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2019.07.17
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カテゴリ: 演出ノート(3)
乞食は、今送っている、気楽な人生の話をします。そして、自分くらい幸福な人間はいないと思っていると言います。自由ですから。自分をみじめだと思うことはありません。
「他人から恵んでもらうばかりで、気が引ける様なことはないかい」と問われ、
「ないね。……初めはあったがね。考えてみりゃぁつまらんことさ。それが娑婆の人間のつまらん了見さ」
世の中には金も食い物も有り余って、何の苦労もしないでいる奴もいる。同じその世の中に、金持ちを羨みながら、無理にいらないという顔をしている者たちがいる。金持ちと貧乏人がいがみ合ってる、憎しみあっている。だもので、金持ちは意地をはって肥え太り、貧乏人はやせ我慢して細くなって行く。これは世の中の大問題だ。
乞食の老人は言います。「呉れ」って言えば良いのだ。素直に言えば、それで決着がつくのに。
そこまで自分たちが落ちて仕舞っていることを、日本人はなかなか認めませんでした。ですから、終戦からの復興も、結局、いびつなものになったのでしょう。
乞食もインテリではありません。世捨て人というのでもないでしょう。しかし、達観した人物、人生の実用哲学とでも言うものを、会得しています。

突然、呼び子の声。けたたましい騒ぎが聞こえ、与太者たちが舞台を走りすぎます。
「親方が野良犬のトムを殺したんだ! 手が回ってる! 逃げろ!」
親方というのは黒マスクのジョオです。巻き添えをくってはいけません。乞食は男に逃げようと指しますが、男はその場に留まります。自分とは違う世界の出来事と、とらえているようです。そして『自由を我らに』のメロディを吹いています。

そこへ外套に身をくるんだ黒マスクのジョオが、音もなく現れます。そして男に近づいて、ピストルを突きつけて言います。
警官が追ってくるので、変装してやり過ごそうというのです。警官が近づきます。ジョオは男からサクソフォンを取り上げると、自分で吹き始めます。男に歌えと命じます。曲は『巴里の屋根の下』です。

人々の声が行き過ぎます。もう大丈夫なようです。黒マスクのジョオは礼を言って、はずしていたマスクをつけます。目立ちますという男に、(火傷した)顔があんまりみっともないんでな、と言って、マスクをつけます。
「親分はサクソフォンが巧いんですねえ」「そうかい? 巧く吹いたかい」「前にやったことないですか?」「やった覚えないね」「不思議だなあ、あの吹き方はとても素人じゃ出来ませんよ」「命が惜しくて夢中でやったせいかな?」
by 神澤和明





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Last updated  2019.07.17 09:00:11


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