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この作品はフィクションであり実在の人物団体等とは一切関係ありません。
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原油価格高騰
イブラヒムは、イエイツの言っていたことを心の中で反芻していた。リヤドの冬は寒い。時には気温が零度を下回ることもある。一一月末の今は、まだそこまでは寒いということはないが、灼熱の国の火照りが残っているだけ、気温の急激な変化について行くことが出来ない。
"これから、一〇〇ドル、一五〇ドルと引き上げて行くつもりだ。ただ、上げたり、下げたりしながらだがな"
イブラヒムは、思わぬ寒さに襲われた。イブラヒムはブルッと体を震わせた。
原油価格は、なかなか一〇〇ドルを超えることはなかった。しかし、八〇ドル台に戻すこともなかった。
「ただ、上げたり、下げたりしながらだがな、か。イエイツの思惑通りに事が進むかどうかは分からないが、大量の資金の裏づけがあることが強みだ。気に食わない奴だが、それと儲けを確保するための協力とは別物だ。殿下のメリットになるならば、嫌な奴とでも一緒に取引を進めるさ」
イブラヒムは呟いていた。
一一月下旬は、二三日に、ヨーロッパの信用不安の高まり世界経済の先行き不安を主因として、九六・一七ドルまで下げたが、その後、ジリジリと上げた。そして、一一月三〇日に一〇〇・三六ドルとようやく一〇〇ドルを超えた。
日銀、米連邦準備制度理事会(FRB)、欧州中央銀行(ECB)、イングランド銀行、スイス国立銀行、カナダ銀行の六つの主要中央銀行が、ヨーロッパの経済不安を背景とした国際金融市場での流動性低下に備え、通貨供給を強化する協調策を発表したからだ。
イブラヒムの部屋の電話が鳴った。イブラヒムはそろそろイエイツから電話が掛かって来る頃だと思っていた。
「イブラヒム。どうだ。一〇〇ドルになったろう」
まるで自分が一〇〇ドルにしたような口振りだった。
「殿下もきっとご満悦だろう」
アブドルアジズは父トルキを亡くして滅入っていた。そんなことはお構い無しだ。イエイツの無神経さには、腹がたったが、言わせるだけ言わせることにしていた。
「仰る通りですね。でも、何でこんなにヨーロッパの信用不安が解消されたり、高まったりとまるで猫の目のようにクルクルと動くんでしょうね」
イエイツは、多少ぎくっとしたようだったが、勝てば官軍負ければ賊軍の心境だった。
「まあ、そんなもんだ。何でも良い。今の内に儲けておけよ。いずれまた下降局面が来る。そして、その後はまた上げる。まあ、そんなもんだ」
イエイツは得意な時には、まあ、そんなもんだを連発する。
イブラヒムは、確かにイエイツの言う通りだったから、イエイツの路線に乗っかることにした。
「会長。それでは、それまで儲けさせて貰いましょう」
イブラヒムは、アブドルアジズの資金も大量に市場に投入した。イエイツは、嵩に来て、この時とばかりに大量の資金を投入して原油を買いに出た。
一〇〇ドル超えは一二月七日まで六営業日続いた。
イエイツはますますご満悦だった。
「イブラヒム。これで良いだろう。そろそろ引こうか」
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