2004年09月05日
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【真夏の邂逅】第69日目(後編)


 9/4

 やがて車はふもとへとたどり着いた。
 このあたりはまったく地の果てという感じのうら淋しい漁村である。

 僕はその砂浜でとりあえずは食事をしながら、
 今後のことについて考えを巡らした。

 むろん岬に行くことをあきらめるつもりはさらさらない。
 問題はいつどうやってアプローチするかである。


 しかし、これには問題があった。
 朝早くといっても田舎の町のことである。
 きっと皆起き出してくるのも早いにちがいない。

 僕がえっちらおっちらと道を登ってゆく間に
 また見回りでやって来る可能性もある。

 何しろ一度失敗しているのだ。
 また捕まればやっかいである。
 そこで夜が来るのを待って、闇に紛れて岬を目指すことにした。
 あの山中に入ってしまえば誰かに見つかることもあるまい。

 明かりなどはあまりないところである。
 夜の6時になるとかなり暗くなった。



 道は真暗である。
 星が出ているのだが、
 これがまるでバチバチと音をたてるようにして瞬いている。

 その闇の中をひとり行く。

 ざっく、ざっくと自分の足音が聞こえてくる。


 中に入ると向こうの出口がかすかに明るくなっている。
 しかしこれだけ暗いと歩いていても、
 あちら側の出口には永遠につけないのではないかというような錯覚にとらわれてくる。
 少し息苦しいような感覚に襲われながら進んで行く。

 恐ろしく長く感じられたそのトンネルを抜けて、
 しばらく歩くと何軒か家の立ち並ぶ集落にたどり着いた。
 こんな所にも人が住んでるんだな、と思っていると、
 いきなりどこからともなく犬が走り出てきた。


 さて、この犬ころ狂ったように吠えまくっている。
 まったく手に負えない。
 噛みつかれでもしたら大変である。

 かといって走って逃げれば反射的に追いかけてくるだろうし、
 第一、荷物が重くてそういうわけにもいかない。

 爆竹でも用意しておくんだったな。
 そうすりゃ、今すぐこいつの鼻っぱしらに投げつけてやるのに。
 奴の吠える様を見ながら思った。

 だが幸いなことに犬はある程度の距離を保ったまま
 それ以上は近づいて来なかった。
 やがて僕はその犬のテリトリーを通過したのだろう。
 奴も吠えるのを止め、追いかけて来ることもなかった。


 それからしばらく行くと今度はバリケードのようなもので道が塞がれている。
 こいつは夜の間は閉まっているんだろう。

 そのバリケードを越えると、
 そこからは道はふたたび山中へと分け入ってゆく。

 その道を息を切らしながら歩いてゆく。
 坂道がキツイのと、
 もうすぐ目的地に着くんだという興奮のせいである。

 すると道の傍らの藪がガサガサと揺れた。


  -何だろう-


 僕は警戒して足を止めた。
 何か動物だろうか。
 もしそうならあの物音からすれば大型動物である。

 確か九州には熊はいないはずである。
 とすれば猿だろうか。
 僕は昼間の看板を思い出した。
 この暗闇で奴にかかってこられてはたまらない。

 そう思っているとその物音のしたあたりから
 今度は「グウ」と何か鳴き声のような音がした。


  -グウって、何だ-


 僕はますます混乱してふと
 今、歩いて来た道を振り返り、見た。
 すると、何か白い物体がふたつこちらに近づいてくる。


  -今度は何だ。幽霊でもやって来たか-


 そう思ってよくよくその方向を見てみた。
 するとどうやら生きている人間であった。
 しかし、ほっとしてもいられない。
 またもや地元の人間に見つかってしまった。これはまずい。

 どうするか、と思って立ちすくんでいると、
 近づいてきたその影はどうやら若者のようである。

 「こんばんは。」

 彼らのうちのひとりが話しかけてきた。

 「どうも。」

 僕も挨拶をする。
 どうも地元の人間ではないらしい。


 彼らはバイク乗りであった。
 彼らは静岡からバイクでこの佐多岬を目指してやって来たという。

 だが、パークロードは通行止めである。
 そこでせめて歩いてでもいいから岬に行こうと思ったらしい。
 それで夜になるのを待ってここまで来たというわけである。
 年令は僕よりもふたつほど下ということである。

 ということは目的は同じである。
 そこで岬まで同行することにした。
 彼らは明かりを持っている。
 この先トンネルがあっても大丈夫である。

 僕は三人になったことでもあるし、
 さっきの奇怪な物音のことなど忘れて歩き出した。


 さてようやくパークロードの終点とおぼしき場所にたどり着いた。
 といってもまだその先があるようである。
 ここらはちょっとした駐車スペースになっている。
 それからトンネルをくぐって岬の最南端の碑はこのさらに奥である。

 ふたりはそのトンネルの様子を見てビビっている。
 確かに中は真暗であった。
 ちょっとばかり気味が悪いが、
 しかし、僕にすれば今までの道のりを思えばこんなものは何でもない。

 行くか、と言って足を踏み入れた。
 そのうしろを明かりをもって彼らもついてくる。

 「僕らふたりだけだったら、ここで引き返してますよ。」

 ライダーの一人が言った。
 しかし僕としても彼らと出会って助かった。
 何しろこのトンネルの中は台風の影響なのだろう、
 ガラスやら何やら色々なものが散乱していて、
 ライトも何もなければ危なくって歩けたものではない。 


 さてトンネルを抜けると犬が一匹近寄ってきた。
 何か人懐っこい感じの犬である。
 こいつも仲間に加えて岬の最南端を目指す。
 空を見上げるとギラギラと瞬く星と、それから月がぽっかりと浮かんでいた。


 僕が二カ月もの間、求めつづけたその碑は唐突に現れた。
 観光地であるからレストランや土産物屋などがあるのだが、
 そうした建物の裏側にぽつんと建っている。


  -これが、そうか…。-


 あまりに呆気ない旅の幕切れに思わず気が抜けてしまった。
 見ればその碑の向こう側は崖になっていて、
 海岸線までにはまだだいぶある。

 せっかく宗谷岬で海水に手を触れてきたのである。
 その同じ手で、この最南端の地の海水にも触れるつもりだったのだが、
 どうやらそれは叶わないらしい。

 それでも何とか歩く旅はまっとうしたのである。
 バイク乗りの彼らとお互いに記念の写真を取りながら満足感でいっぱいだった。

 僕は例の犬と一緒に旅の勇姿をフィルムに焼きつけてもらった。
 僕の『写るんです』にはフラッシュがついていないので
 彼らのカメラで写真を取ってもらって、
 できあがれば僕のところへ送ってもらうことにした。
 彼らと出会っていてよかったな、僕は思った。


 さて記念撮影も終えたことだし引き上げることにするか、
 と意気揚々と帰途へとつく。
 そこで先ほどのトンネルをくぐって駐車スペースまでやって来た。

 するとそこに誰か立っている。
 今度は正真正銘、地元の人々であった。

 「なんで悪いことをするんだ。」

 怒声を発したのはあの昼間のドライバーであった。

 「すいません。」

 確かにやるなと言われたことをやったのだから
 悪いことにまず間違いない。
 僕はすぐに謝った。
 ライダーのふたりもうなだれている。

 「何か盗ってたらすぐにわかるからな。」

 そう言って懐中電灯を手にトンネルに姿を消したのは
 昼間、助手席に乗っていた青年である。
 そういえばトンネルの中には屋台やら何やらがゴタゴタと入っていた。
 それらの品物が盗まれていないかを見に行ったようである。
 しかし、そういうことは一切していないので、これは平気である。

 「大丈夫みたいだ。」

 青年はしばらくしてから戻ってくると言った。

 「じゃ、ふもとまで乗っけてくから、乗りなさい。」

 ドライバーのおじさんは昼間と同じことを言った。
 見てみると車も例のライトバンである。
 しかし昼とちがうのはもう岬へはたどり着いてしまったことである。
 僕はむしろ颯爽と車に乗り込んだ。

 例の狂犬のような犬に吠えつかれないで済むと思えば
 感謝したいぐらいのものである。

 ライダー達はバリケードのところまではバイクで来ていたらしく、
 そこで車を降りた。
 僕はむろんそんなところで降ろされてはたまらないのでその先も車にゆられて行く。


 さて今夜は浜のあたりで寝るかな、と思って
 窓の外をボンヤリ眺めていると、青年が話しかけてきた。

 「あんちゃん、歩いてきたのかい。どっから歩いてんだ。」
 「北海道からですよ。」
 「へえーっ、そりゃ大したもんだな。まあそれなら岬まで行きたい気持ちもわかるな。」

 彼は意外と人懐っこい。

 「まあ、あんたは悪い人じゃねえみてえだからな。」

 今度は運転席のおじさんが言った。
 この人たちの口調は先ほどまでの警察官のような調子ではなくなっていた。

 「ブンゲ下げたのはあんただけだったもんな。」

 青年はそう言った。
 どうやらブンゲとは頭のことらしい。
 さきほどから会話のはしばしで鹿児島弁がとびかっていて時々意味不明になるのだが、
 それでも彼らは僕に話しかけるときには本気ではしゃべってないのだ。
 ネイティブスピーカー同士の彼らの会話は聞いていてもさっぱりわからない。

 まあそれでもだんだん彼らともうちとけてきた。

 「あんた、でも岬の先まで行けなくて残念だったな。」

 おじさんが言った。
 どうもこの人たちはかんちがいしているらしい。

 「いえ、岬の碑のところまで行きましたよ。犬が一匹いて、僕らを導いてくれましたよ。」
 「ははっ、そりゃ、チコのことだ。」

 青年が笑いながら言った。
 なるほどあの犬はチコというのか。
 話を聞いてみると、どうもあの岬の一帯に住みついているらしく、
 地元の人々に可愛がられているのだという。

 「チコの奴、台風の時はどうしてたんだろう。あいつスゲエな。」 

 青年がうれしそうに言った。
 そういえば妙に落ち着いた奴で僕が食パンをやっても食べなかった。

 「なんだ、あそこまで行ったのか。
  そりゃご苦労様。それにしてもよくこんな暗い道をひとりで歩くよな。」

 青年は少し呆れたように言った。

 「まあ、必死でしたからね。
  でも途中でよくわからない物音を聞いたんですよ。
  グウって鳴いてたんですけどね。あれは何ですか。
  猿か何かですかね。」
 「そりゃ、たぶんイノシシだろう。」

 おじさんが言った。
 そして、この辺りにはいるんだよ、とつけ加えた。
 そうか、イノシシか、そいつは予想だにしなかったなと思っていると、
 このおじさんが言った。

 「あんた、今夜うちに泊まってゆくか。どうせ泊まるところなんかないんだろう。」
 「はい。お願いします。」

 旅の最後もやっぱりこういう展開であった。


 このおじさんの家に着いたが、
 ここもやはり停電している。
 まだ復旧作業が進んでいないのだろう。

 それでも風呂に入れてもらって、
 ロウソクの薄暗い明かりの中でおにぎりを食べさせてもらった。
 そして焼酎を飲みながら、この辺境の人たちとしばしの宴をともにした。
 僕は旅を終えた安心感もあってすぐに酔っ払ってしまった。





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最終更新日  2004年09月06日 18時25分10秒
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