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じんさん0219 @ Re[1]:(σ・∀・)σゲッツ!!(07/14) 大悟の妹☆さん >“大悟”ですけどねー(  ̄▽…
大悟の妹☆@ Re:(σ・∀・)σゲッツ!!(07/14) “大悟”ですけどねー(  ̄▽ ̄)
じんさん0219 @ Re:日本代表残念でしたね(o>Д<)o(06/15) プー&832さん 覚えとりますよ。 プーさん…
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2008年01月20日
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「長松丸君を、お呼びせぬでもよいであろうか」
正信が、また、そっと額に手をふれてみてつぶやいた。

「まるで火のようじゃ。さっきよりもぐんと熱があがっておわす」

しかし、それに答える者もなく、時は刻々にすぎていった。

もはや息苦しさは通りこして、奇跡を待つ六つの瞳が全気力を家康の回復に注いでゆく、張りさけそうな緊張感の連続であった。

「さて、二刻(ふたとき)になりますな」

次の間から再び長閑が入って来たとき、人々ははじめてホッと息をした。

長い時間には思えたが、二刻(四時間)も経っていようとは誰も思っていなかった。

「もうそのように経ちましたか」


「眠っておわす。心地よげに」
「なに、眠っていると?」

「脈もずっと整うて参りましたし、熱も下がりかけました」
「そ.....そ.....それは本当か?」

作左衛門が頓狂(とんきょう)な声を上げて、自分で自分をたしなめた。
「バカめッ。糟谷が嘘を言うものか。おう、熱が下がった!」

「お静かに。そっと灸のあとを拝見いたしまする。やはりお舘さまは、ご運強うわたらせまするようで」

言いながら、また胸から薄い夜具をのけ、黒くなって盛り立っている灸のあとへ、掌をふれたと思った瞬間だった。

サッと空間に赤白い線が走り、手をかけた長閑が、
「あ!」と叫んで首を縮めた。

えりもとから首筋へ、空間へ延びたおびただしい血膿(ちうみ)が、パッといちどに散りかかったのだ。


「なに、口があいたと」

「ご覧のとおり」

長閑が再び両手を家康の胸に当てるとシューッとまた、噴水のようにあたりいっぱいに膿が噴き出した。

「お小姓どの、用意の品をこれへ」

長閑は鬢(びん)から顔へ飛びかかった汚物をも忘れたように、甲高い奇声をあげて松丸を呼んだ。



松丸が、白布と焼酎の瓶(びん)をのせた盆をささげて入って来ると、長閑は勢いよく、羽織をうしろへ投げ、単衣(ひとえ)の腕を高々とめくって、家康の体へいどみかかった。

家康がうーむと低い呻きをあげだしたのはそれからで、しばらくは、患部を圧する長閑と、血膿と呻きの格闘であった。

これは決して奇蹟ではなく、ある年齢に達して細胞に変化を来たした肉体の腫物が、適宜な療法によって病毒のはけ口を発見したのに過ぎなかろう。

しかし居合わせた三人は、それは地上で最大の奇蹟と見えた。

全てが大自然の造化の神の、人間翻弄(ほんろう)の相とも見え、また訓戒とも受け取れた。

「楽になったぞ.....」

パッチリと眼を開いた家康が、三人の顔を交互に見やって、意外なほどハッキリと話しかけてきたのは、それからまた小半刻ほど経ってからであった。

***********************************************No.7
参考 山岡荘八・徳川家康第十一巻/大患より

つづく

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*この書き込みは営利目的としておりません。
個人的に一人でも多くの方に購読していただきたく
参考・ご紹介させていただきました。m(__)mペコリ





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Last updated  2008年01月20日 12時47分31秒
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