小説寄せ集め


  集英社 鈴木道彦・編訳
キーワードは「どうでもいいようなこと」。
どうでもいいようなことの積み重ねで時が過ぎる物語。あるいは、どうでもいいようなことの積み重ねこそが年月であり、人生だということ。
何事かが起こって、その一瞬には自分にとっての重大事であっても、それはやがてどうでもいいようなことに成り下がり、いつかは忘却の彼方に消え、時は往く。そして人は徒に歳を重ねる。しかし、それこそが各人の一生一代の"作品"でもあるのだが。




『彼方』ジョリス・カルル・ユイスマンス
魔術とは、信じればこそ存在し、望めばこそ人の前に現れるものなだろう。
「信じる者は、救済される」。
主人公が黒魔術を追い求めていく過程自体が、おそらくすでに黒魔術の技なのだ。
(この後、主人公デュルタル氏がどういういきさつで『大伽藍』に至るのか、私はそれがすごく知りたい。)




ウンベルト・エーコの小説
『薔薇の名前』河島英昭訳(東京創元社)


『フーコーの振り子』『前日島』藤村昌昭訳(文春文庫)


…知と痴は紙一重、教義と狂気は表裏一体。
婿曰く「うんちく小説」。
ストーリーの面白さと同時に、瑣末な知識を著者と共有する愉しみもある。

ただし私は、エーコ氏の本業「記号論」がどういう学問であるのか、いまだによくわからない。



『ドグラ・マグラ』
無明の闇の中、覚醒と狂気の堂々巡りは続く。
ただ、何が覚醒で何が狂気なのか判別できるものは誰もいない。
ところで、正木博士の「心理遺伝説」。近親に似たような性格・性癖・行動パターンの人間が多い私にとっては、ものすごい説得力がある。
…細胞レベルで伝わっているのかどうかはわかりませんが…
…ついでに、呉家みたいに「由緒ある(あるいは「いわくつきの」)」代物ではありませんが…
物語も強烈にスゴイが、とにかく「これ」を書いた夢野久作こそがスゴイ!




『我が心は石にあらず』
ハードカバーはもちろんだけど、新潮文庫版も河出文庫版も絶版ぽい。
発表当時としてはアップトゥデイトな内容だったんだろうけど、西暦2006年の現在となってはすっかり「過去の遺物」。良く言えば「時代の証言」。組合活動だかストライキだか知らんけど、女3人に日常生活を支えてもらってるキミにえらそーなリクツを並べる資格はないぞ!
いま流行っている小説も30年40年経つと「何でこんな話がよかったの?」と思われるようになるんだろうか。



『寒冷前線コンダクター』(角川ルビー文庫)
指揮者とコンマスができちゃう物語の第1作目。
いわゆる「ボーイズラブ」というジャンルの草分け的存在。
読んでいたら突然、
「こーゆーのが好きな女は、こーゆーののどんなところがいいと思うんだ?何を求めてこーゆーのを読むんだ?(オマエモナー)」
という疑問がぶわっとわきあがり、必死で考えていたら熱が出た。(事実です)しかし決定的な解答には至らず。
その後、シリーズの続編をぼちぼち立ち読みしているけど、コンマス君がすっかり色ボケになっていて、ますます途方に暮れるばかりだ。


『草の花』福永武彦
気が付けば私はしおみ君の享年を越えていた。ショックだ。
かつては彼の怜悧さ、観念的な姿勢に胸をときめかせたっけな。
彼氏がいるならこういう賢い人がいい、と本気で思っていた。
でも、その賢さこそが命取りになることだってある。
人間は霞だけでは生きていけない。実体がないところに実は生じない。人と人とのつながり=愛情もまた然り。
観念フェチの堂々巡りに苦しむ彼の手を、今は友人として握ってあげたい。







<今後の予定>
ひかりごけ
虚無への供物
飢餓海峡
森茉莉
さらにユイスマンス
ユルスナール
BL本(まだやるのか?)

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