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じんさん0219 @ Re[1]:(σ・∀・)σゲッツ!!(07/14) 大悟の妹☆さん >“大悟”ですけどねー(  ̄▽…
大悟の妹☆@ Re:(σ・∀・)σゲッツ!!(07/14) “大悟”ですけどねー(  ̄▽ ̄)
じんさん0219 @ Re:日本代表残念でしたね(o>Д<)o(06/15) プー&832さん 覚えとりますよ。 プーさん…
プー&832@ 日本代表残念でしたね(o>Д<)o お久しぶりです☆.゚+('∀')+゚. 覚えていない…
じんさん0219 @ Re[1]:たどりついた...民間防衛。(02/07) たあくん1977さん >どうもです。 > >こ…
2006年03月19日
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家康と信長の連合軍が鳥居強右衛門のあとを追うかたちで岡崎を立ち、牛久保を経て設楽ヶ原に到着したのは十八日の昼であった。
到着するととりあえず信長は極楽寺山に、家康は茶臼山に本陣をおき、すぐに落ち合って最後の戦評定にかかる必要があった。

家康は、榊原小平太康政と鳥居彦右衛門元忠を連れて仮本陣を出ると、そろそろ西へまわった陽射しの中を極楽寺山の信長の本陣へ向かった。

ここから長篠城までは約一里。

途中で馬を弾正(だんじょう)山まで進めてみると、足元の連子(れんこ)川を距(へだ)てて、幾重にもかさなりあった森の新緑の向こうから、飢えにせまられた長篠城の鼓動がそのまま自分の胸に伝わって来るようだ。

しばらくじっと小手をかざして東の空を見ていると、

「殿、遅くなりまする。織田の殿がお待ちかねでござりましょう」

鳥居元忠がうながしたが、家康は動かなかった。自分が、ここからただこうしてじっと見ているだけで、長篠城へは眼に見えないある力が通ってゆく.....そんな気がして立ち去りがたい家康だった。


「分かっている」

「分かっていたら待たせては悪い。参りましょう」

「元忠.....そなたは織田殿の腰が、なぜあのように重かったのか分かっているのか」

家康はまだ視線を東の方の山から森へ据えたままで、
「織田どのはな、今度の戦では、心から、わしの役に立とうとされて、それでなかなか動かなかったのじゃ」

元忠はそれを聞くと、眉をしかめて舌打ちした。
(何という人の好い.....)

他人の戦と思えばこそ、なかなか動かなかった信長。そのくらいのことは徳川勢は足軽の端まで見抜いているというのに。

「織田どのはな、武田勢がわれらの到着を知って、さっさと長篠の囲みを解き、決戦を避けて甲斐へ引き上げるのを恐れている」

「馬鹿な事をっ」と元忠は反撥した。

「そうなれば、もっけの幸いと、それで幾晩も岡崎へ泊まられたとおぼされませぬか」


「こなたまで、そう思っていたのか」

「それに相違ございませぬ。それゆえ、急いで参って、是が非でも決戦させるよう評定せねばなりませぬ」

「そうか。そなたまでのう.....」
家康は微笑をうかべてそういうと、べつにあとの説明はしなかった。いわれるままに馬首をめぐらして、それから極楽寺にむかった。

故信玄の戦術の中には「隠れ遊びの術」と唱える退き方があった。



(信長はそれを知っていて、わざと腰を重くしてきた.....)
と家康は判断しているのだが、果たしてそれは当たっているかどうか.....

「との、今日は強引に織田の殿にお当たりなされ」
後ろで元忠は念を押した。

信長の本陣では、元忠の言葉どおり、すでに諸将が居並んで家康の到着を待っていた。
織田信忠(のぶただ)、信雄(のぶかつ)の二子をはじめとして、柴田勝家、佐久間信盛、羽柴秀吉、丹羽長秀、滝川一益、前田利家と集まって、一応も二応も作戦をこらしたあとらしかった。

まだ幔幕をはりめぐらしたばかりの草の上へ、信長だけが床机(しょうぎ)をおいて腰かけていたが、家康を見るとすぐに、

「三郎どのは?」と、信康の姿のないのをいぶかしんだ。

「ただいま、松尾山に本陣を作りかけてござりますゆえ、あとで決定したことだけ知らせてやりましょう」

「徳川どの」
信長は、自分のわきの床机を指差しながら、
「甲州勢は、いよいよ決戦を仕掛けてくるものと決まりましたぞ」

家康はちらりとうしろに控えた鳥居元忠と榊原康政に微笑をみせて床机にかけた。

「では、味方の勝利、もはや疑いござりませぬなあ」
「いかにも!」

信長は上機嫌にうなずいて、
「ところで徳川どのに念のために申しておきたいことがある」

「念のため.....うかがいおきましょう」
「他でもないが、勝頼はお身にとっても宿敵、定めてここで息の根をとめたいところでござろうが、この一戦で彼を討ち取ろうなどという短慮は必ず起こされな。さような心から、お身にしても、三郎どのにしても、万一敵の中に深入りして、討ち死にでもするようなことがあっては、たとえ合戦に勝っても負け.....と、おぼされよ。よいかの、もし、そのような事があっては、この信長にしても、わざわざ岐阜からご加勢にやってきたかいがないというものだ」

家康は黙々としてうなずいたが、この一語は、鳥居元忠をひどく驚かした様子であった。

信長もまたどうやら家康の肝の中の不安を読みとっているらしい。それで「ご加勢にやって来た.....」と微妙な言葉で自分の立場を明らかにしているのである。

「何はともあれ、今度の合戦ではお身は仏像にでもなった気で、万事はこの信長に任されたい。相手が決戦を挑むときまれば勝ったも同然、お身は遊山(ゆさん)のつもりでよい。まあ見てござれ、今度こそ、この信長が武田の士卒どもを練り雲雀(ひばり)のようにあしらってお目にかける」

家康の顔へチラリと不快ないろがうごいた。ご加勢と言いながらやはり信長は、この戦をわが力の勝利として天下に確認させたい肝なのだ。

「ご加勢を.....」
やがて家康は微笑をとりもどして、

「ご加勢を願ったわれらが遊山のつもりでいては相済みませぬゆえ、われらもまっ先かけて働きまするが、お言葉は肝にきざんで」

そういってから、中央にひろげられている絵図面の上へ眼を移した。
岡崎で打ち合わせてきた陣の配置だったが、そのあちこちに朱が加えられている。

連子川の岸に沿って南北に長く柵を構え、そこまで敵をおびき出して、鳥さしか雲雀を取るようにあしらってやろうと言うのであろう。

しばらくそれをじっと見ていて、

「これだけでは心もとない」
家康は静かな声でつぶやいた。

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参考 山岡荘八・徳川家康第七巻/知略戦略より

つづく

*この書き込みは営利目的としておりません。
個人的かつ純粋に一人でも多くの方に購読していただきたく
参考・ご紹介させていただきました。m(__)mペコリ





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Last updated  2006年03月19日 12時11分38秒
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