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エッセイ「奮髪記2」 じゅんぺい
「えっこれ本当にじゅんぺいちゃん」驚いたような声で職場の女性が、私と8年前の「私」が写っている写真を見比べた。私は「そういう頃もあったんだよ」と返答しながら、資料整理の最中に出てきた一枚の写真を見ながら、昔を思い出していた。 「その人」は、にこやかに職場の応接室で待っていた。 私のお袋から、「自分の息子が若くして、禿げなので、なんとかして欲しい」と連絡を受けてきたとのことであった。 確かに禿げのことは私自身も気にしていたが、それ以上に私のお袋のほうが、気にしていた。それは32歳にもなる息子が結婚も出来ないのは「あの禿げのせいである」という妙な思い違いがあったからであろう。 とにかく、その頃、実家に帰省するとお袋は決まって「誰かいい人はいないのか?」「誰かお前に嫁にきてもいいって人いないのか?」としきりに訊くので、うるさくてしかたがなかった。 ある日、実家に帰って新聞を読んでいると、いきなり頭頂部がグリグリするではないか!「何だ」と思って頭上を見ると、なんとお袋が黒のマジックで私の頭を塗っているではないか!「何するんだ!おかしくなったのか!」と叫ぶと、「お前の頭を見ていたら不憫で不憫で・・・」と言うではないか。「どこに自分の息子の頭をマジックで塗る親がいるか!」と怒ったものの、そこまでするお袋の想いも、伝わってもきた。 そういう事件があって数週間後に、「その人」が、お袋の依頼で来たとのことであった。「その人」はテレビコマーシャルでも有名な某カツラメーカーの青森支店の人であった。「その人」が言うには、「カツラ」は7年持つとのこと。「カツラ」をつけたまま、日常的な生活は普通にできる。月に1回支店に来て、編みこんだ「カツラ」をはずし、洗髪とカットをして、再びカツラを編みこむというものであった。価格は50万円で、すでにお袋が支払い済とのことで、自分の意思とはかかわりなく、その「カツラ」を「装着」することになった。 まずは、「カツラ」を作るために禿げ?のサイズをはかり、髪の長さを決定し、それにあわせて、「カツラ」本体を作る。作成は1ヶ月程度かかったであろうか。ある日、「お客様のご注文のカツラが出来ていますので、いつでもご来店ください」との電話があり、その日のうちに装着に行った。 カット・洗髪ののちに、いよいよ装着である。「カツラ」本体はものすごく軽く、また通気性にも飛んでいた。前の方にバックルみたいなものがついていて、そのバックルと自分の前髪をかみあわせて、開閉して、そこから指が頭頂部に入り、頭皮を洗髪することも出来た。「カツラ」は編み針のようなもので、自毛に編みこまれ、編みこまれた部分に特殊な接着剤がつけられ、固定がされていった。およそ1時間半もすると私の頭は、10代の頃のような頭髪に変身していた。1年半前のセ○ムどころではない、どこから見ても自毛としか思えない。頭髪の誕生であった。 職場に戻ると、みんなビックリして、「これ本当にカツラか」「これでやっと年齢相応に見えるようなったな」と感嘆していた。職場の人は私が「カツラ」をかぶったことを知っていたので、そんなにビックリはしなかったが、それが知らない人の反応となると・・・。ある会議で盛岡に出張したときのこと。東北各県の参加者が集まった会議が始まり、しばらくして座長が私の頭を見ながら、「じゅんぺい、おめぇその頭どうした」と叫びました。参加者の視線は一斉に私の頭に集まり、「あっ髪の毛がある」「どうしたその頭」「カツラかぶったのか?」と口々に、ビックリした様子であった。夜の交流会では「どう見ても今までのオメェは、40才くらいにしか見えなかったもんな。これで年相応に見えるから青年も組織しやすくなるんでねェか」など口々に勝手なことをいいながら、いい「酒の肴」として盛り上がった。 発注者?であるお袋も「これで嫁さん来ればいいねぇ」と喜んでいた。 頭髪に変化が始まったのは、かぶってから1年くらいたってからであった。それまであった前髪が、ホックのせいもあるのであろうか、だんだん薄くなり、また「カツラ」を編んでいる部分も、だんだん薄くなってきていた。2年たつと、もう前髪にホックをかける髪も極端に少なくなり、テープになった。 そして2年半たつと、自分で見ても、禿げの部分とカツラがギリギリの状態になっていた。そしてその日がやってきた。 その人「じゅんぺいさん、もう限界です。このままでは禿げが隠れなくなります。もう一つ作ってはいかがですか?」 私「ちょっと待ってくださいよ。製品は7年持つといったじゃないですか」。 その人「製品はまだ大丈夫なんですが・・・」 私「だったら、いまの製品を使って手直しできないんですか?」 その人「ベースを広げるということは無理なんですが・・・」 私「だったら、最初からもっと大きく作ればよかったじゃないですか」 その人「すいません私たちの予想を越えて禿げが進んでしまったもので・・・」。私「ちょっと検討させてください。カツラが高額なもので今即答は出来ません」 その後、色々検討した結果、すでに髪の毛がある「じゅんぺい」が社会的にも定着し、かぶってから知り合った人たちは、私が禿げということを知らない人も増えてきていた。「やっばりかぶり続けるしかないか・・・」と決断し、購入することにした。価格は前の時から10万上がって60万だという。2つめなので10%割り引いて54万だというが、現金で払えないためローンを組むと、60万を超えた。その頃には、すでに禿げはかなり進み、前髪はなく、頭頂部はほとんど髪の毛がなくなってしまっていた。 それから1年半、「その人」は、「じゅんぺいさん、 もう限界です。3つ目を作ってはいかがですか?」と言ってきた。「まだ前のローンも残っているではないか。これでは1個目と同じではないか。なんで大きく作らなかった」と文句を言った。 「その人」は「そうですね。カツラがお嫌なら、今度は植毛をやりませんか?あと、育毛コースもありますよ」と平然と言った。 そういえば、友だちから、聞いていたことがあった。「そう言えば、カツラかぶった人でサラ金にはまって大変になっている人がいるってきいたな」と。 職場に帰って、「カツラ」をゴミ箱に投げ、足で踏んづけた。私が4年半してきたことは、多くの時間とお金をかけて、禿げを促進させていたのであった。あやうく私も、「カツラ地獄」に陥るところであった。1.明日遥同人のKさんが新しい古書店ま… 2009年06月19日 コメント(19)
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