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この作品はフィクションであり実在の人物団体等とは一切関係ありません。
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原油価格は、一二月二〇日には三ドル以上上昇し、九七ドル台となった。そして、その後も、上昇し続けた。二一日には九八ドル台、二二日には九九ドル台と鰻上りだった。
二三日、二四日も高値が続いた。
加えて、クリスマス前後は、先物市場の取引量が普段に比べ少なくなっていて、イエイツの動きがより大きな影響を与える背景が整っていた。
二七日には終に一〇〇ドルを超えた。
「イブラヒム。お前には世話になったな。今年ももう直ぐ終わるが、お陰さまで、昨日は、原油価格も一〇〇ドルを超えた。一〇一・三四ドルと、一ドル以上も超える余裕振りだ」
電話のイエイツの声は弾んでいた。前回同様、上機嫌だった。とにかく、原油価格が上がっていれば、機嫌が良かった。イブラヒムの脳裏には、脂ぎった、イエイツの額、上機嫌な時につきものの、ゆっくりと体を揺さぶる仕草がはっきりと浮かんでいた。
「会長。有難うございました。お陰さまで大分儲けさせて貰いました」
「いやいや、これもお前と殿下のお陰だ。助かった」
イブラヒムは、傲慢なイエイツにしては、随分とへりくだった、殊勝な物言いだと思っていた。確かに、イブラヒムは、あれから、アブドルアジズの了承を得て、半端ではない資金をイエイツに提供していた。そうではあるが、巨大銀行のシルバーマンからすれば、それほどウエイトの高いものではない。イエイツのことだ、何か、意図があっての物言いに違いないと考えていた。
「殿下にはくれぐれも宜しくな。来年こそ一五〇ドル原油時代を実現する決意です、とお伝えしてくれ」
一気に一五〇ドルとは随分と強気なもんだと、イブラヒムは呆れていたが、イエイツは本気だった。
「会長。それを聞けば、殿下もきっと喜ばれますよ。必ずお伝えしましょう。殿下もここのところの展開に満足されておられます。会長にも宜しくと仰っていました」
アブドルアジズが、そんなことは一言も言っていなかった。イブラヒムのイエイツへのリップサービスだった。
「そうか。そうか。それは有難い。それじゃ、そこで、もうひと押し頼むよ」
イエイツがそれを言いたかったことはみえみえだった。
イブラヒムは、一五〇ドルが実現するかどうかはともかく、来年に向けて、資金を大量に準備するつもりでいた。
「分かりました。今の展開をご説明すれば、殿下もきっと追加の資金投入をお認めになることでしょう」
イブラヒムは、アブドルアジズに相談しなくても、まだまだ資金を投入出来た。それをイエイツに言う必要などない。
「イブラヒム。有難う。朗報を待っているよ」
頼みごとを終えると、イエイツはそそくさと電話を切った。
イブラヒムはいずれ年が明けたら、アブドルアジズに挨拶に行くつもりでいた。もともと、そこで、追加資金を貰うようにしようと思っていた。
追加的な資金があれば、鬼に金棒だ。
ところが、皮肉なことに、二八日には、原油価格が大幅に低下してしまった。二ドル近く下げ、あっと言う間に、100ドルを割ってしまったのだ。
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