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じんさん0219 @ Re[1]:(σ・∀・)σゲッツ!!(07/14) 大悟の妹☆さん >“大悟”ですけどねー(  ̄▽…
大悟の妹☆@ Re:(σ・∀・)σゲッツ!!(07/14) “大悟”ですけどねー(  ̄▽ ̄)
じんさん0219 @ Re:日本代表残念でしたね(o>Д<)o(06/15) プー&832さん 覚えとりますよ。 プーさん…
プー&832@ 日本代表残念でしたね(o>Д<)o お久しぶりです☆.゚+('∀')+゚. 覚えていない…
じんさん0219 @ Re[1]:たどりついた...民間防衛。(02/07) たあくん1977さん >どうもです。 > >こ…
2006年05月23日
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森勢の総崩れから、家康の旗下の圧力が、いちどに池田勢へかかって来たのだ。
(ついに来たかっ!)
戦いなれた勝入は一瞬にしてそれを看破(かんぱ)した。目の前で息を引き取った侍を小物たちがあわてて後ろの藪畳(やぶだたみ)にかつぎこんでゆく間、勝入は、自分を追い越して敵に向かってゆく、味方の士卒の足並みを見守っていた。

みな一様に爪先立って、上半身ばかりが、のめるようにフワフワと前へ出ている。狼狽した時のあせった兵の姿態で、これでは半刻と体力が持つものではなかった。

そのはずだと勝入は思う。勝入ほどの者が、愕然(がくぜん)とした思いでいるのだ。勝ちに誇って一息入れていた軍兵が、狼狽するのも無理はない。

こうした姿勢で進む兵は、相手が意外に弱く、すぐ味方に背を向けてくれると持ち直すが、さもないときには、力尽きてへたり込むか、やけになって滅するかが落ちであった。

今ごろは、そのあがり気味の兵の先頭に立って負け嫌いの紀伊守元助は、狂気のように槍を振るっているであろうし、若年の輝政はそれ以上にあがっていることだろう。

そう思ったとき、また右前方で、ワーッと遭遇戦(そうぐうせん)の喊声(かんせい)にぶつかり合った。


「危ないッ!」
と、くつわを取っていた小者が、勝入の馬をいきなり道から草むらの中に引き込んだ。

敵の先鋒が、行く手の丘の下から姿をあらわして来たからだった。

「たわけめッ」
と、勝入は叱りつけた。叱りつけて手綱を取ると、しかし、勝入は、敵の正面へ馬を返さず、そのまま草むらを森の中へ進んでいった。

その馬を取り巻くようにして三十余人の若侍が道をそれた。

「殿を、殿を頼むぞ!」

そう言ったのは岩崎の城攻めを進言した片桐半右衛門らしい。そのままこれも前のめりに敵に向かっていった。

森の中は眼のくらむような陽と若葉の影の交錯であった。

勝入は何と思ったか馬を停めて顔をしかめながらその場へ降り立った。
あわてて小者が、床机(しょうぎ)を持って走ったが、それより先に、草の上へ胡座(こざ)していった。



みんなは目くばせして、勝入の周囲を離れて見張りについた。
婿の森武蔵守の戦死を聞いて、気落ちをしたのだと近侍は思った。

「その代わり、わが子も婿も、そして、われらも後を追おう.....許されよ」

戦おうにも足の痛みが激しくて、騎乗に耐えなかったのだ。むろん徒歩(かち)戦など思いもよらない。とすれば、勝入の最後はおのずから決まってゆく.....

「やあ、寄せたぞ敵が.....」


今度は勝入のすぐ脇で声がして、一人の武者が脱兎(だつと)のように警護の輪を破って、勝入に走りよった。

「池田信輝入道勝入どのと覚えたり、見参!」

勝入の眼が、ちらりと相手の上に移ったとき、その武者は、前かがみにすべるような姿勢で、目の前まで進んでいた。

(よい姿勢だ!勝つ姿勢だ!)

そう思いながら勝入は、
「何者じゃ。名乗れッ」

声だけは方図もない大声で叱咤(しった)した。

「家康が旗本、永井伝八郎直勝(でんぱちろうなおかつ)!」
「うむ、天晴れな若者、来るかッ.....」

はじき返すようにそう答えたが、膝も立てず、差し料も抜かなかった。
おそらく相手の眼には、勝入の姿が不動の巨岩にも見えたことであろう。

槍をつけたままじりりっと横にまわりながら、額の汗をたたくようにして籠手(こて)ではらった。

「おのれっ、殿に何とするぞ!」

追いすがってきた勝入の家臣が、わきからいきなり躍りかかった。
相手はそれをパッと伏せてかわしておいて、そのまま槍を次に近づくもう一人ののど輪をめがけて投げつけた。

「ウーム」と、一人は突き立った槍をつかんでのけぞり、先に斬りつけた家臣が、再び伝八郎に斬りかかった。

伝八郎直勝は、また眼にも止まらぬ速さで、太刀を抜きながらかわしていった。かすかに音はしたが白刃は触れ合わず、つぎに二人で構えあった時には、伝八郎の左手の人差し指からタラタラと血が流れていた。

いや、指はすでになくなっているのかも知れない。

白刃を触れ合わなかったのは、天晴れだと勝入は思った。
(こやつめ、まだ人を斬る気で、太刀の刃こぼれを防いでいる).....

「やあっ!」
と伝八郎がふんこんで、今度は斜めに勝入の家臣をなぐりつけた。

「ウーム」と、断末魔の呻(うめ)きが低く尾をひいて、次には白刃はまっすぐ勝入に向けられていた。

これだけの荒い行動のあとで、相手の息はみだれていない。玉のような汗を噴かせても、唇もぴたりと据わってみじんも揺らいでいなかった。

「ほう.....」
と、勝入は太刀を抜いた。笹の雪と名づけた勝入が自慢の愛刀だった。

「永井伝八郎直勝と申したの」
「いかにも!」

「勝入ほどの者によくぞ眼の保養をさせた。このまま自害しては情にもとろう。こなたの意気に免じて、太刀を抜いたぞ」

「みしるし頂戴(ちょうだい)!ご免!」

「待てッ!」
「な、な、なんと、おくられたか」

「たわけめ、先ほどより見てあれば、こなたは太刀を粗末にせぬ男じゃ。この勝入の首級をあげたのち、この笹の雪、共に持参して差し料といたせ」

「これはかたじけないこと.....」

「それに、折りあって万一手蔓(てづる)もあらば、この勝入、筑前どのに済まぬと申して討たれていったと言いのこせ。それだけじゃ。来いッ」

「ご免!」

絵のような美しい光と緑の斑(まだら)の中で、こんども白刃は音を立てずに、はげしく虚空で左右に流れた.....

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参考 山岡荘八・徳川家康第十巻/乱戦より

つづく

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*この書き込みは営利目的としておりません。
個人的かつ純粋に一人でも多くの方に購読していただきたく
参考・ご紹介させていただきました。m(__)mペコリ





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Last updated  2006年05月23日 15時08分22秒
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