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NO.1-『中国と人権問題』・・論旨の概要

【論文の概要】

　現代社会の人権問題は、各々の諸国が独自の基準で考えるべきではなく、国際的な見地から、また国際的な基準から検討する必要がある。わが国においても、国際人権法の解釈において、議論がない訳ではない。すなわち、刑事拘禁制度に関わる問題点がある。例えば、接見交通、代用監獄、起訴前弁護、受刑者の処遇、死刑問題など、対象とすべき問題は多いと考える。この点、EU首脳会議において、欧州憲法が協議の結果、各国の批准を経て、2005年以降には発効の見通しだ。やはり、ｱｼﾞｱ圏においても、同様に、日本が主導をとりEU連合に劣らないｱｼﾞｱ憲法を草案すべき事と考える。本論文は、25年前、中央大学で姫田光義教授の講義を受講し、ｱｼﾞｱ圏において今後の中日関係がより一層重要になるであろうと考えたことに始まる。さらに、この重要性に鑑み、中国領土内で問題となっている人権侵害について改善すべき内容かについて、国連人権ｾﾝﾀ-の特別報告の内容を検証する必要があるという理由から中国の歴史をふまえ中国の実態に取組むこととなった。
1989年の天安門事件を契機に、民主化政策に拍車をかける中国は経済政策の強化を図る目的で、海外に流出した知識分子である海外留学生を本国に呼び戻し、本国において未発達の分野及び技術途上の分野の開拓に力を入れる施策を始めた。その際、海外から呼び戻された各方面の技術者、例えば、IT関連、医療関係、機械及び製造関連、に従事したあるいは研究してきた者を優遇し、国家に貢献する者に対し、より高い地位を保障した。こうした海外から多方面の知識を本国に持ち帰った人達を、『海亀派』（1）と呼ぶ。こうした内容は、改正後の中国憲法（1982年）第1章総則第13条～第24条の文言に基づく。また、近代化と国際化の推進の中で、15回大会報告は「留学生が帰国して仕事をするかあるいは適当な方式で祖国に奉仕することを奨励する」ということに現れている。
　一方、憲法改正に伴い、司法制度の内容は国際的見地からすれば、むしろ、後退している。つまり、中国憲法（1954年）第2章第6節第78条は、人民法院は独立して裁判をおこない、法律のみに服従する、と規定しているが、憲法（82年）第3章第7節第126条は、人民法院は法律の定めにてらし、独立して裁判権を行使し、行政機関、社会団体、個人の干渉を受けない、と規定しており、それまでの、人民法院は『法律のみに服従する』という文言が削除されている。さらに、憲法（82年）第1章総則第28条は、国家は社会秩序を維持し、国家反逆と、その他の反革命活動を鎮圧し、社会の治安を乱す活動、社会主義経済を破壊する活動と、その他の犯罪活動に制裁を加え、犯罪者を処罰し改造する、と規定している。
　そもそも、中国の全国人民代表大会は日本の国会にあたる組織であり、憲法上では中国における国家権力の最高機関と定められている。この内、共産党員の占める割合は71.5％（第9期代表）（2）にも及ぶ。むしろ、新しい憲法によって、司法への政治権力の介入を正当化する法的根拠は確立されたと判断できる。こうした国家政策下で、社会主義体制に対し自由を訴え、又は民主主義思想を翳す(かざす)ことは、自殺行為ともいえる。国家の統治行為であるから他国が干渉をするべきではないと考えるが、自殺行為とは知りながら自由を求め活動をした者達は、結局のところ、強制的に政治囚となり投獄される。こうした人達は、『海亀派』に対し『良心の囚人』（3）とよばれている。こうした政治囚は、我々が想像もしない人権侵害を受け、そうした侵害行為等により死に至る場合もある。
　具体的な、人権侵害の行為内容については本題で検証し述べるが、中国政府の人権に関する基本的な立場は、1989年の天安門事件を契機とするが、根本的考え方は、やはり、中華思想に基づく歴史的思想背景から来るものであると考える。本件について、欧米諸国は、これを重大な人権侵害であるとして、政治的・経済的な措置を行い、人権状況の改善を要求した。これに対し中国は、国内事項不干渉の原則を主張し反発した。しかし、このことと、中国政府が、1993年の国連世界人権会議において採択された「ウイ－ン宣言」および「行動計画」を承認していることとは、反する主張内容である。
　本論文は、中国の人権問題として、何が人権侵害か、また何故、そうした法や制度が存在するにかについて、さらに人権侵害の排除について考察してみたい。

【註】（1）　NHK(2002.10/8)放送　海亀派より　ITｿﾌﾄ､医療技術～抗癌研究等。
（2）稲垣清　『中国のしくみ』　三菱総合研究所　2002年　37頁より引用。　
（3）　ｱﾑﾈｽﾃｲ･ﾚﾎﾟ-ﾄ『中国の人権』　明石書房　57頁より引用。

【註】中華思想：「中国は地大物博、果てしない大地に、あらゆる物資が生産され、天子は、天帝の命を奉じて、民に温かい恵みを与える、遠きより来る者も徳をしたう良民としてこれを迎え、物を献上して来れば、それに見合うだけの物を下賜する。」という考え方で、自己礼賛はあっても、他に学ぼうとする謙虚さがない。

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