奔るジャッドンたのうえ、追っかけ帳

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ストアジャーナル掲載「小売店活性化法」


「冬の時代の小売店活性化法」
                                                                                           田上康朗 
 中小商店だけではありませんが、不振が続いているこのことを冬の時代といったりします。しかしこの冬は、じっと我慢していれば春になる冬ではないのです。確かに実におびただしい商店が消えていきました。しかし前年対比130%以上も伸び続けているお店だって少なくありません。両者の違いはどこにあるのか、それを一緒に考えてみましょう。実は、同じように努力をしているように見えて、根本的な違いがあるのです。不振店で共通していることを一言で言えば、「やってはならないことをやり、やるべきことをやっていない」ということです。前者の一つは不況対策です。これはお店の側の都合に過ぎず、いわば「内」のことですから、外にいるお客にとっては関係がない。無意味なことです。もう一点は減量経営、合理化、人減らし、販売費などの削減、商品の絞込み等の類です。これもまったくお店の都合であって。お客には関係ないだけでなく、むしろお客の不信を招き、客離れを加速させているのです。

 今、商店がやらなければならないことは、お店の外のこと。特に消費者を中心において、たとえばお客の購買行動や生活価値観の変化、すなわち、「お客のお店に対する選択準」の変化について、どう対応するかということです。お客が今どんな生活を望んでいるかによって購入する商品も、やってもらいたサービスも変わってくるのは当然だからです。
それを把握しないで、利幅があるからとか、よそで売れているからとか、こちら都合で仕入れ、品揃えして、売れないと価格を下げるといったことを繰り返しをしている。こういうお店が消えていっているわけです。

 トイレトテッペーパーが半額になってもトイレにいく回数が倍になるわけではないのです。砂糖を安いからと余分に買ったとしても余分に消費することはまずないでしょう。その分購買頻度が低下するだけです。
 今、東海林太郎のレコードを並べ激安にしても並ぶ人はいませんが、ある新人歌手のCDアルバムを買うのに長蛇の行列ができ600万枚も売れたと聞きます。私たち商店の仕事は,売れないレコードを半額にすることではなく、今ヒカルとか林檎のCDみたいにお客が夢中になるものを見つけることなのです。売れるということは買う人がいるということ。ですから買う人が何を買いたがっているかを掴み、その望みをかなえてあげようとすることこそ商いの本質なのです。

 にもかかわらず店内には、売り手都合で仕入れた商品を、しかも先入れ先出し法に則って、古い方から先に売ろうとします。だから売れないのです。自分が買い物するとき、古い方から買うようなことはしないことを知っているお店は、そんなことやらない。だから売れるのです。ですから自店が不信だから「世は不景気だ」などといってもらっては困るのです。消費者を中心において考え行動している店は、よそのお店のお客まで移ってきて、とてつもなく売れているのです。

 その意味では大型店のように規模の大きいお店は、大変だと思います。上意下達・命令忠実、組織の上を見て,組織外の消費者をみようとしない社員やパートが何人いようと,お客の変化など掴めるわけはないからです。よしんば掴んだとしても自分の意のままに売り場を変えることができませんからね。

 そこには客の望みをくみとる人間はいないのです。お客を見ること,見られることをも拒絶したような無表情な物体が,ただ動き回っているだけです。まるで自動販売機がしゃべるような機械的,一方的な接客5大用語が聞こえてくるレジでは、お客の表情や動きから情報を吸収する基本システムそのものが、最初からが欠けているのです。

 だから大型店が脅威だ、ナショナルチェーンには負けるという商店者がいたとしたら消費者に1番近い位置にいるという商店の大きなメリットに気づいていないか,知っていてもやろうとしない自分の怠慢を大型店等に転嫁しているとしか、私には思えません。
 お客が望んでいるのは何かといった視点で、自分の売り場をみれば、買う人のものではなく、売る人の品揃えになっていることは人目でわかるはずです。このギャップに気づき、それを埋める具体的な行動こそが、今、商店がなさねばならない緊急対策なのです。

 そもそも、商店の最優先、最重要課題は「消費者から選択、支持される絶対的強みの構築」なのです。それは我が身を消費者に置き換えてみてこそ、やれることなのです。自分が買う方になれば、簡単に気づき、できることはいくらでもあります。どうしてもを作り手・売り手の立場において思考する習慣が身についてしまっているからできないだけであって、決して難しいものではないのです。

 そのことを実例で示してみましょう。たとえば菓子屋では、たいてい菓子を箱入り・詰め合わせで売っていますよ。ですから、「これ一個ください」とは言いにくいのです。私の友人、小城さんはそのお菓子屋なのですが、自分の私的な用事で百貨店にお歳暮売り場に行って、品定めしたのですが、「薩摩揚げの詰め合わせ」がどうも気に入らない。詰め合わせなんて売り手都合じゃないか、組み合わせも数量も、箱の容量にあわせたもので売り手都合。お客の都合に合わせるのが商いの基本なのに、どうして自分たちの都合を売っているのだろう」、と腹が立ったというのですね。それはそれで買い物を済まして、自分の店に戻って、愕然としたという。

 先程の疑問に思ったことが、自分の店でも行っている(笑)。それでお客が自由に取り合わせができるように、「箱入りのセットの中身は、お客様で自由に組み合わせができますよ」ってPOP書いた。そしたら、売り上げが上がるんです。それでスタッフがさらに工夫し、今、やっているのが「和菓子バイキング」。これはいろんなお菓子を、みな同じ値段にして、お客が自由に組み合わせて買えるやりかたなのです。要は本来の一個売りに戻したということです。

 「そんなことしたら単価おちるだろう」って、売り手の心配が先ですから、同業者はだれも実行しないから、まさに小城さんのお店は一人勝ちです。ところでその単価のことですが、これがアップしたのです。お客のほとんどが、セットものを買ったあと、自分用に何個か購入する。選り取りというと買上げ数量も増える。それに一個の値段は同じですから、お客が支払いの計算がやりやすい。こうしたことがアップの理由と思われます。
作り手・売り手としてはどのお菓子が今、人気が高いか悪いか、容易に把握できる。というメリットが大きいわけです。

 次に、別の事例で、売り手が、実は買い手が買いにくい状況をつくっているのだ、ということを事例でみてみましょう。
今、手元に「消費者第一主義を」を提唱しているスーパーAのチラシがあります。当然といえば当然なのですが、そこでは自社・自店のあからさまな宣伝・PR。自分の提供する商品とサービスをアピールしています。安さそれに品質が如何に良いかを打ち出しています。いかし、消費者の購買に役立つ情報を伝えようという意図は、ほとんど伺えないのです。主役であるはずの消費者は、脇役どころか全く無視されています。買うのはお客さん。使うのも、食べるのもお客だ、そのお客が、どう考え、反応するだろうか、といった視点や意識は一切一切感じられません。そこで、実際確認するためこのチラシの店にいってみまました。「本日のチラシ掲載商品、おかげさまで、完売しました」と、転倒入り口と、売り場に貼り紙が貼ってありました。お店の完売のことより、まだ5時なのに品切れさせてしまったことを、どうして申し訳ないと思わないのでしようか。

 惣菜売り場には、「揚げたてほかほかのコロッケ」と看板が掲げてありますが、これは嘘です。この店の惣菜のパートは全員昼の11時には仕事を終え、帰宅していることをお客は知っています。揚げてから少なくとも6時間も経ているものがなんで揚げたてなものでしょう。「トレトレ、鮮度一番」の幟(のぼり)は鮮魚売り場である。この店は日曜でも開いている市場から仕入れているのであろうか。これも売りたいための欺瞞です。「当店は満足を提供しています」というのもあった。実際やってごらんなさいな。満足など提供できることはずがないのです。「ポイント、3倍を提供します」。これならならわかります。でもこのように見える形や行動にしてお客に理解されたとしても、満足するかどうかはお客の判断でしょう。「商人が、私たち消費者が満足するために、具体的になにをやってくれるのか」というのがお客の本音なのです。ですからその具体的なことを書くべきなのです。

 なにもコピーにケチをつけ、そういったことはいけないといっているのではないのです。。口先だけ、貼り紙だけで「満足」や「こだわり」、「おもてなし」と、どこかで見たような美辞麗句を並べたって、お客は、単なるお愛想ぐらいにも思ってくれないばかりか、逆に不信感をあおうことになり、それでうれないのですよ、と案じているのです。経費と手暇をかけ、お客を逃がすといったことになっていませんか、と問いたいのです。

 さらにみてみると、はみ出し陳列や従業員が品だしで通路がふさがっているところがありました。通路がふさがっていたのでは、その売り場に近寄れないわけですから、買いたくても売れない。欠品も多い。商品がないのでは買うに買えない。青果売り場で、大根に「大根」というPOPをつけている。「大根を知らないとでも思っているの。こんな馬鹿なこと書かず、買うために役立つ情報を提供してくれなきゃ」というのが消費者の本音で花井でしょうか。衣料品売り場の販売員は、もっとすごい。買おうと思って来店したお客に、大声を出で「売り」をやって追い出していました。

 ご理解頂けたでしょうか。このように売れない状況は、消費者が買おうにも買えない状況を、売り手自らの意思決定により作り出しているということを。現場をみるとこうしたもったいない事例があふれています。
 売上を上げるには、消費者に買っていただくしかないわけです。。だから対策は簡単。こうした作り手・売り手からの「発想そのもの」が、実は買い手である消費者の選択権や買い物行動を阻害しているわけですから、そうしたことを「やめる」ことです。また販売員や営業マンは売り手の味方ではなく、買い手の味方へ徹すること。こうしたことで、売り上げはたちまち上昇します。

 その実例を、新潟・越後湯沢の「ぽんしゅ館」でみてみましょう。このお店は、冬の時代の8年間、前年対比110%を切ったことのないのです。その理由は、上に述べたスーパーAの反対を実行しただけなのです。
篠田和美店長(女性)に少し話を伺ってみよう。

 「常に心がけていることは、1つには試食、試飲。旨いとか安いとかの判断をお客に委ねてこそ売れ筋がつかめる。だから試食はコーナーまで設けお茶も用意。遠慮なく食べてもらえる配慮をし、常に70~80種類の試食を出しています。平日など来店者数が少ないときなどは、出しても無駄になりそうな気がしますが。『試食が少ないと他の店と変わらない。思い切り数をだしていたらお客様はあそこの店は試食がたくさんある。何でも食べてから買える、と気づいてくださるから。』とアドバイスいただき、それを守っているだけです。特に日祭日は切らさないようにしています。また、週末や連休にはいつもと少し違うものを出し、動きを見たりします。試食の減り具合ベスト10は、売上でもベスト10です。

 2つ目は場所替えです。土産品店の商品はどこも同じという観光客のイメージを払拭することと商品の鮮度保持に有効なワザである。があるからこそ、頻繁に商品の配置などを動かすことが有効となる。以前先輩に『新商品が入った時は、場所替えのチャンス。ちょっと場所を空けて置けばいいや、ではなくて、この商品はどのくくりに置いた方がいいか考えながら置き替えてみたらいいよ』と教えられたことを思い出し、新商品以外でも最近あまり動きが少ないなと思った商品も色々な所に動かして試してみるようにしたのです。移動した日を手帳にメモしておいて1週間後位に変化を見ています。店は動き物だから、ずっとこの商品はここ、ということのないよう、暇さえあれば賞味期限のチェックも兼ねて場所替えをしています。 3つ目はポップ、プライスカード、コメントカードなどを付けることです。販売スタッフは、商品の作られる背景までつかみ、そこで感じた自分の思いをお客に伝えるのが仕事と考える。

 商品名、パッケージ、味、におい、見た目だけでは伝わりきらないと思ったと時はちょっとしたコメントを自分の言葉で書いて商品の所に貼っています。2月9日にポップを作って貼り、すぐに見える所に置いてみたら、3月、4月の売上数量は今までの倍になっていました。その他にもお客様に尋ねられたら、自分の知っていることを自分の言葉でお伝えするようにしています。その場合嘘をついたり、誇張した表現はさけることなどを心がけています」。

 当店では、スタッフは来店したお客に、作業の手を止めて、軽く明るく"いらっしゃいませ"と声をかけたらそのまま作業を続け、声をかけられない限り、接客しない。商品について尋ねられたら、たとえそれがその商品のマイナス面であろうと。できるだけ自分の率直な感想を言う。そうでなかったら、お客は 店やスタッフを信用してくれないからと篠田店長はいう。「信用していただけない販売員がいること自体マイナスになりますからね」。
 消費者を中心において、経営も、売り場も、組織も、マニュアルも、ルール・規則も、商店主、従業員の頭脳、思考もすべてを見直してみてください。お客のフィールドから、自分の位置、行動を決め、物事をみる。その繰り返しの過程で、自分・自店の至らぬことを見つけ、調整していく。こうした習慣を積み重ねることこそが最重要課題、経営革新なのです。これに成功した人、お店だけが、これからを生き残って行けるのです。

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