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チョ・インソン~ジェミンに恋して
風の章2
食事の支度ができたと呼ばれて、キヨノがダイニングに入ると、ジュノが
一人酒を飲んでいた。
「はい、子犬もおりますので・・後で部屋に何か持っていってやります。」
「そうか」
そして、ジュノはテーブルについてキヨノと二人食事を始めた。
「今まで何をしていた?あのときは俺も追い出され、キヨノも追い出され
てしまったな」
キヨノは思い出したように、遠くを見つめた。
「悲しかったですよ。ぼっちゃ・・・いいえ、ジュノ様のおそばにいられ
ない事が・・・キヨノはほんとうに悲しかったのです。ところがあの後あ
る方から、ロサンゼルスにいる方が韓国人のお手伝いを捜しているとき聞
き、もしかしてジュノ様にお会いできるのではないかと思い、7年前に参
りました。そこで2年ほど前まで働かせていただいていましたが、色々事
情があって半年前に帰って参りました。」
ジュノはおもしろそうに聞いた。
「ロサンゼルス?キヨノが?」
「ええ・・」
日頃もの静かなキヨノの、何処にそんな勇気があるのだろうかと、ふと思
うジュノだった。
「ぼっちゃま、良いですか何処に行ってもキヨノはぼっちゃんの味方です
よ。何があってもキヨノはぼっちゃまを信じています。体に気をつけて・・
決して無茶などしてはいけませんよ。」
ジュノが留学するときに、飛行場まで送ってきたキヨノが人目もはばから
ず、泣きながらジュノに何度も繰り返して言っていた事を思い出した。
キヨノはジュノを我が子のように想う気持ちもあったに違いない。
ジュノの母が亡くなり、継母と義兄が来てからと言うものは、ジュノが不憫
でならず、その気持ちがいっそうジュノに対する愛情を深くしていた。
「それで、ジュノ様。私は何をいたしましょうか?」
「何の話だ?」
「お仕事でございます。何をすればよろしいですか?」
ジュノはワインを飲み干して言った。
「おまえにやってもらう様な仕事は何もない。ゆっくり庭でも眺めていた
らどうだ?」
「でも、それでは申し訳ございません。ヒョンスもお世話になることです
し・・何か仕事をさせていただかなければ、心苦しいのです。」
ジュノは面倒くさそうに言った。
「良いか、おまえ達を養うくらい俺には何ともないことだ。今、俺は静か
に暮らしている・・毎日がこれで良いと思っている。だから、何も変える
な、何もするな。良いか・・?」
「はい・・」
うなだれるキヨノを見て、ジュノは言った。
「それにあのとき、お前が俺をたたいてくれなかったら、俺は今頃チンピラ
にでもなっていただろう・・・。そのときの、礼だと思ってくれ。」
「ありがとうございます」
「あの小屋は、明日きれいになおさせるから、心配するな」
あの小屋とは花が好きだった母が、庭師を住まわせていた小さな煉瓦の
小屋だった。
母がいた頃は小さな花壇をあちこち作り、色とりどりの花を育てて喜んでいた。
その小屋は広い庭の片隅にあり、二階のジュノの部屋のテラスからよく見
える場所に建っている。
「それで・・・あの娘はいつから口がきけないのか?」
「はい・・可哀想な娘でして・・2年ほど前からです。ただ耳は聞こえま
すので、何かご用がおありでしたらおっしゃってください。」
「そうか・・仕事はしなくてもいいと伝えろ」
「ジュノ様・・決してご迷惑はおかけいたしません・・。」
突然キヨノは、ジュノに向かって深々と頭を下げたのだった。
ジュノは気にもせず、立ち上がって
「もう休め・・・」
と言いながら、テーブルを離れ隣のリビングにあるバーに向かった。
キヨノがヒョンスの待つ部屋に帰ると、ヒョンスは子犬を抱いたまま床に
寝てしまっていた。疲れ切って眠るヒョンスを起こそうと何度も揺さぶっ
たが、すっかり眠ってしまっている。しかし、このまま床に寝かせること
もできず困りはて、廊下に出てみるとジュノが丁度リビングから出てきて
二階に上がるところだった。
「ジュノ様・・お願いが・・」
面倒くさそうにジュノはキヨノの部屋に行った。
「何だ・・いったい」
「申し訳ございません・・ヒョンスが床で寝てしまって・・・暫くちゃん
とした宿ではなく、何日か野宿同然に寝ていたものですから・・・。」
ジュノは怪訝そうにキヨノを見つめた。
「野宿?それで、何をしろと・・」
「あの・・ベッドで休ませてあげたいのですが・・。」
ジュノは、ハァ~っとひとつため息をついてあきれたように部屋に入り、
メガネをかたまま床にうずくまって眠るヒョンスを抱き上げ、ベッドに寝
かせた。
そのとき、何故か甘く懐かしい香りを感じた。
何だろうかと考えていると、目を覚ました子犬がジュノの足下にまとわり
ついた。
ジュノは思わず子犬を抱き上げ、キヨノに言った。
「あのときの犬に似ているな・・・」
「はい・・鼻と口のまわりが真っ黒でしたね。この子犬とほんとうにそっく
りでございます。」
ふっと笑ってジュノは子犬をキヨノに渡し、部屋を出ていった。
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