~Maiden Of Arcadia~

~Maiden Of Arcadia~

第二編「ソレの幸福」

ソレの幸福
~切欠、雨の匂い、堕ちた後のモノ~



飛び立とうとした鳥、その瞬間に降り出した雨。

その雨は旅立った小鳥に何を与えたのか。


「雨が降り出したから飛び立ったのかもしれないわよ。

その湿りを帯びた空気の流れを感じて、ね?

いつだって出来事の出発はきっかけから始まるのだから。」


雷鳴、雨音、翼が風を切る。


高くは飛べない、それが小鳥の全霊。

目指すは場所など存在しない、ただきっかけから飛び立っただけ。

いつか力尽きて泥の地平に落下するまで、

全てを無に帰しながら羽を広げる。


「その後、小鳥がどうなったか知りたい?

そうね・・・堕ちてしまったわ。

でもね、幸福だったでしょう、とても、とても・・・・・。」


小鳥は蒼い空を望んだだろうか。

ただの通り雨の中で強く羽ばたいて、白い雲を目指したかったのだろうか。

果たしてこの出来事は不幸なことなのだろうか。

小鳥はもう、いない。


「幸福だった、そんなわけがない・・・・・?

そう・・・何故そんな風に思うのかしら・・・?

貴方は雨の気配に殺された小鳥を笑うの?

いえ、責めているわけではないの。ただ、聞いてみたかっただけよ。」


すっかり雨は上がった。

草木に光る雫と泥で彩られた畦道だけが昨夜の光景を引き連れている。

蒼い空は高く高く、広がる白い雲は遥か彼方まで断続に続く。


「例え小鳥でもお母さんだったのよ。

貴方達はこれから元気に生きてゆきなさいね。

今日はとてもいい天気よ?

きっとこれから幸福に死に逝くことができるでしょう。

それまではこの籠と私の腕の中でゆっくり休みなさいな。」






© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: