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2006年05月30日
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-天地の道理-


場面は家康が隠居して大御所になった後、安南国の王に送るための太刀飾りの拵えを本阿弥光悦に督促した時のやり取りです。

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「ものの考え方に、二通りあることを、家康はつい最近になって気がついたぞ。と、申すのはほかでもない。家康が日本国の行く末を案じて、庶民の望む太平を、揺るがぬように築いてゆけばゆくほど、我が家も安定してゆくのだ」

家康が妙なことを言い出したので、光悦は、全身でそれを受け取ろうとして身をのり出していた。

「いや、ただ、家の繁盛も国の繁盛も、帰するところは一つ.....などと身勝手を並べる気で申すのではない。もっとそこ深い感動じゃ。わしは、もう秀忠に男の子は出来ぬものかとあきらめかけていた。ところが、竹千代が生まれてくると、続いてまた国松が生まれてきた.....つまりこれは人知の計算を超えたことじゃ。少々面映(おもはゆ)いがのう、わしは、よい年をして、五郎太以下続けざまに三人の子が誕生して来たおりに、ちょっと世間に済まぬ気がした。まさかに、わしの倅(せがれ)として生まれてきたものどもに、二万石や三万石の捨扶持(すてぶち)ですますわけにはゆくまい。とすれば、あのオヤジめ、自分の倅ばかり取り立ておって.....そう申す者が現れても言い訳のならぬ気持ちであった。わが子かわいさに、家康ほどのものが私をしてのけた.....そうなっては、道春先生(林羅山)の聖人道に傷がつこうが.....」

「しかし、それは.....」

「まあ待たっしゃい。実はそれで年甲斐もなく思い悩んだものじゃ。ところがつい近頃になっての、これは大きな誤りだったと気がついた.....人のこの世に生まれてくるのは、わが子といわず、他人の子といわず、みなこれ人知を超えた神仏の授けものであり、授けられものだと気がついたのだ」

光悦は、ニコリとしてうなずいた。欲しいといって子供が授かるものであったら、老後の秀吉の、あのあせりはないはずだった。いや、大陸出兵も、関ヶ原の役もなく、歴史は全く変わってたに違いない。



「それで、上様は、どうお考えを変えましたので」

「光悦よ。人間の心の成長には、三つの大きな段階があるようじゃぞ」

「三つ.....だけでござりましょうか」

「いや、こまかくすれば無数であろうがの、まず最初に人間は我がために働くものじゃ」

「御意(ぎょい)のとおり、たいていの人間は一生それであくせくとして終わりましょう」

「ところが、次にはどうして私心(ししん)を去ろうかと苦心する。私心、私欲の生き方のあさましさが、気にかかってならない時代が続くものじゃ」

「仰せのとおりに存じまする」

「口先では天下のため、家臣のためと言いながら、実はわが身の欲ばかり.....そう思うと、わが胸の神仏に顔向けもならぬ気持ちになっての。ところが、そのころを過ぎると、もう一つ大きなことが分かってくるのじゃ。よいかの、この身の道理をのぶれば天地にみち、天地の道理を縮めていけばこの身の一身のうちにかくれる。つまり磨き上げた私心はそのまま天地の道理なのじゃ」

そう言うと家康は、言葉を気ってジーッと光悦を見つめていった。

光悦は、全神経を耳に集め、それからそれを咀嚼(そしゃく)しようとして息をこらした。

「もう一度仰せ聞け下されませ上様、この身の道理をのぶれば天地にみち.....」



「この身の道理をのぶれば天地にみち、天地の道理を縮むれば、その道理は、わが一身のうちにかくれるのじゃ」

「と、いたしますると、人と天地とは、これ一体....というご感慨でござりまするか」

「そうじゃ。両親の意志や願いだけで生まれて来た人の子ではない。この両親の営みに、天地の大きなご意志が加わって生まれてくるのじゃ。ゆえに人の子は人の子であってまた天地の子なのだぞ光悦.....」

「なるほど.....そこまでお考えなさると、私心はこれ天地の心、公心もまたこれ天地の心、二つの間に差別はない.....と相なりまするが」

「わしはの、子供のおりに、駿府の臨済(りんざい)寺で、雪斎(せっさい)和尚によくそのことを聞かされてあったのじゃ。一粒の米の中にも宇宙はそのまま宿っているものぞと.....それを途中で忘れてしもうての、私心は悉皆(しっかい)去らねば偉人にはなれぬものじゃと思い違えた.....」


今の光悦の修養は、ちょうどそのあたりにあるらしい。絶えず何かに腹を立ててはおのれをいじめてゆくのである。

(どうやら家康は、その先の境地について語ろうとしているらしい)

「光悦よ。磨きぬかれた私心はそのまま宇宙の心になり得るのだ。わしはの、それからぐっと楽になった。というて、油断しておのれを甘やかすというのではない。わが子といえども、真剣に育てていって、器量のある家来をこれに付してゆき、要所要所を預けてあれば立派に役に立ち得るのだ。いや、わが子、他人の子と区別する要はみじんもない。もともとこれはみな天下の子供なのだ.....」

光悦は、はじめてポンと膝を叩いた。わかるとすぐにそうするのが光悦の癖であったが、このときにはもう光悦の思案はつねに次の世界にのびている。

「相わかってござりまする。上様はもう誰にお気がねもなさらずに、ここが日本国の要(かなめ)と思うところへはどしどし堅固な城をお築きなさる.....」

そこまで言って、光悦は、ゲラゲラ笑った。
妙におかしさがこみあげて、無礼だとはわかりながらも、すぐには止まらぬ笑いであった。

「おかしいか光悦」

「は.....はい。上様ほどのお方が、それほど世間に気がねをなされておわしたのかと考えると。ハハ.....」

「意地の悪い奴じゃの。わしを笑いものにいたすとは」

「上様、それで、忠輝さまも、五郎太さまも、大きな城に入れてやる.....それで、お父上であらせられる上様にとってもご満足、日本国将来のためにもなる.....私心は公心、公心は私心.....そう仰せられておわすのでござりましょう」

家康は、これもちょっと頬をそめた。
「その代わり、わしの心を磨いてゆく、磨きの手はゆるめぬつもりじゃ」

光悦は、笑ったあとで、今度は胸をしめつけられてシュンとなった。
(思うことでできないことはないはずなのに.....)

最後まで戦う相手を自分の中に求めている。真っ正直に、子供のように.....

「上様、光悦も上様のお話で少しばかり眼が開きかけたような気がいたしまする。わが子、他人の子の区別などはありようがない。ただ精一杯に磨いていって分に応じて活(い)かさねばならぬ.....しみじみとそれに気がつきました」

「光悦よ」
家康は、再びきびしい眼になって、
「ただそれだけでは少し足りぬぞよ」

「は.....?」

「そうであろうが。わが子、人の子に区別はない.....と、見られるのはそれは公平な天のお眼じゃ」

「なるほど」

「人間がみな一様に、点の眼を持てる.....などと考えるは増上慢(ぞうじょうまん)。それゆえ、天がなにゆえに、その子を両親に預けたか.....よいか、それも父一人ではなく、母一人ではなく、父と母とに子を預けたか.....このあたりに無限の味わいが潜(ひそ)んでいる。よいかの。両親というは決して子供を憎まぬもの.....そうした形に造っておいて、これに託された.....それゆえ、わが子は、人の子よりも愛してよい」

「は.....」

こんどは光悦は、思わずわが耳に手を当てなおした。さっきの言葉とは正反対にひびいたからである。

「妙な顔をするな光悦、わしが申したのは、わが子だとて遠慮はいらぬ、天から預けられたものゆえ心おきなく愛すがよい。ただし、それを愛すあまりにかたよってはならぬと申しておるのだ。天の眼からすればわが子も他人の子もこれ等しく同じ愛子(まなご)なのだ。このあたりにものの表裏と悟りがあろう。人はもと一体なり、愚かなもの、小心な者なりともあなどる事なかれ.....となろうかの」

「は.....」

「大樹の枝は四方にかたよりなく茂るものじゃ。いや、かたよりなく茂る者だけが大樹になり得るのじゃ。というてもよい。いや、もっとつづめて申せば、諸人を甲乙なく愛する、これが実は、天の定めた誠の道じゃ.....」

家康はそういうと、再び笑顔になって、

「これはまたまた家康の悪い癖がでおったぞ。わが身の話ばかりで、こなたの話を聞こうとせぬ。諸人に物を言わせ、能(よ)きことを聞き、これをとって用うるが、実は本当の知恵者なのだ。そのほかにかくべつ知恵者などいるものではない。さ、何ぞ珍しい世間話を聞かせてくれぬか」

「恐れ入りました」
光悦は、ホッと大きくため息して、改めて家康を仰ぎなおした。

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参考 山岡荘八・徳川家康21巻/巨樹の思案より

*この書き込みは営利目的としておりません。
個人的かつ純粋にに一人でも多くの方に購読していただきたく
参考・ご紹介させていただきました。m(__)mペコリ

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Last updated  2006年05月30日 11時57分56秒
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