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この作品はフィクションであり実在の人物団体等とは一切関係ありません。
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イブラヒムは、自分はアブドルアジズから全て任されているとは決して言わない。それは、ブラウン前会長の時もそうだった。とは言え、時折、アブドルアジズ邸に報告に行くし、新たな資金を大量に必要とする時はお伺いを立てる。
何よりも、アブドルアジズからお呼びが掛かってしまう。イブラヒムはアブドルアジズのお気に入りだった。
泳ぎの好きなアブドルアジズは、大学で競泳部に所属していたイブラヒムの泳ぎに惚れ込んでいたのだ。時には、競争させられる。アブドルアジズが敵う筈は無かったが、それでも何度でも挑む。イブラヒムは決して手を抜くことは無かった。そんなところが、却ってアブドルアジズの気を引いた。アブドルアジズも、スポーツマンだったから、それほど後れを取る分けではない。
「殿下にはくれぐれもよろしくな。決して損はさせないと言ってくれ。ただ、さっきも言ったが、早ければ早いほど儲けが大きいことを忘れずに、な、な」
大量の資金がクリスマス休暇の直前に市場に流れ込めばその効果は甚大だ。イエイツは、総動員で仕掛けるつもりでいたが、その上にアブドルアジズの資金が乗れば、その相乗効果は相当なものになる筈だ。原油需給状況などは、全く関係無い。これまでも、それで押し切って来た。第一、今は冬場だ。在庫取り崩しが当たり前だ。
「実はな。言おうか言うまいか考えていたが、今度は、イランカードもある。お前も知っているかもしれないが、あのイラン高官に働き掛ければ一発だ。湾岸諸国の出荷施設を攻撃するなどと言えば、直ぐに一五〇ドル、二〇〇ドルだ。いや、実際に攻撃しなくても良い。ただ、脅せば良いのだ。口先三寸だ」
イエイツはドスの利いた太い声で呟く様に言った。
「止してくださいよ。冗談がきついですね。そんなことを言えば、湾岸諸国の反発を買うし、イラン自身が輸出出来ないのですから、イランにとっては元も子もありませんよ」
ブラウンはこんなことは言ったことがない。"あのイラン高官"など知らない。聞いたこともなかった。
「だから言ったろう。口先だけで良いんだ。ちょっと混乱させればそれで済む。ペルシャはしたたかだぞ。本当に攻撃するつもりなどなくとも脅すさ」
イエイツはイブラヒムの疑問など一蹴だ。
「ホルムズ閉鎖だってそうだ。イランが輸出出来なくなるようなら、それを見込んだ戦略を立てるさ。原油価格が上昇すれば、全ての産油国が恩恵を蒙る。昔と違って今はチープオイルなどと言う国は無い。ずっとやりやすい。例えばだ。他の産油国に肩代わりしてもらうなんてことも考えれば問題は回避出来る。まあ、そのためには、産油国の協力が必要だがな。その辺りはしたたかだ。OPECには生産上限がある。その上限を超えた分で肩代わりして貰えば良い」
イエイツは饒舌になった。アブドルアジズの協力を得て、大儲け出来れば、イランなどはどうでも良かったのだが、より大儲けになるとなれば別だった。
「恐ろしいですね。そんなことは殿下には言えませんね」
「おっと、そうだな。これは言って貰わない方が良いだろう。とにかく、大儲けになると言ってくれ。くどいようだが、それも出来るだけ早く協力して貰えれば、より大きな儲けが転げ込むとな」
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