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じんさん0219 @ Re[1]:(σ・∀・)σゲッツ!!(07/14) 大悟の妹☆さん >“大悟”ですけどねー(  ̄▽…
大悟の妹☆@ Re:(σ・∀・)σゲッツ!!(07/14) “大悟”ですけどねー(  ̄▽ ̄)
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じんさん0219 @ Re[1]:たどりついた...民間防衛。(02/07) たあくん1977さん >どうもです。 > >こ…
2007年06月20日
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**************************************************大乗小乗.3

今日の大法要に、義清も、もちろん参列していた。

眼(ま)のあたりに、彼は、川中島で討ち死にした人々のたくさんな遺家族を見た。
老いたる父母、今からは親のない幼き者たち、乳飲みを抱いている白き面の妻、その甥、その叔父、その姪など、無数の縁者を、きょうの法莚(ほうえん)に見た。

一山の高徳天室、宗謙、その他の衆僧が、曹洞最大な法華(ほっけ)をささげて、英魂の冥福を祈るあいだも、義清は、ひとみをあげて、それの壇を仰ぐことができなかった。また、眼をそらして、伽藍の廊上階下に満ちている多くの遺家族たちを正視できなかった。

(これもみな帰するところ、自分が越後に逃れて来たために生じたこと)

と、ひとり問い、ひとり責め、居ても立ってもいられないような心持になっていた。
ひとたびそういう自責を抱いてからは、耳元に鳴る鐘も、戦没三千余魂が声をあげて、自分を責めるかと思われ、義清は生きている空もない心地だった。

実のところ、彼はすでに、林泉寺にいるうちに決意していた。剃髪(ていはつ)して仏門に入ろう。そして闘争興亡の圏内から遁れ去ろう。同時にかつての栄門に還る夢望みを捨て、一切の執着を洗い、上杉家の長い恩顧を謝して、飄呼高野の塵外(じんがい)へかくれよう。



「.....かように思い決めたのでござりまする。今日まで、殆ど、この流寓(りゅうぐう)の孤客を、身内同様に思し召され、連年、多大の軍費と将士の尊い血を以って、義清を御庇護下された大恩は死しても忘れはいたしませぬ。が、これ以上、おびただしい人命を捨てさせ、残るご家中の人々に嘆きをかけては、いかにお詫びしてよいやら分かりませぬ。また、ふたたび祖先の地へ還り得るとしても、独りの喜びとすることは出来ません。一切、言葉には尽くせぬが、御憫察(ごびんさつ)あって、私の身勝手、どうかお許し賜わりまするように」

縷々(るる)として、義清は、衷心(ちゅうしん)のものを吐いた。

謙信は、ややしばし、うす眼をとじて、聞いていたが、彼が、その苦衷を長々と延べ終わると、初めて、刮(くわっ)と、瞼(まぶた)をひらいた。

「だまれ。.....義清どの。だまんなさい」
声はひくい。

しかし、実に、磐石をもって、そっと頭から圧するような声調だった。

**************************************************大乗小乗.4
参考 吉川英治・上杉謙信/静夜・歌心・窮鳥・苦衷の義清より

つづく

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Last updated  2007年06月20日 10時32分37秒
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