気まずい

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携帯電話の時計で0:00になったことを確認した。
戦いが始まった。
その瞬間、仕事終わりで会社から駅に向かって歩いていた。
駅へ急ぐ人々、酒宴後の会社員たち、
交番の前の警察官、行き交う車、特に普段と変わりはなかった。
俺は恐かった。どうしようもなく怖かった。
駅のホームへ到着。
そこで初めて俺に語りかける声がした。
場内アナウンスである。
「まもなく2番線に電車がまいります。危険ですから白線の内側まで下がってお待ちください」
とうとうきた。絶対 うそ だ。
まだ気分的には3月31日気分の人が多いという盲点をついてきたんだ。
俺は冷静でいなければならないと自分に言い聞かせて、頭を回転させた。
どういう嘘だろう。
・電車がまいりますと言いながら、実は来ない?
・危険ですから?ほんとに危険なのか?
・白線の内側?実は外側?
混乱した。疑いだしたら、きりが無いのだ。
発狂しそうだった。周りの人たちはいたって冷静に見える。
見えるだけかもしれない。

まもなく電車がやってきた。
白線の外側にいたら危険だった。
う、 うそ じゃなかったんだぁ。
俺はほっとした。
そしていつものように電車に乗った。

ひとまず恐怖心は去り、電車に揺られていた。
車内の乗客の話声がする。
しばし話に耳を傾けてみるが、特に異常はなかった。
やっぱりエイプリルフールなんて幻想だ。
まったく何びびってたんだか、俺は。
あーエイプリルフールなんてくだらねーと油断していたとき、後ろの乗客の携帯電話が鳴った。
「もしもし?うんうん。なに?うん、今?今ねーB駅。もうすぐ着くからよろしく」
と言った。
俺は血の気が引いていくのを感じた。
現地点はB駅なんかじゃなかったのだ。B駅は次の駅だったのだ。
こ、こいつ うそ ついた。
やっぱりエイプリルフールは幻想なんかじゃなかった。
長い一日がはじまった。


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