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デジタルツインの実用化
科学文明研究者 橳島 次郎
コントロール権の保障が必要
デジタルツインという先端技術が多くの分野で活用されている。実在する者や環境を実測・収集した膨大なデータを基に仮想空間に再現するもので、例えば飛行機のエンジンを再現して動きを試し、設計・製造や保守点検に生かすといったことが行われている。ある町をそっくり再現して人や物の流れ、気象などをシミュレートし、まちづくりや防災対策・避難計画の策定などに利用する例もある。
この技術を医療や医学研究で使おうという試みも始まっている。
この技術を家用や医学研究で使おうという試みも始まっている。例えば心臓のデジタルツインを作れば、心筋の動きや血流を再現し、現に患っている、または将来かかりそうな病気の信仰を予測し、治療や予防の方針を立てるのに役立てることができる。脳のデジタルツインを作り、うつ病や認知症などの病態を解明し治療法を開発しようという研究計画も出てきた。将来は個々の臓器にとどまらず、全身のデジタルツインが造られると予測する論者もいる。
こうした体の動きを再現するデジタルツインは、かかりやすい病気の性質を知り、生活習慣の改善や自分に合った健康診断の選択の手助けとなるので、本人には大きな利益となる。だが、生命と健康に関する重大なデータを含むので、不用意に第三者に知られると、不利益を被る恐れもある。例えば雇用主に知られれば、就職や昇進で差別を受けるかもしれない。保険会社に知られれば、保険加入を断られたり、高い保険料を要求されたりするかもしれない。
このような懸念は、遺伝子検査で分かる遺伝情報の扱いにおいて、すでに現実となっていて、対策が求められている。デジタルツインでも配慮と対策が必要になるが、それが示すのは加工された電子データに基づくシミュレーションによる予測なので、保障されるべき個人医療情報といえるのか、微妙なところだ。個人情報保護法とは別の特別の保護制度を設けるべきかもしれない。
今後、身体のデジタルツイン作成を適正に実用化するためには、本人が同意した目的以外ではと変えないとする必要がある。個人情報と同じように体のデジタルツインでも、何にどう使うか。本人のコントロール権を保障しなければならないということだ。そこに自分のデジタルツインに誰がアクセスしてよいかを決める権利も含まれる(例えば家族やかかりつけ医など)。自分の利益になると判断できれば、雇用主などへの開示も認めてよい場合があるだろう。
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