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じんさん0219 @ Re[1]:(σ・∀・)σゲッツ!!(07/14) 大悟の妹☆さん >“大悟”ですけどねー(  ̄▽…
大悟の妹☆@ Re:(σ・∀・)σゲッツ!!(07/14) “大悟”ですけどねー(  ̄▽ ̄)
じんさん0219 @ Re:日本代表残念でしたね(o>Д<)o(06/15) プー&832さん 覚えとりますよ。 プーさん…
プー&832@ 日本代表残念でしたね(o>Д<)o お久しぶりです☆.゚+('∀')+゚. 覚えていない…
じんさん0219 @ Re[1]:たどりついた...民間防衛。(02/07) たあくん1977さん >どうもです。 > >こ…
2006年05月27日
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竜泉寺へ着くまで秀吉はまだ長久手の味方の敗戦を知らなかった。
家康の出発が、予想以上に早かったということで、この戦の前途へ危惧は感じだしていたが、しかし負けるなどとは思っていなかった。

もともと彼の辞書に敗れなどという文字はない。

「茂助!末安!」

竜泉寺にあって命令一下を待っていた堀尾の陣幕に近づくと、
「今日の戦は、利を失うやも知れぬぞ。急げや.....」

悪童のように怒鳴りたてながら馬を降りて、はじめてそこで味方の敗戦を知らされたのであった。

「すると勝入は岩崎城などを攻めていたのか」


「はイあ!」
と、秀吉は、肺腑(はいふ)から絞るような奇声まじりの吐息をもらした。

何もかも計算ずくめで、これから一挙に家康勢を混乱させるつもりの作戦が、味方の救援という、別の意味の出兵となってしまった。

「あのお人好しがッ!」
秀吉は吐き出すように言って膝を叩いた。

「あれほど言ってあったのに、まだ岩崎城など.....」

勝入がぐんぐん進んでいさえすれば、家康もそれを追って、十分決戦は伸ばせたのだ.....そう思うと、肝の底から腹が立った。

が、すぐ次の瞬間には、そうした感情にこだわることは、百害あって一利のないことを悟った。

「その勝入を出してやったのはこの秀吉じゃ。よし、勝入を救いながら叩け家康を.....徹底みじんに叩きつぶせ」

さらりと心の方向を転換し、それに向かってすぐに全力を打ち込めるのが秀吉だった。その意味では秀吉の気分転換は、さながら名人の剣の変化によく似ている。

ここで秀吉はまず、堀尾、一柳、木村の三隊を長久手へ急行させ、これを池田勢救援にあたらせておいて、みずからは家康攻撃勢として出発した。



敗戦を、そのまま勝利にみちびかなければ止(や)まない、秀吉の性格と気性であった。

「何はともあれ、家康の旗本を引き包め。包んだ上で一人も余すな。敵はもう戦い疲れているが、見方は新手(あらて)なのじゃ」

そのころ.....

家康の留守を預かっている小牧山の本陣では、石川数正と酒井忠次、それにもう勝本多忠勝の三人が、口を尖(とが)らして激論の最中だった。

「では、それがしの意見には従われぬと言われるのか」


猛り立っている本多平八郎忠勝に、石川伯耆守数正は、苦りきった表情で相対していた。

酒井忠次は、ときどき舌打ちしながら、等分に二人を睨みまわしている。

いずれも兜だけは着けていなかったが、厳重な武装をしていて、何か言うたびに床机がきしんだ。

「なに、おれの考えに、考え落ちがあると。こいつは聞き捨てならぬ。どこが足りぬ。さあ言え数正!」

石川数正は、年長者らしい落ち着きで、
「みな殿のお考えのうちにあったことじゃ。平八どのはそれを思わぬのか」と、切り返した。

「殿が、池田勢を追って行ったと気がつけば、筑前がさらにそれを追ってゆく.....それくらいのことを考慮に入れぬ殿ではない。うかつに犬山城などを攻めてみサッしゃい、収拾できぬことになろう」

「ええッ、歯痒いッ!」
忠勝はもう一度歯をかみ鳴らして舌打ちした。

彼の考えでは、秀吉があたふたと楽田を出発していったゆえ、その留守に数正、忠次、忠勝の三人で、手薄になっている犬山城を一挙に手に入れようというのであった。

そうすれば中入りする気で出て行った敵が見事中入りされる結果になる。今をおいてその機会はない。すぐに攻めようと言い出したのに対し、石川数正は、頑強に反対しているのだ。

数正の言い分は、そのような危険を冒して、もし敵に囲まれ、小牧山へ引きあげ得ぬようなことになったら何とするのか?

家康は、われらに、ここを厳しく守れとは命じて出て行ったが、隙があれば犬山城を攻めよとは言わなかった。

万一家康勢が、池田勢を破って引きあげて来たときに、小牧山が敵の手に落ちているようなことがあっては、たとえ犬山城を手に入れても、それは決して利益にはならぬ。むしろ、一時的にせよ混乱を引き起こし、悪くすると、清洲まで後退を余儀なくさせられよう。そうなっては城攻めの巧みな秀吉に、犬山、清洲で各個に囲まれる恐れがあるというのだった。

「おれが言うのは、犬山城へそのまま居残れというのではない。誰かが一人残って後の二人はここへ引っ返す.....小牧と犬山の二つを手に入れる策なのだ。それをなぜ、犬山と小牧を引きかえにするように言葉を曲げて反対するのか」

「反対する。今は二兎(にと)を追う時ではない。ここでじっと殿の次ぎの指図を待つ時じゃ」

「石川どの!」
「何度言われても、小牧の留守を預けられた数正、賛成はいたしかねる」

「貴殿、陣中へとかくの噂があるをご存知か」
「何の噂じゃ。知らぬ。また知ろうともせぬ」

「知ろうともせぬはずじゃ。貴殿が筑前のもとへたびたび密使を出している。ことによると石川数正、秀吉に通じているのではあるまいか.....と、言う風評をご存じなかろう」

「なに.....わしが、秀吉に通じておると!」

「おう、それゆえ犬山城を攻めるなと申す.....そうした噂が飛んでも、おれは知らぬといったのだ」

「だまれ。だまれ平八.....」

二人が少しも譲らないので、酒井忠次がたまりかねて割って入った。
「敵に通ずるの通じないのと、穏(おだ)やかでないことを言うな」

「風評だと言ったのだ。風評はおれの責任ではない。他人の口に戸が立てられるか」

まだ言い募(つの)ろうとする忠勝をおさえて、
「では数正は、どうあっても、犬山攻めはせぬというのだな」

「されば、勝ってさして利にならず、負ければそれこそ一大事じゃ」

それを聞くと、忠次は大きくうなずいて、
「よし、わしもやめた。平八。おぬしも止めよ」

と荒々しく立ち上がった。

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参考 山岡荘八・徳川家康第十巻/乱戦・鹿と瓢より

つづく

山岡荘八的お部屋へ入る


*この書き込みは営利目的としておりません。
個人的かつ純粋に一人でも多くの方に購読していただきたく
参考・ご紹介させていただきました。m(__)mペコリ





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Last updated  2006年05月27日 13時14分43秒
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