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大悟の妹☆@ Re:(σ・∀・)σゲッツ!!(07/14) “大悟”ですけどねー(  ̄▽ ̄)
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2008年01月13日
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「う.....」
家康はかすかに首を動かして作左衛門に答えた。

薄紫の皮膚にべっとりと脂汗が浮き上がって、吐く息が切ないまでに小刻みになっている。

「暑い.....ばかなことじゃ」
「は?何と言われましたので」

今度は数正が眼を丸くして家康の顔をのぞき込んだ。自信満々の家康の口から、このような弱々しい反省じみた言葉を聞こうとは思いもよらなかった。

それだけに、病の重さが胸に突き立つ刃物になった。

「殿!お心丈夫に持たせられませ」


「三度.....でござりまするか」

「そうじゃ。子供から大人になるころの、無分別な色情.....それから、壮年期の血気に任せた闘争心。それで終わりじゃと思うていたら、もう一つあったわ、不惑(ふわく)を超えて、自分はもう完成したと思う慢心.....」

作左は舌打ちした。
そのようなくり言を聞いたとて、何になろうぞといったはげしい舌打ちであった。

「殿!長閑を呼んで灸を据えさせまするぞ」

「おう、そうしてくれ。秀吉が.....秀吉が.....関白になろうというときに、この家康は病に倒れる.....これは神仏の警告じゃわい。遠慮はいらぬぞ。ここで死ぬ奴ならば、御心(みこころ)にかなわぬ痴れ者じゃ」

「お舘さま!」
「正信は黙っておれ。作左、呼べ」

そう言ったあとで、家康は、何を思ったのか数正を見返って、
「こなたには済まなんだの。わしの慢心から、苦しめおったわ」

数正はぐっと胸へこみ上げるものを覚えて、あわてて脇を向いていった。



(これは死ぬかも知れぬ.....)

呻(うめ)き声にめっきり力がなくなって、瞼の晴れがきわだって目立ってきた。手だけではなくて、足の甲までむくんで来ている。

「殿のお許しが出たのじゃから、灸を試みるよりほかにあるまい」

まだ正信が、険しい表情で、家康の顔をのぞきこんでいるので、なぐさめるように数正はいった。

「いかがであろう。灸を据える前に、長松丸君をお呼びなされては」



「それでは殿のご気力が、いよいよ衰えさせられようでな.....」
万一聞いている場合のことを考えて、白扇をあて耳元にささやいた。


作左衛門が、糟谷長閑と、もぐさと線香を盆に入れてささげた小姓の松丸を伴って戻って来た。

いつか陽射しは傾いて、湖面を渡る涼風が爽やかに室内へ流れ込みだしたが、断続的にうめき続ける家康の、額の汗は一向に引こうとしなかった。

おそらく全身で痛みをこらえているのに違いない.....

***********************************************No.4
参考 山岡荘八・徳川家康第十一巻/大患より

つづく

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*この書き込みは営利目的としておりません。
個人的に一人でも多くの方に購読していただきたく
参考・ご紹介させていただきました。m(__)mペコリ





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Last updated  2008年01月13日 10時48分34秒 コメントを書く
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