いつかどこかで

『 僕の大事なｺﾚｸｼｮﾝ 』

『 僕の大事なｺﾚｸｼｮﾝ 』 　2005 米

        監督　　ﾘｰﾌﾞ･ｼｭﾚｲﾊﾞｰ
        出演　　ｲﾗｲｼﾞｬ･ｳｯﾄﾞ　　ﾎﾞﾘｽ･ﾚｽｷﾝ　　ﾕｰｼﾞﾝ･ﾊｯﾂ　　ﾗﾘｯｻ･ﾛｰﾚｯﾄﾞ　

ｱﾒﾘｶに住むﾕﾀﾞﾔ人青年ｼﾞｮﾅｻﾝは、幼い頃から家族にまつわる様々な物を収集してきた。
ｺﾚｸｼｮﾝは、入れ歯とかｶﾞﾑの包み紙とかｺﾝﾄﾞｰﾑとか、何気ない時の何気ない拾い物。
ある日、病床の祖母から、亡くなった祖父の残した写真をｺﾚｸｼｮﾝにと貰い受ける。
ｼﾞｮﾅｻﾝは、そこに写った祖父の命の恩人ｱｳｸﾞｽﾁｰﾈを探すため先祖の地ｳｸﾗｲﾅに旅立つ。

一方、物語の語り手、ｳｸﾗｲﾅに住むｱﾚｯｸｽは、ｱﾒﾘｶに憧れﾌﾞﾛｰｸﾝな英語を話す陽気な青年。
金持ちのﾕﾀﾞﾔ系ｱﾒﾘｶ人がﾙｰﾂを求めてｳｸﾗｲﾅを旅行するのをｶﾞｲﾄﾞするという家業を手伝っているが、内心そういったｱﾒﾘｶ人達を
ﾊﾞｶにしている。
ｱﾚｯｸｽと、頑固で偏屈で自分は盲目だと主張する （ もちろんそうではない ） ｱﾚｯｸｽの祖父と祖父の獰猛な盲導犬 （ もちろんそう
ではない ） が、ｼﾞｮﾅｻﾝのｶﾞｲﾄﾞを父親から命じられる。
かくして、誰も知らない　ﾄﾗｷﾑﾌﾞﾛﾄﾞという村を探す3人と1匹の旅が始まる。




黒ｽｰﾂ、黒ﾈｸﾀｲ、きっちり整えたﾍｱｽﾀｲﾙで見るからに生真面目で無口、無表情なｼﾞｮﾅｻﾝ。
ｱﾒﾘｶ車、ｱﾒﾘｶ映画、ﾋｯﾌﾟｯﾎｯﾌﾟをこよなく愛する、明るくて人懐こくおしゃべりなｱﾚｯｸｽ。
ﾕﾀﾞﾔ人は嫌い、と言い切り、悪態ばかりついているｱﾚｯｸｽの祖父 （ ｱﾚｯｸｽはその悪態を適当に通訳 ）。
犬嫌いなｼﾞｮﾅｻﾝに何故かぴったりと纏わり付く、ｻﾐｰ･ﾃﾞｲｳﾞｨｽJr.Jr. という名の犬。
かみ合わない妙な会話を重ねながらも、彼らがだんだんにお互いを理解し合ってゆく道中はｺﾐｶﾙでﾊｰﾄｳｫｰﾐﾝｸﾞです。
豊かな緑に囲まれた無舗装の道と青空がえもいわれず美しく、ﾊﾞｯｸに流れる軽快かつどこかﾉｽﾀﾙｼﾞｯｸなﾛｼｱ音楽 （ ﾛﾏ（=ｼﾞﾌﾟｼｰ）･
ﾐｭｰｼﾞｯｸ というそうです） も心地よく。

しかしそうする中で次第に、ｼﾞｮﾅｻﾝのﾙｰﾂの背景にあるﾎﾛｺｰｽﾄや、ｱﾚｯｸｽの祖父との関わりが暗示されてゆきます。
ついに探し当てた一軒の家は、見渡す限りのひまわり畑に囲まれています。
その美しさは、ｳｸﾗｲﾅの悲しい過去と相まって心を揺さぶり、見ていて涙が出そうになります。

人間は過去の積み重ねの上にあるもの、過去と切り離しては有り得ないもの、ということについて改めて考えさせられます。
ｼﾞｮﾅｻﾝが家族のｶﾞﾗｸﾀをｺﾚｸｼｮﾝするという妙ちきりんで ” 笑える ” 趣味が実は、彼が非常に内向的であるが故に外に出難い愛情の
表現であることにも気付かされます。
ちゃらんぽらんなようでいて暖かいｱﾚｯｸｽもとても魅力的。
この旅で祖国と自分自身のﾙｰﾂを知ることになる過程も、ﾃｰﾏとしては重いのに深刻振ってないところが却って心に残ります。
そしてもちろん、ｱﾚｯｸｽの祖父と犬の強烈な個性も楽しめます。
とても好きな作品のひとつとなりそうです。



ｲﾗｲｼﾞｬ･ｳｯﾄﾞは、あの妙に整いすぎたような童顔があまり好きではありませんでしたが、この映画の、ｴｷｾﾝﾄﾘｯｸな役柄はﾋﾟｯﾀﾘでとても
よかったです。
ｱﾚｯｸｽ役のﾕｰｼﾞｰﾝ･ﾊｰﾂはｳｸﾗｲﾅ出身、NYで ｺﾞｰｺﾞﾙ･ﾎﾞｰﾃﾞﾛ というﾛﾏ･ﾊﾟﾝｸ･ﾛｯｸ･ﾊﾞﾝﾄﾞのﾒﾝﾊﾞｰとして活躍するﾐｭｰｼﾞｼｬﾝだそうです。
この、ﾛﾏ･ﾊﾟﾝｸ･ﾛｯｸ なるもの、聞いてみたくなりました。