迦楼羅(かるら)の止まり木

迦楼羅(かるら)の止まり木

仔猫物語。その1



もそもそと丸まって、動いている物体は、明らかに鳥とは違う。1、2、3、…5、6匹いただろうか。手のひらに乗っかりそうな仔猫が、頭同士をくっつけるようにして縮こまっていた。

肩身を寄せるようにして…とはこのことだろう。桜はとうに終わっていたが、時折吹いてくる風はまだ冷たい。なにか空気の動く気配がするたびに、一塊の物体と化している仔猫たちは、もぞもぞとあったかい場所を探そうとしている。

(ご自由におもちかえりください。)

鳥かごに貼り付けた紙切れには、無機質にそう添えられてあった。値札さえつけてもらえぬ“命”がそこにある…。私は、なんともいたたまれない気持ちになった。

足を止めたまま、そこを動かぬ私に気がついて、同行していた友人たちが戻ってくる。

『どうしたの?』

目線の先の、鳥かごをみつけるなり、彼女らは早速囲むようにして、口々に、『かわいいねー』と、格子越しに仔猫たちを触り始めた。塊たちのもぞもぞがいっそう激しくなる。そりゃ、かわいいさ。でもね、

『でも飼えないよねー』

誰かがポツリと漏らすと、そうだね、と皆全員が頷く。そう、この仔達に気がついたのは、何も私達だけではない。時折、(あら!)という顔をした通行人が、歩調は緩めないまま振り返っては去っていく。中途半端に手を出してはいけない…誰もが知っているのだ。かわいくて、可哀想なチビ介達のまえで、みな途方にくれた。

相変わらず、こんもりと一塊になっている仔猫たちの尻をみているうちに、私はむんずと鳥かごを掴むと、ズカズカと店の中へと入っていった。

「!?」

友人達はあっけにとられている。オズオズと店内にはいってくると、私に声をかけた。が、私はかまわずレジに進む。

『これ、ください。』

先ほどから、ちらちらと外をを気にしていた女主人は、慌てて対応した。ああ、はい、はい。

『それで、これぜんぶ?』

 …問われて、ハッと白くなった。家までこのままぶら下げてかえるか?家の人になんて言おう?ウチは店をしているから、動物はダメだといわれてるのに…勢いとは恐いものである。いろいろなことが頭を巡っていたのだが、細かいことはまったく考えていなかった…。

『…いえ、一匹だけ…。』

思わず、赤面しかけてこらえた。全部は無理だけど、代表をつれてかえる。鳥かごなんぞにいれられて、おまけに「ご自由に…」だなんて、はり紙なんか貼られて…憤慨の面持ちの私をよそに、女主人がてきぱきとダンボールを組み立て始めた。

『バスで帰られるでしょ?箱を作りましょうね、それから、エサは試供品をあげましょう。ミルクでふやかすと柔らかくなりますからね。』

『あぁ、…はい。』

空の段ボール箱をカッターで半分にして組みなおすと、手荷物用のヒモと取っ手をつけて、みるみる簡易ペットバックの出来上がり。女主人は試供品のドライフードだけでなく、カンヅメ3個をいれてくれた。

 ここの人も、自分にできることをしているのだ…。つれて帰る代表者を選びながら、なんとなく理解した。ペットショップをやっているくらいだから、もともと動物好きだろう。この仔達も誰かから頼まれたのに違いない。表の目に付くところへ置いておかなければ、引き取り手もみつかるわけがない。「ご自由に…」は、あくまで、表現のセンスの問題。

一連のことを察するふうでもなく、最後まで堂々と眠りこけていた一匹をきめると、目に付いた赤い首輪を求めた。

『これを下さい。』

ポケットからサイフを取り出す。これはサービスしてもらうわけにはいかない。それでうちの仔は“タダ”ではなくなるのだ。

1500円でおつりをもらうと、金色の鈴がちりちりと鳴る。チビには少し大きかったが、きっとすぐにピッタリになるだろう。さらに空気穴をあけてもらったダンボールを手渡しながら、「よかったわね。」と、誰に言うでもなく女主人がいった。チビ介一匹の五倍くらいの荷物になって、私は店を後にした。


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