーターが来る代表的なものは、料理。それもうまくなければだめ。1時間待たして、食えないようなお料理ではリピートするわけはないからだ。これ、という料理を提供してほしい。日替わり定食のような代わり映えのない料理や「すっぽん」のような特殊料理ではだめ。家族向けの料理を作ることです。特産品の販売も地元のものだけに絞ってもらいたい。どうしても他の町の商品を売りたくてしょうがないというのであれば、きちんと地元産ではないと表示をしてほしい。地元の商品だと勘違いをして買ったお客は家に帰ってショックを受けると悪い情報をまわりに発信する。インターネットの掲示板にはそういった情報がいっぱいある。
ある観光物産施設にキャベツに「キャベツ」といったPOPがあった。だれがみてもキャベツ。それを経費をかけてPOPをかく。なにを考えているかといいたい。
よく見かけるのが、売り込むためのPOP,パンフレットです。売り込むのではなく客が知りたい情報を伝えなくてはいけない。私の関与先、青森のお菓子屋ですが、賞味期限を「あと○日」とPOPで表示することで売上が伸びた。
(質問)道路の案内板で注意する点は何か。
(回答)道路の案内板をつくるときは地元の業者を使ってはいけない。町外の人の視点に立つことができないからです。土地の名前,施設名は辞書では引けないのだからふりがながついていないものはだめです。ある拠点から東に100mとかいうのは地元の人しかわからない。初めてそこに来る観光客は方角がわからないから。誰でもわかる目印をつけてもらいたい。
それと観光マップで出資した額に応じて広告を大きくしている例がありますが、寄付の多寡で、地図がゆがめられ役に立たない。実態とはそぐわないので見る人を誤らせてしまいます。寄付集めが目的ではないはず。
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