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抑圧された人々によるジャーナリズム
インド北部、ウッタル・プラデージュ州でダリトと呼ばれるカースト外の最下層にいる女性たちが創設した新聞社「カバル・ラハリャ」。ドキュメンタリー「燃え上がる女性記者たち」は、偏見や暴力に怯まず報道を続ける女性たちの姿を映し出している。公開に間に合わせ来日した監督のリントゥ・トーマス氏、スシュミト・ゴーシュ氏に聞いた。
ドキュメンタリー 「燃え上がる女性記者たち」の監督に聞く
地方の物語から世界へ広がる
制度的差別に切り込む
〈「カバル・ラハリャ(〝ニュースの波〟の意)」は 2002 年に創刊。女性への暴力や性犯罪、ライフラインの負整備の問題などの社会的抑圧に抗い、報道を続ける〉
——「カバル・ラハリャ」の映画を作成しようと思ったきっかけは何でしょうか。
トーマス● 2016 14 年間にわたってジャーナリストとしての活動を続けていることを知りました。そこにはダリとの女性たちが自らの新聞を配りながら乾いた大地を歩く姿が写っていて、とても興味を引かれました。
というのも、私たちは常に民主国家における女性の役割は何かを考え続けていたからです。女性をリーダーとする民主国家とはどのような社会化、深い関心を持っていました。また、同紙は当時、デジタルに移行する時期でもあり、その変化の流れに飛び込む絶好のタイミングでもありました。
——「カバル・ラハリャ」からは、さまざまなエネルギーを感じたそうですね。
トーマス● 制度的差別に切り込むダリトの女性、その自由なデジタルテクノロジーが持つエネルギーです。社会の不正をただす使命を忘れた既存メディアに対し、彼女たちはニュースを、自分たちの権利を取り戻すものに作り直そうとしていました。ラリトは報道されることのない人々であり、ニュースになっても、それは全て受け身的な内容でした。そのなか、ダリトの声を社会に届ける彼女たちからは強いエネルギーをまんじました。
また、デジタルテクノロジーは、この国に強固に横たわり変化を拒む社会の制度や慣習とは反対に、自由な環境を与えるものです。デジタルへの移行が「カパル・ラハリャ」をどう成長させるのか、とても興味がありました。
(主要メディアに先駆けデジタル化を進めた「カパル・ラハリャ」のニュースは、ドキュメンタリー完成時には、再生回数 1 億 5000 万回を超えた)
生活圏の中で不正をただす
〈作品の中では、主任記者のミーラ、若手成長株のスニータ、信心記者のシャームカリを軸に反社会勢力の存在、警察の怠慢を明らかにする同紙の活動が映し出される〉
——撮影の中でこだわった点などあるでしょうか。
ゴーシュ● 作品の中にはインド会社に残るあしき慣習等が写り込んでいますが、それを目的に撮影したことは一切ありません。一方、女性記者を見下す男性記者や、彼女たちが外で働くことに批判的な家族の姿を、皆さんは作品を通してみることでしょう。私たちは女性記者として取材を続けるダリトノ女性たちが、どのような環境で働き、暮らしているのか、伝えたいと考えていました。あらかじめ場所や時間を決めて撮影し、インタビューする形も取りませんでした。そうすることで、よりリアリティーを持って、彼女たちの姿を伝えられたのではないかと思っています。
——彼女たちがジャーナリの活動を続けてこられた理由はどこにあるのでしょうか。
トーマス● 目的意識の高さ、不正をただすという思いが強いことが、その理由です。取材に出かける場所も自らが暮らす場所も同じ生活圏にある彼女たちにとって、不正をただす報道は被害者のためであると同時に、自らが住むコミュニティーのためでもあります。かつて採石場で児童労働に駆り立てられたスニータ記者が選んだ取材先は、その採石場で行われていた違法採石でした。
また、ダリトとして社会的差別を受けてきた彼女たちでしたが、「カバル・ラハリャ」で記事を書くことを学び、スマホを使い発信することを学びました。こうした力を得た彼女たちにとって、身の回りで起きている問題の全てが放っておけない問題に感じられたのではないでしょうか。
デジタル技術の可能性にも
個々の要素を普遍的につなぐ
——国際映画祭で数々の賞を受けています。インドの一地方のストーリーが世界で共感を与えるものになっているのはなぜだと思いますか。
ゴーシュ● 作品中の一つ一つの要素が普遍的につながることで、たとえ一地方のストーリーであっても、それは世界に広がるものだと考えています。
この作品では、背景の異なる3人の記者が、ドキュメンタリーを支えるキャラクターとして登場します。彼女たちがダリトノ女性であることで、作品の扱うジャーナリズムは、「抑圧された人々によるジャーナリズム」になりました。そこには権力の不正をただす挑戦も描かれます。デジタル移行による SNS の活用も取り上げました。これらの点が線となり、面となり、女性の持つ力を描けたのではないかと考えています。そして何より、その声を届けることさえできなかった人々が、彼らを抑圧してきた社会に立ち向かい、成し遂げたこと、それが人々の心に響いたのだと思います。
Rintu Thomas / Sushimit Ghosh インドの映画監督・製作者。 2009 年にノンフィクション映画製作会社 Biack Ticket Filma を設立。作品は世界各地の期間で活動支援・推進・教育ツールとして活用され、 12 年にはインド映画界最高栄誉である大統領メダルを授与された。
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