十年前

あの日・・・僕はとある発掘品を求めてピシスの雪原を歩いていた。
天候は、数歩先も見えない猛吹雪。

その日は二時間ほど発掘を続けて・・・、そろそろ吹雪も強くなってきたし
今日は諦めて帰ろうかな
そう思い始めていた。

その時

『さむい・・・　です・・・

さむい・・・　みえない・・・

ここ・・・』

どこからか、かすかに子供の声が聞こえてきた。

（こんなところに子供！？
まさか・・・？早く助けないと・・・）

僕は声を頼りに必死に声の主を探した。

・・・

・・・

その声の主は思ったよりもすぐに見つかった。

僕が声に気付いた位置からほんの数メートル。
視界を覆う吹雪で見えていなかっただけで、 ”彼女” はすぐそこにいた。

膝を抱えてうずくまる　１人のジャイアント種族の女の子。

僕は急いでその子をバレスへ連れて行った。

急いで・・・と言っても、子供ながらすでに自分より大きな女の子を背中に背負ってよろよろのろのろ・・・だ。
（こんなことならかか鴉も連れてくればよかった・・・）

バレスにたどり着いた僕は、助けを呼びながら灯りの付いている家を探しひとつの酒場に辿り着いた。

酒場の前にいた主人らしき男は僕と僕の背中にいる女の子を見ると驚いて、すぐに酒場の奥へと通してくれた。

酒場の奥のソファーに彼女を運び毛布をかけ酒場の主人から受け取ったホットチョコをゆっくりと飲ませる。

少しぐったりしているものの、思ったほど衰弱はしていないようだ。
ホットチョコを飲み終わって少ししたあたりで、無言ながらも意識がはっきりしてきた様子の彼女に僕は質問を投げかけた。

【コオシン】
君、体は大丈夫？
もう寒くない？

【少女】
これ・・おいしかった・・・さむくない・ですよ。

【コオシン】
良かった！
君、名前は？

【少女】

わからない・・です。

【コオシン】
（名前がわからない・・・？
もしかして記憶喪失・・・それともショック状態かな・・・？）

そっか・・・
君はお父さんかお母さんはいる？
どこにいるかわかるかな？

おとう・・・さん・・・？

・・・

・・・もしかして・・・おじさんが自分のおとうさんですか・・・？

【コオシン】
いや・・・・・・
・・・
違うんだ・・・
ごめんね。僕じゃない。

【少女】
そう・・・ですか・・・

じゃあ・・・そっちの・・・クマのおじちゃん・・・？

【バンスト】
いや・・・俺も違うぞ。
そもそも熊じゃない・・・

【少女】
そうですか・・・
自分・・・お父さんとお母さんがどこにいるか・・・わからないです・・・

そう言いながら何故か彼女は、
バンストさんのお腹の肉を揉んでいた。

（そう・・・
もしかしたらユウは記憶喪失になったんじゃなくて、記憶喪失だった頃の時期に記憶が戻っちゃったんじゃないのか？
ティンポーションの効果を考えると、そのほうが納得がいく！）

ねぇユウ、君自分の名前はわかる？

え・・・？
ユウって・・・自分の名前ですか・・・？

あっ・・！そっか・・・

ええと・・うん。
そう、君の名前はユウだよ。

ユウ、君は自分のお父さんとお母さん。
誰でどこにいるのかわかるかな？

お父さん・・・？

・・・

あっ！
もしかしておじさんが自分のお父さんですか！？

う・・・う～ん・・・
まぁ・・・今は確かにそんな感じかな＾＾;

・・・・・・

おぉ！やっぱり！！
おじさんが自分のお父さんなんですね！

じゃあ！じゃあ！
こっちのクマのおじちゃんが自分のお母さんですか！？

そんなわけねぇだろ！
そもそも熊じゃねし女じゃねえ！

やっぱり！やっぱり！
丸いクマのおじちゃんが自分のお母さんなんですね！

なあ話し聞いてたか！！？

その後その女の子はジャイアントということで、親を探すのにもバレスのほうが都合が良いだろうということになり、いったん酒場の主人（バンストさん）のところに預けて僕は家に戻ることにした。

もちろん、僕が巻き込んでしまっただけの彼だけにずっと彼女を預けて置くわけにもいかない。
まだ子供だった彼女の面倒はそれからバンストさんと僕とかか鴉の家で順番に見ることにした。
僕の家には歳の近い娘もいたしね。

そうそう！
あと、彼女の名前は 「ユウ」 という名前らしかった。

らしかった というのは・・・
最初彼女の名前は、いつまでも名無しのままというわけにもいかないから、僕とバンストさん（＆とんでもない名前をつけようとするかか鴉）で決めようと話し合っていたんだけど、
その会話の中で彼女は 「ユウ」 という単語に対して何度か反応して返事をしてみせた。

本人はなんで返事をしてしまったのかわからない様子だったけれど・・・恐らくこれが記憶を失う前の彼女の名前だったんだろうという話になり、彼女の名前はそのまま 「ユウ」 になった。
（彼女に 「ユキゴリラ」 という名前を付けようとしていたかか鴉は、とても残念そうな顔をしていたけど・・・）

ユウの住む場所はあれ以来ずっと同じように、僕達夫婦の家とバンストさんの家で順番に面倒を見ている。

まぁ・・・途中から
『俺みたいな独り身の家に、いつまでも若い女の子がいちゃまずいだろう』
ってことで、バレスに泊まる夜の間だけは酒場の近くにあるバンストさんの親戚の空き家で寝泊まりするようになったんだけどね。

彼女がいる生活にすっかり慣れてきた頃・・・
ある日僕は、記憶を失ってなにも思い出せないままでいる彼女がいつも笑顔で楽しそうでいることが逆に・・少し不安になって、彼女に聞いてみた。

【コオシン】
急に変なこと聞くけど・・・ユウ、大丈夫？

お父さんとお母さんも・・・住んでたところも・・・おじちゃん達まだ見つけられてないけど・・ごめんね・・・
寂しくない？

過去幼ユウ.jpg