かすみのスピリチュアル・ジャーニー

かすみのスピリチュアル・ジャーニー

2,燃えつきの始まり




2.燃えつきの始まり




 私は、ある精神科の病院に、ただ一人の心理職として採用された。

 私は、この仕事に就けたことがうれしく、一生この仕事を
やっていこという意気込みで働き始めた。

 心病む人の力になりたい、という熱意や理想はあったが、
いざ仕事を始めてみると、思ったようにはうまくいかなかった。

 何もかも、初めてで、仕事を作っていくところから、
始めなければならなかったのである。

 神経症、思春期、アルコール依存症、統合失調症、発達障害、
様々な疾患や問題を抱えた患者さんの、心理検査、カウンセリング、
グループセラピーなど、自由にやらせてもらえたが、
これでいいのかといつも迷いながら仕事をしていた。


 患者さんが少しでも楽になるなら何でもしたいと、私は、
思っていた。

 しかし、現実は、患者さんの役に立てた、という実感がもてる
ことは少なかった。

 一生懸命関わっているはずの患者さんから、突然、殴られる。

 一緒に外出していた患者さんには、脱走される。

 調子がよさそうだと思っていた患者さんの、自殺未遂の連絡を受ける。

 カウンセリングも、中断が多く、なかなか続かない。

 ある患者さんからは、今まで、社会で傷ついてきた怒りを、
ぶつけられ、三十分以上も怒鳴られたこともあった。

 なにかがあるたびに、「ああ、自分の責任だ。自分が悪いからだ。」と、
私はしだいに自信を失っていった。



 また、虐待や性的暴力などの過酷な体験のお話を聞くこともある。

 もちろん、それが仕事なのだから、お話を聞くのは当たり前だが、
私は、そのあと、自分に対して何のケアもしていなかった。

 むしろ、つらく感じるのは、自分の能力や資質が足りないからだと
責めていたのだ。



 「患者さんのことは、どんなことでも受けいれなければ」と思った。

  一見、相手を尊重しているように見えるが、そうではなかった。

 何もできない無力感や罪悪感が苦しいから、ますます頑張らなければ
いけないと思い、自分の限界も認めず「頑張って」いたのである。

 これは患者さんのためにはならない。
 しかし、当時はそれが正しいことだと信じきっていた。



 聞くことは誰でもできるし、そんな大きな影響があるとは普通考えない。

 しかし、実際は、聞くことで、カウンセラーも傷つくのである。

 最近は、「二次受傷」という言葉も出てきた。
 トラウマを持つ人の援助をしている人が、トラウマティックな
反応を起こすことである。

 大学で「アドバイスをせずに、黙って、聞くこと」が大事であると
いう教育は受けてきたが、聞くことが非常に危険な行為であるとは、
まったく教えられなかった。

 セルフケア(自分で自分のケアをする)という言葉さえ知らなかったのだ。

 自分の傷を何のケアもしないで放っておいたまま、
誰かの傷をケアすることなどできないのに。



 今ならば、失敗は、新しいことを学ぶ機会なのだと考えて、
失敗をプラスに捉えることができるかもしれない。

 初めからうまくいくことなんてないのだ。

 しかし、当時は、勉強してきたのに、資格もあるのに、
恥ずかしいという思いでいっぱいだった。

 この「恥」という感覚が、自分をどんどん蝕んでいき、
何をやっても、自分は人より劣っているような気持ちになっていった。


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