ベル(MIX:享年2歳6ヶ月)

初めての友達 ~ ベル ~

ベル





昔、東京に住んでいた頃、私はとても身体が弱く、軽度ですが喘息持ちでした。
そして、自閉症でした。今では信じられない話です。
毎日病院ばかり行っていて、小学校にもほとんど行っていません。

当時両親はラーメン屋を営んでいて、毎日朝早くの仕込みから始まり
深夜の後片付けまで、ほとんど家に居る事はありませんでした。
店に行けば両親には会えましたが、お店も忙しく、行っても邪魔になるので
朝はトーストを焼いて食べ、夜は母がテーブルに置いて行ったお金で
マンションの隣にあるレストランで外食をする。
私と2つ下の弟は、ほぼ2人暮らし状態での生活でした。

でも、私が小学校3年の時に、両親は店をたたみ、母の実家のある
岩手県に引っ越す事になりました。

理由は私の喘息と自閉症でした。
両親が家にいなくて、子供2人だけというのも問題だし、何より
空気のいい、自然の多い所でなら、私の2つの病気も良くなるのではないか。

両親の大きな決断でした。


岩手では、一軒家の借家を借りる事になり、引越しをする1ヶ月前
父からこんな事を言われました。


「子犬飼うぞ~!」


実は私は、犬が嫌いでした。
子供の時、喜んで飛びついてきた近所のワンコが自分より大きくて
その記憶が強烈に残ってたためです。
その事を父も知っていました。
それでも、父は飼うと言ったのです。
私に犬を育てさせることで、何かが変わるんじゃないか・・・と
直感で思ったんだそうです。


岩手に引っ越してきて、すぐに大家さんの所へ連れて行かれました。
案内されたのは、庭でした。
庭に1つの犬小屋があり、中型犬くらいのMIX犬と、まだ生まれたばかりの
小さな小さな子犬が2匹いました。


「この子犬が、お前が育てる子犬だよ」


『子犬』というものを初めて見た私は、小さくて目も見えないのに
お母さんワンコのおっぱいを一生懸命吸っている姿を見て
言葉にならない感動を覚えました。
それから、毎日大家さんの庭に行き、その子犬の成長を見守りました。


それから2ヶ月後。
この日も、大家さんの家の庭で、子犬を見ていました。
すると大家さんがやって来て


「大きくなってきたから、もうそろそろあげるよ。どっちの子がいい?」


と、聞かれました。
1匹は、クリーム色の毛に、茶色の模様が入った子。
丸々と太っていて、とっても元気で、いつも私が小屋に近づくと
好奇心で寄ってきてはママの所へ逃げていて、とっても元気な女の子。
もう1匹は、クリーム色の毛に、グレーのダイヤの模様が背中に入った子。
おっぱいの吸い方も弱々しく、触ってもじーっとして無抵抗で
身体も少し痩せ気味の女の子。


私は迷わずに選びました。
自分にとても良く似た、弱い子の方を。


そしてその子は、クリスマスの日に我が家にやってきました。


『ジングルベル』


ここから、この子は 『ベル』 という名前を付けました。

神様がくれた、今までで一番の、最高のクリスマスプレゼントでした。



私は毎日ベルに朝ご飯をあげ、遊んでから学校へ行きました。
転校してきてから2ヶ月経っても、まだ友達はいませんでした。
友達どころか、標準語を話すというだけで
「都会人ぶりやがって」「気取ってんな!」といじめられました。
弟も、毎日ランドセルに砂を詰められたり、石を投げられて
頭を縫うくらいのいじめを受けていました。
それでも家に帰れば、ベルがしっぽを振って迎えてくれる。
このイヤな学校が終われば、ベルといっぱい遊べる。

それだけを楽しみに、毎日を過ごしていました。


夏は一緒に川で遊び、冬は一緒にそりに乗って、堤防の斜面を
滑って遊んだり。
母に叱られた時は、泣きながらベルの犬小屋に入って
ベルと一緒に眠ったりもしました。
毎日毎日、ベルと一緒に過ごしました。
何をするのにも、必ずベルが一緒。
私にとってベルは、心強い、裏切る事の無い、唯一の友達でした。


岩手に引っ越して来て、2年が経ちました。
ベルと過ごすようになって私の自閉症も良くなったものの
父とは母は離婚し、母と私と弟とベルだけの生活になりました。


相変わらず私へのいじめは続いていたものの、友達のいなかった私にも
やっと1人だけ友達が出来ました。

その子も両親が離婚し、身体も弱くて、私ととても良く似た境遇の子でした。
いつも学校が終わると、図書室でその子と話をしたりして
過ごすようになりましたが、それでも家に帰るとベルと過ごす事に
変わりはありませんでした。


そして、その友達が初めて我が家に遊びに来た日。
友達と私はまずベルと遊び、家に入りました。
友達と怖い話をしていて怖くなったので、やっぱりベルを連れて
堤防に遊びに行こうという事になり、ベルの所へ行ったら。



ベルは死んでいました。



とっても穏やかな顔をして、まるで私に友達が出来たのを
きちんと見届けたよ、という顔をして、静かに眠るように死んでいました。


友達と家の中で怖い話をしていたのはたった15分でした。
15分前までは、あんなに元気に一緒に遊んでいたのに。


まだ幼かった私は「もしかすると生き返るかもしれない」と
ずっと信じていました。


母に「お墓に入れてあげようよ。天国へ行けないよ」と言われても
ベルの死を受け入れる事が出来ず、ずっとビニールシートに包まれた
ベルのそばから離れませんでした。


ベルが亡くなって、1週間が経ちました。
それでもベルは、まだお墓に入る事無く私のそばにいました。
母の説得で、ベルが亡くなって10日目に、ベルはお墓に入りました。
たった2年6ヶ月の、短くてはかない命でした。


今でも時々、ベルの事を思い出しては、心から感謝しています。
今こうしてたくさんの友達が出来て、周りにうるさいと言われる位
人と普通に話せるようになったのは、ベルのおかげだと。


やっぱりベルは最高の親友でした。





「キリタのお話」へ進む→

←「15匹の天使達」メニューに戻る











© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: